恋と美容術で男爵家のオテンバ令嬢アカリーヌは天下を取りに行く

乙巴じゅん

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1章 オテンバ令嬢アカリーヌの恋と仕事が動きだした

アーホカとの対立

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 キャリロン王女は子爵家令嬢の二人に声をかけるが、アカリーヌに気づいたらしく近づいてきた。歩き方はスカートの揺れに合わせた足運びで優雅だ。
「アカリーヌ。やる気まんまんじゃな。売り上げの一割を払えば良い、あとは儲けである。さっそく始めてよいぞ」
 一割なら、貢物の5割よりお得感がある。しかし、未だ迷いはあるし、準備もしていない。
「市場のコーナーもございますし。竜の涙を持ってきておりませんので」
「慌て者じゃな。それも愛嬌であろう。取りに行けばよい」
(せっかちだねー。まだ、施術をするかしないか迷ってるけど)
「フーモトは、遠うございます」
「まあよい。明日からでも構わぬ。施術のやり方はアーホカに教われ」
 さっき控えていた女性に合図すると、アーホカらしい女性が勿体ぶったように歩いてくる。
「王女様に指名いただき光栄です」
 丁寧にお辞儀をすると、アカリーヌへ説明するつもりらしい。
「施術伝授の手数料百マニーを前払いしていただきたい」
(なんだ、さっそく商売か。あまり付き合いたくない)
「いえ、ハルナ様に教えていただきましたから。ご遠慮もうしあげます」
 あの頬を叩く方法はやりたくもないし、椅子の使い方は分かった。それに、百マニーは一万円相当だろう。
(大金などもってないし、払う気もないからね)
 アーホカは興味深いというか金儲けしたいような目つきでしつこい。
「それじゃあ、他国のクリームは。マッサージに最適でお勧めしたい。三十マニーでお売りいたそう」
「椿油がございます。あの。施術の料金は決まっておられるのでしょうか」
 それが聞きたい。竜の涙は五マニーで売っているし、施術して売り込みたい。
「庶民の使うあれか。やはり男爵家でございましょうねー」
 見下した言い方だ。仲良くはしたくない女性。
(なにさっ。そっちは、お情けで爵位を継いだ子爵の子でしょ。あとからハルナ様に料金の相場は聞こうと思う。それでも、ちょっと言い返してあげる)
「領地を所有しております。アーホカ様は、どちらにご領地はおありでしょうか」
 領地を所有しているならアカリーヌも顔見知りだ。屋敷だけ構える子爵も多いが、それは領地を所有するよりは格下なはず。
「失礼なことを。イケスカナイ王妃のご実家で、中立をまもり家督をつぐタニマノ伯爵の叔父が先祖のショーモナイ子爵家だ。腐っても鯛なのよ。お判りかしら」
(聞くだけで目まいがして覚えられない系譜を威張って言うか)
 つまり領地はないということ。やり込めてやろうと、腕を組み、言葉を構える。
「爵位は美容術に無用じゃ」キャリロン王女が口を挟む。
 あまりトラブルは歓迎しないふうだ。やはり王家育ち。
「施術の料金であるか」
「はい。竜の涙を売れば良いと考えておりますが」
「技術など見えないものにも対価を払うであろう。施術も一緒じゃ。まえの方たちは二十マニーを頂戴いたしてた」
「それが相場かと。贅沢でしょうから、美容は」
 衣食住に直接は関係ない。それでもキャリロン王女に思惑があるらしい。
「綺麗になるのは女性の望みじゃ。二十マニーなら、無爵でも体験できるであろう。私に近づくために自分を磨けばよい」
 さらっと無爵というが、正式には親が爵位を持つ。子供は準貴族だし、無爵は子爵の子供を指してもいる。男爵の令嬢にも当てはまる。
 キャリロン王女は自分中心だが、美容に感心を持って女性が綺麗になることには同感できる。
「参考にさせていただきます。きょうは見学でございます。ほかの場所も見てまわりたいと」
 ついでだから、商店街で買い物をしたい。ダニエルへのプレゼントもそうだが、髪を束ねるのは、新しいのを買おうと考えた。
(市場でも施術をするとなれば使うよね)
「そうであるか。私が案内しよう」
 さっそくと歩み寄る。ちょっと馴れ馴れしい面もあるらしい。
「いや、肩がこる。あっ。違いました。恐れ多いことで、ご遠慮もうしあげます」
(ニーバンの言葉を覚えてしまったよー)
「肩が? どこかで聞いたことばじゃが。ま、良い。なにか在ったら合図いたせ。私は部屋におる」
「御殿へは。ちょっと恐れ多い」
 男爵家の娘が用事があるからと行ける場所ではない。
「本丸御殿の二階に住んでおる。ほれ、見えるであろう」
 振り返れば、すぐ近くの王城の塀から、煉瓦造りの御殿は二階が露わになっている。人の動きは分かる距離だろう。
「のろしでも上げればよろしいのでございますか」
「旗があるゆえ。気づいたら参上してあげよう。着替えねばならぬから、あとは好きにいたせ」
 スカートを翻して、王城の門へ向かう。ここは裏手になっているが、奥に三層の天守閣があり、金色のしゃちほこが太陽で輝く。
 神話時代の日本と外国の風俗どころか、城もごっちゃ混ぜになり、歴史家を混乱させているのがアケハル式ジャポネ文化の特徴だ。



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