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第一章
道のり
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俺は彩香にお母さんの住む場所を聞いた。
今いる広場から更に山道を登っていくと人があまり住んでいない山中に着く。
その山中には昔小さな集落があったそうだがライフラインも通っていなく現代人が住むには不便な場所で今はほとんど人が住んでいない。
彩香曰く県が空き家と土地をほとんど無料で提供していて都会の人に田舎暮らしを斡旋しているとのことだ。
彩香の母は変わった人だったようで自給自足に興味を持ってこのような場所に住んでいるとのこと。
「母には私のことを話さないで避難をお願いしてください。母には信じてもらえないかもしれないけど何とか危険を伝えてください」
「この時間に行ってお母さんに会えますか?」
俺が危険を伝えに行っても誰もいなくては伝えようがない。帰ってくるまで家の前にいるのも不審だろう。
「大丈夫です。母は専業主婦ですから。結婚相手と子供は仕事と学校でも母は家にいるはずです」
「なるほど。あとは信じてもらえるかということですね」
彩香は頷いた。
信じてもらうためには何か根拠が必要だろう。根拠をどうするのかを考える必要はありそうだ。
「私に良いアイディアがあります」
彩香はそう言うとカバンから一枚の紙を取り出した。
「避難してもらうのではなく土砂崩れのときにあの場所にいなければ良いのです」
彩香は言いながら紙にサラサラと文字を書いていく。内容は夏祭りのチラシのようなものだった。
「3年前の午後3時半。この時間に土砂崩れは起きました。この世界が3年前とまったく同じなら発生の時間も同じはずです」
「なるほど。夏祭りがあると嘘のチラシを渡して家族で来てもらうんですね」
3年前の7月6日は土曜日だった。家族全員犠牲になったのは学校も仕事もお休みだったからだ。
「はい。ただ明日は朝から雨が降ってしまうでしょう。なので今日の夜から町に降りてきてもらわないといけません」
彩香はあっという間にチラシを完成させた。
彼女は絵の才能があるらしい。
今の一瞬で書いたとは思えないクオリティのチラシだった。
そのチラシには七夕祭りの内容が書いてある。
「あ、ちなみこのチラシの内容は嘘ではありません。胡桃町では七夕の前日から2日間小さなお祭りをしています」
「え!そうなのですか?」
「はい。ただ母の住んでる場所は町から離れてますからね。3年前は参加してなかったようです」
つまり彩香の母を救うには七夕祭に興味を持ってもらい参加してもらう必要があるということだ。
「総司くん。このチラシを渡して母を七夕祭に参加させてください。お願いします」
彩香は真っ直ぐ俺を見つめていた。
七夕祭の詳しい話を彩香に聞いたところ7月6日と7月7日の2日間に渡り露店や出し物もあるお祭りらしい。
毎年胡桃町では多数の人が参加していて3年前もこのお祭りのために町に降りてきていた人は助かったそうだ。
彩香はチラシを本格的に加工する為にカバンから色鉛筆を出した。
なぜ色鉛筆なんて持っているのだろうと思った。俺が不思議そうに見ていると彼女は小さく微笑んだ。
「私、高校の時は美術部だったんです。今でも絵を描くのが好きで普段から絵を描く道具持ってるんですよ」
「へえ、、普段から絵を描いてるんですね。通りで上手いわけだ」
俺は感心しながは彩香のチラシ作りを見ていた。
チラシが完成したのは午後1時だ。俺は彩香がチラシを作っている間に町まで行き簡単な軽食を買ってきた。
「彩香お疲れ様。お昼買ってきたので食べてください」
そう言ってサンドイッチとお茶を渡した。
「ありがとうございます!あ、お金」
「大した金額じゃないですから。気にしないでください」
俺は彼女がカバンから財布を出そうとするのを制した。
「ではお言葉に甘えます。ありがとうございます」
彼女は嬉しそうにサンドイッチを頬張っていた。俺はその姿を見て愛おしいと思う感情を感じた。
2日間一緒に過ごして俺は彩香に特別な感情を抱きつつあるのを感じた。
母を思う優しい気持ち。大切な人を守ろうとする強い行動力。
俺は彩香に惹かれていた。
時刻は午後1時半。俺達は彩香の母がいる集落に向かった。今いる広場から更に山道を登る。道は整備されていて車は通れるようになっていた。整備されているとはいえ山道だ。登るのはかなりキツかった。男の俺でもキツいのだから彩香はもっとキツいだろう。30分くらい歩いたところで彩香のペースが少し落ちてきた。
「大丈夫ですか?少し休みましょう」
俺は彩香を木の幹に座らせて休むことにした。彩香は少し足を引きずっているようだった。
「足痛いんじゃないですか?少し見せて下さい」
俺は彩香の靴を脱がせた。すると靴下の下は靴ズレをしていて血が出ていた。
大丈夫ですと言う彼女は痛みに顔を歪めていた。
「大丈夫じゃないですよ」
俺は彩香に対して背中を差し出した。
「いやっ!悪いですよ!私重いし」
「俺こう見えても鍛えてますから。彩香一人くらい背負うのはなんてことないです」
彩香は少し迷った様子だったがしばらくすると俺の背中に身を委ねた。
「重くても知りませんからね」
彼女を背負って立ち上がる。
