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第7話 領主様の身体は特別製だったようです

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 あれ? 僕どうしてあのとき気絶したんだっけ。気絶する直前に何かかものすごくおっかない物を見た気がするんだけど……どうしても思い出せない。どこか引っかかりを覚えるが助けてくれたのだから礼ぐらいはしておいた。
 
 「ところでコヨミ君、どうだねキミもこいつに触れてみたくはないか? メルはこう言ってはいるが実際触れてみないと物の良さがわからなかったりもする。ふさふさした毛並みは気持ちが良いぞ」

 ぐりぐり、と剥製とかした虚城王犬ヴォルノークウルフの頭を撫でまわす。
 そういえば前世の家では犬を飼っていたが、毛並みがもふもふしていてとても気持ちがよかったのを思い出した。
 触っても噛みつかれるわけでもないしと、伯爵の言うままに手を伸ばす。だが中指が振れようとした瞬間メルさんに腕を掴まれた。

 「ストップです! ホダスティルモ様、いくら何でも悪ふざけが過ぎますよ」

 大人びたメルヴィーには珍しく怒気の見え隠れする。

 「そうかね? 本当に良い毛並みだから是非にとも触れて、同好の士になって欲しかったのだが……」

 と、残念そうに肩をすくめながら犬の頭を悲しそうに撫でた。

 「まだそんなことを――わかってて言っていますよね? 虚城王犬ヴォルノークウルフの毛は柔らかそうに見えてその一本一本が鉄のように硬いんですよ、不用意に触って手が穴だらけになったらどう責任を取るおつもりなのですか」
 
 「そうだったかな? 私にはそこらの犬っころとさして変わらぬように感じるが、おぬしらこそ身体の鍛え方が足りんのではないか?」

 身体を鍛えたところでどうにもならないと思うんですけど……。

 「無理です。誰でもあなたのようになれるわけではないのですからもう少し周りに配慮してくださいと、いつになったら理解していただけるのですか」

 メルさんて怒ると恐いんだなぁ。
 しかし、ホダスティルモはひょうひょうとした様子でメルヴィーの言葉を聞かなかったことにして話題を変えた。

 「立ち話もなんだ。まぁ座りたまえ、メルお茶を出しなさい」

 話はまだ終わってないと顔に掛かれたままのメルヴィーはけれど、命令なら仕方ないとばかりに不機嫌そうな顔そのままに部屋を出て行った。ホダスティルモは顎髭をいじりながらその様子を満足そうに見送るとコヨミとシノを部屋の脇に備えられた大理石のテーブルへと導いた。ソファーに座った瞬間その心地のよさに声が漏れた。見たところ何かの革でできているようだが怖くて聞けなかった。
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