【完結】君の手が、入道雲を彫る

江夏みどり

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第6章

第5話 犯人を追え

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 放課後。雪像班の活動を終えた霜矢と深冬は、それぞれ用事があるとかで早々に帰っていた。

 あたりはかなり暗く、雪が舞っている。本格的に降り始める前に電車に乗りたい。
 夏樹も帰り支度を済ませて正門へ向かうと、バケツを持った鹿田と鉢合わせた。

「おう、時原か」
「どうも……」

 バケツの中を見てぎょっとする。中には土がたっぷり詰め込まれていた。

「それ……」
「これか? なんか中庭のあたりにいくつか置いてあってな。用務員さんか園芸部の忘れ物だと思うけど、雪降ってきたし、屋根のある場所に移動させてたんだよ」

 鹿田は悪びれる様子もない。
 しらばっくれているようにも見えない。

「……もしかして、前にもこんなことありましたか?」
「ああ、そういえばあった気がするな。あの時も俺が運んだっけ。翌日にはなくなってたから、誰かが戻したんだと思ってたけど。あ、おい」

 嫌な予感がする。夏樹は走り出していた。

 中庭にバケツはなかったが、土をこぼした痕跡があり、そこから点々と足跡が続いていた。
 雪で足跡が消える前に、急いで追いかける。

 嫌な予感は的中したようで、足跡は裏門へと続いている。

 白い息をつきながら裏門に到着し、夏樹たちの作った雪像にバケツの土をかけようとしている人物の手を掴んだ。

「……お前だったんだな、加藤」

 千佳がぎょっとしたように夏樹の顔を見た。

「放して!」

 千佳の手からバケツを奪い取り、少し距離を取る。

「中庭に土撒いたのもお前だろ?」
「……だから何」
「なんでこんなことすんだよ。別に俺たちお前に迷惑とかかけてねえだろ。嫌がらせか?」

 千佳がうつむいて、コートを握りしめた手を震わせる。

「そうだよ。嫌がらせ。須縄くんが困ると思ってやった」
「お前須縄のこと嫌いなの? そんなそぶりしてなかったけど」

「私は特進クラスに落ちたのに、須縄くんは受かった。あいつ雪像だなんだって言って遊んでばっかなのに。必死に勉強した私が失敗して、あいつが受かった。あいつのことも、失敗させてやりたかった」
「はっ、べらべらしゃべるじゃん」

 夏樹が馬鹿にしたように笑うと、千佳が真っ赤になって夏樹を睨んだ。

「言いふらしたいなら言いふらせば。何人があんたの言うこと信じるか知らないけど」
「いや、普通に誰にも言わねえけど」
「はあ!?」
「わかるんだよ、お前の気持ち。自分より先に行ってる奴見ると、壊したくなるよな」

 千佳が虚を突かれた顔になる。

「わ、私の悔しさなんて、誰も知らないのに……」
「知らなかっただけだよ。今こうして聞いてんじゃん。須縄にも言わない。あいつ、同級生を疑いたくないだろうから」
「そんな……私、だって、馬鹿みたいじゃん、そんなの……」

 千佳の目からせきを切ったようにぽろぽろと涙があふれ始めた。

 あふれて、あふれて、止まらない。
 しゃくりあげて、堪えるように震える息を吐いている。

 あー、こいつはこいつで限界だったんだな、と気づく。
 霜矢ならこんなときどうするだろうか。

「はー……しょーがねーな。なんか奢ってやるよ。500円までな」
「はあ!?」
「何にする? バーガー? ポテト? アイス?」
「んなもん夕飯前に食べたらデブになるでしょ」
「はは、いいだろ今日くらい」

 夏樹が笑うと、千佳が涙に濡れて赤くなった目を細くした。

「あんたもたいがい馬鹿ね。しょうがないからドーナツ奢らせてやるわ」
「1個までな」
「はあ? 500円なら3個はいけるでしょうが!」

 千佳にどつかれながら並んで正門まで歩いた。

 校舎のガラス窓には教室の明かりがぼんやり映り、誰かが黒板を消すような音が漏れていた。
 これでいいのかはわからなかったが、ただ気分は悪くなかった。

   ×   ×   ×

 翌朝、裏門にやってきた深冬が大きな声を上げる。

「あー、また土が落ちてる!?」
「まあまあ。これくらいなら少し削れば取れるだろ」

 霜矢がなだめるように言って泥部分を掬い始めた。

「でも、また同じことが起きたら……」

 深冬はまだ不安そうだ。
 夏樹は少し笑って、霜矢の隣にしゃがんで土をスコップで掬った。

「たぶんもう、二度とないよ。たぶんな」


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