卵の創世記

星蝶

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EpisodeⅡ

2-18 少女、営業終了のお知らせ

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 土であったはずの大地が突如として砂に変わった。
 地属性の魔法ではどうやってもできない事象が起きた。
 魔法とは精霊に魔力を渡して制御し切れない魔法を精霊に任せて行使する物である。
 そして、精霊魔法には不可能なことがいくつもある。例えば、次元に穴を空けて異世界から物質を得る、などと言ったことは不可能だ。
 この世界の害悪になる恐れがあることを精霊は行わない。
 そして、今回正面戦闘で突如としてできた砂漠。その土地の性質を根本から変えるようなことはできない。錬成術と呼ばれる物も物質変換ではあるが、規模があまりにも違う。加えて、土地の性質変換などという行為は一瞬にして星の生命を削ることになる。削られた分回復するのにかかる時間は万年単位で必要だ。

「クソっ、どういうことだ!!」

 後方に待機していた御使いの一人が声を荒らげた。

 神の力、その一部を借り受けている彼らは今回の事象に理解が追いついていなかった。
 土地の性質変換を彼らでもできる。だが、それは数十年掛けて行う大仕事。
 だからこそ、突如として起きた混乱に彼らもまた混乱していた。

「何が! 何が起きたんだ!!」

 理解したくないからこそ、声を出す。

「俺の初陣がこんな! こんな失敗になるなんて……」

 誰しもが失敗を味わう。敗北をする。
 だが、彼は違う。失敗しようと敗北しようと、次の機会では挽回して来ていた。

 初陣という記念すべき物語が失敗だとか敗北などと言われることを受け入れることができない。

「落ち着きなさい。まだ、敗北するって決まったわけじゃないでしょ? いくら死のうが関係ないわよ。最後、そう最後に勝ってればいいのよ」

 最後の最後で勝利を手にすればいいと彼女は言う。けれど、違う。違うのだ。何もかもが間違っている。
 彼女は魔法という物を理解しておらず、『詠唱』と『魔力』のみがあれば魔法が自動で生まれると思っている。

〈カゲロウ〉はその性質上、行うことはできても地形変化させることなど不可能。
 エクリーは精霊の干渉を遮断し、自身が持つ演算処理能力で以て魔法――いや、魔術を行使した。〖模倣者〗で作ったり、無理矢理こじ開けた擬似演算処理領域を使い約四時間と指定領域にある魔力を根こそぎ奪い取ってようやく発動した。

「大丈夫よ。だって、私達は御使い。神の力を世に知らしめる現人神なのよ」

 人智を超越した概念生命体である『神』より力を授かった御使い。地上において、御使いよりも個で優るものなど存在しない。加えて、ここには複数の御使いがいる。
 竜族が相手であっても撃退可能な力がある。

 負けるのはおかしいのだ。
 異常なまでの増員に加えて、過剰戦力。総合的には東の大国より劣るやもしれないが、一軍だけみればその異常さに気がつく。

「どうやら、目的のひとつを見つけたみたい。『聖銀』で塵にならなかったのはわからないけれど――」

 伝達より聞いた言葉を彼女は男に伝える。

「そうか……まあ、最低限の目的を達成できるんなら参加した甲斐があったってもんだな」
「ええ、そうね。あの時の敗北を……」

 殺意が漏れ出る。

「――今度こそ敗北という味を、屈辱を身をもってその血肉に教えてやらないとな」

 歪んだその笑みはあまりにも、神の代弁者であり代理者であるはずの御使いとは思えないほどの神聖から離れた物であった。


◇◆◇


 エクリーとシャロ=プスはやって来た二十人の内半分を殺し、半分を見逃した。
 自分らはバレていないと思っていたから死闘を演じる必要はなくなったため、予想よりも時間が余ってしまった。

「正面の敵ほぼ全ては〈カゲロウ〉に捉えてあるから、今日の出番はもうなしかな」
「にゃ? 終わりにゃ?」
「うん、終わりだよ。まあ、御使いが暴走すればその限りじゃないけど……」少し思案を巡らせたのか間を開けてから続ける。「ないね」
「ありえにゃいかにゃ?」
「うん、ありえないよ。淡い期待に込めるよりも明日に備えて準備しておくべきでしょ」
「にゃー」

 攻め手と守り手だと攻め手は数が必要だが、この世界だとその限りではない。たったひとりで城門を破壊し、城下の誓いを結ばせることをした者が過去に何人もいる。
 攻め手の有利は攻める時間を決めれることだ。体調を最善にし最適の状態で攻めることができる。

「明日は早いしね」
「そんにゃに早いにゃ?」
「丑三つ時だよ」

 人間たちが持つ闇夜でも判別することが可能となる魔道具は一種のソーラーエネルギーで動いているため、陽が落ちてから十時間程度しか持たない。
 そのため襲撃ならばもう少し遅い方がいいのだが、もしもの時に備えて丑三つ時に御使いパーティが動き出す。

「暗くなると夜目が働く者――つまりは吸血鬼である私が出るって考えてるだろうしね」

 今日戦闘に参加した中で種族的に夜目が効くものはエクリーとシャロ=プスを除いて誰もいなかった。
 そのため、夜間に不穏な影がありそれを撃退する場合、エクリーたちがやって来ると彼らは思っている。

 そのため、今日の戦闘では御使いという戦力を温存しておき、目標であるエクリーが何処にいるのかを探っていた。

「後方に送るのは御使いだけかな。残りは戦力が後方に行かないようにするために村に魔法戦に持ち込むね」
「ダラントにゃーがやっつけるにゃ?」
「うん、その時のために今回は相手がどんな魔法を使うか見るに徹してもらって……矢や投石は他の人に〈矢避け〉や〈風壁〉とかを張ってもらう予定だよ」
「考えてるにゃー」
「そりゃあ、考えるよ。だって、私の今後が決まるんだし……」

 敵の情報を様々な観点より集めそれらを集計して出した答え。
 情報収集にも余念はなく、今彼らは楽な仕事で死ぬようなことはないと聞いていたと騒ぎだした貴族の親類が暴れている。

(殺しに来ておいて、死にたくないとか、お笑い種でもここまで来ると憐みしか出てこないよ)

 騒ぎ出す貴族を止めるために、それと同等かそれ以上の爵位を持つ者が対処を行っている。

(徴兵のみなら、ダラントの伏兵に任せて大丈夫かな)

 空を見上げて真ん丸の月を見ると仄かに赤くなっている。

「今日は真っ赤な月、か……」
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