「全然重くないです。むしろ痩せ過ぎじゃないですか?」
俺が笑いながら言うと彼女は恥ずかしそうにしていた。
背中に彼女の温もりを感じながら山道を歩いていく。心拍数は疲れとは違う要因で上がっていた。
今いる広場から更に山道を登っていくと人があまり住んでいない山中に着く。
その山中には昔小さな集落があったそうだがライフラインも通っていなく現代人が住むには不便な場所で今はほとんど人が住んでいない。
彩香曰く県が空き家と土地をほとんど無料で提供していて都会の人に田舎暮らしを斡旋しているとのことだ。
彩香の母は変わった人だったようで自給自足に興味を持ってこのような場所に住んでいるとのこと。
「母には私のことを話さないで避難をお願いしてください。母には信じてもらえないかもしれないけど何とか危険を伝えてください」
「この時間に行ってお母さんに会えますか?」
俺が危険を伝えに行っても誰もいなくては伝えようがない。帰ってくるまで家の前にいるのも不審だろう。
「大丈夫です。母は専業主婦ですから。結婚相手と子供は仕事と学校でも母は家にいるはずです」
「なるほど。あとは信じてもらえるかということですね」
彩香は頷いた。
信じてもらうためには何か根拠が必要だろう。根拠をどうするのかを考える必要はありそうだ。
「私に良いアイディアがあります」
彩香はそう言うとカバンから一枚の紙を取り出した。
「避難してもらうのではなく土砂崩れのときにあの場所にいなければ良いのです」
彩香は言いながら紙にサラサラと文字を書いていく。内容は夏祭りのチラシのようなものだった。
「3年前の午後3時半。この時間に土砂崩れは起きました。この世界が3年前とまったく同じなら発生の時間も同じはずです」
「なるほど。夏祭りがあると嘘のチラシを渡して家族で来てもらうんですね」
3年前の7月6日は土曜日だった。家族全員犠牲になったのは学校も仕事もお休みだったからだ。
「はい。ただ明日は朝から雨が降ってしまうでしょう。なので今日の夜から町に降りてきてもらわないといけません」
彩香はあっという間にチラシを完成させた。
彼女は絵の才能があるらしい。
今の一瞬で書いたとは思えないクオリティのチラシだった。
そのチラシには七夕祭りの内容が書いてある。
「あ、ちなみこのチラシの内容は嘘ではありません。胡桃町では七夕の前日から2日間小さなお祭りをしています」
「え!そうなのですか?」
「はい。ただ母の住んでる場所は町から離れてますからね。3年前は参加してなかったようです」
つまり彩香の母を救うには七夕祭に興味を持ってもらい参加してもらう必要があるということだ。
「総司くん。このチラシを渡して母を七夕祭に参加させてください。お願いします」
彩香は真っ直ぐ俺を見つめていた。
七夕祭の詳しい話を彩香に聞いたところ7月6日と7月7日の2日間に渡り露店や出し物もあるお祭りらしい。
毎年胡桃町では多数の人が参加していて3年前もこのお祭りのために町に降りてきていた人は助かったそうだ。
彩香はチラシを本格的に加工する為にカバンから色鉛筆を出した。
なぜ色鉛筆なんて持っているのだろうと思った。俺が不思議そうに見ていると彼女は小さく微笑んだ。
「私、高校の時は美術部だったんです。今でも絵を描くのが好きで普段から絵を描く道具持ってるんですよ」
「へえ、、普段から絵を描いてるんですね。通りで上手いわけだ」
俺は感心しながは彩香のチラシ作りを見ていた。
チラシが完成したのは午後1時だ。俺は彩香がチラシを作っている間に町まで行き簡単な軽食を買ってきた。
「彩香お疲れ様。お昼買ってきたので食べてください」
そう言ってサンドイッチとお茶を渡した。
「ありがとうございます!あ、お金」
「大した金額じゃないですから。気にしないでください」
俺は彼女がカバンから財布を出そうとするのを制した。
「ではお言葉に甘えます。ありがとうございます」
彼女は嬉しそうにサンドイッチを頬張っていた。俺はその姿を見て愛おしいと思う感情を感じた。
2日間一緒に過ごして俺は彩香に特別な感情を抱きつつあるのを感じた。
母を思う優しい気持ち。大切な人を守ろうとする強い行動力。
俺は彩香に惹かれていた。
時刻は午後1時半。俺達は彩香の母がいる集落に向かった。今いる広場から更に山道を登る。道は整備されていて車は通れるようになっていた。整備されているとはいえ山道だ。登るのはかなりキツかった。男の俺でもキツいのだから彩香はもっとキツいだろう。30分くらい歩いたところで彩香のペースが少し落ちてきた。
「大丈夫ですか?少し休みましょう」
俺は彩香を木の幹に座らせて休むことにした。彩香は少し足を引きずっているようだった。
「足痛いんじゃないですか?少し見せて下さい」
俺は彩香の靴を脱がせた。すると靴下の下は靴ズレをしていて血が出ていた。
大丈夫ですと言う彼女は痛みに顔を歪めていた。
「大丈夫じゃないですよ」
俺は彩香に対して背中を差し出した。
「いやっ!悪いですよ!私重いし」
「俺こう見えても鍛えてますから。彩香一人くらい背負うのはなんてことないです」
彩香は少し迷った様子だったがしばらくすると俺の背中に身を委ねた。
「重くても知りませんからね」
彼女を背負って立ち上がる。
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