螺旋列車

ryokutya

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第一章

別れ

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彩香の待つ神社に着き鳥居をくぐる。厳かな雰囲気で蝉の声だけが響いている。
石畳をしばらく進むと本殿が見えてきた。
本殿の前にある段差に彩香は座っている。
「総司くん。無事に七夕祭り誘えたみたいですね」
「はい。ただあの家にいた女性は毎年お祭りに参加していると言っていました」
「、、、」
彩香はただ真っ直ぐに空を眺めている。
「あの家の人は彩香のお母さんじゃないですよね?」
「そしてこの世界は彩香の記憶の世界でもない。違いますか?」
俺は捲し立てるように言った。
彩香は何も言わず空を眺めている。
しばらくして俺を見つめると何か決心したような表情で話始めた。
「私が今から話ことしっかり覚えていて」
そう言うと彩香は立ち上がり本殿の裏手に向かい歩き出す。
俺はそれに続いた。
本殿裏手は広い空き地のような場所になっていた。その中心には祠がある。
「3年前の土砂崩れは何故起きたのか。それはここに植えてあった御神木を抜いたからです」
彩香は祠に目を向けながら続けた。
「昔。この辺りの集落も人が住んでいました。元々雨が多く人が住むには危ない地域だったけど御神木を植えて災害が起きないよう祈りを捧げていました」
「昔の人は信仰深い方が多かったんですね。御神木にお供え物をしたり年に一度巫女の舞をしたりしていたそうです」
「しかし時代は進み信仰深い人も減っていき次第に集落から人も少なくなっていました」
俺は彩香が話しているのをただ黙って聞いていた。何か大切なことを伝えようとしてくれいることがわかったからだ。
「今となってはほとんど人は住んでおらず田舎暮らしをしたい都会の方が移住してきたり元々この土地に住むお年寄りしかいなくなりました」
「そこで役所の人はこの集落に住む人を移住させてこの山の斜面全体に大規模なソーラーパネルを作る事業を考えました」
「住んでいた方々の多くは役所からお金をもらい別の土地に移住することに不満は無かったそうです。しかし一定の家族は思い入れのある土地から移動したくなく残る選択をしました」
「役所は残った人達の家は避けるようにする形で事業を進めようとしました。そこで最初に手をつけられたのがこの場所です」
彩香は手を広げた。
「この場所には御神木がありました。昔の人々が信仰深く祀っていた木です。この場所を開拓すると聞いた近くの神主達は強く反対しました」
「しかし一般の人から見ればも整備していないただの大きな木です。役所の方は雇った他の神主達に地鎮祭をしてもらい伐採することにしました」
「それが3年前の6月のことでした」
「それから一ヶ月後にあの土砂崩れが起きた。御神木のせいなのか地盤が緩んだのかはわかりません。しかし今までどれだけ雨が降っても起きなかった土砂崩れが起きたのは事実なのです」
「役所は土砂崩れによって被害が出たことにより事業を進めることができなくなりました」
「何も無くなったこの場所に周りの
神社にいた神主達は新しく神社と祠を建てて御神木の代わりにしようとしたようです」
そう言うと彩香は祠の前で手を合わせた。
「この土砂崩れで母は亡くなりました。母はこの場所が好きだったのですね。役所からの立ち退き催促も断っていたそうです」
彩香は話ながら空を仰ぐ。
俺は彩香の話を聞いて今置かれている状況がわかった気がした。
「私の母は結婚して梶という名字を名乗っていました。旦那さんと娘が一人いて幸せに暮らしていたそうです」
「やっぱり俺が会ったあの女性はお母さんじゃ無かったんですね」
彩香は小さく頷く。
「なぜあんな嘘をついたのです?」
彩香は顔を伏せて黙った。
「何か俺には言えないことがあるんですか?」
彩香の目から涙が溢れる。
そして俺を強く抱きしめてきた。
「ごめんなさい。今の私にはこれが精一杯なの。ここまでしかできないの」
彩香は俺の胸の中で泣きじゃくった。
俺はただただ彩香を抱きしめることしか出来なかった。
彼女はひとしきり泣くと俺から離れた。
そして緑色のリボンのついた栞と先程描いていたのと同じ七夕のチラシを渡してくれた。
「総司くん。君ならきっと変えられる」
そう言うと彼女の体から小さな光の粒が溢れてきた。光の粒は空に登っていく。
「彩香!体が、、」
彩香の体は光粒が出るとどんどん薄くなっていき半透明になっていく。
「あなたと過ごした二日間。夢のようだった」
「彩香、、君と俺はどこかで会ったことがあるのか?」
彩香は何も言わずただ微笑むだけだった。
「総司くんならきっとできる」
「私の大好きな人なのだから」
彩香の目から涙が落ちる。俺も涙が抑えることができない。
俺の涙は地面に落ちる。
彩香の涙は光となって空に登っていく。
俺は力いっぱい彩香を抱きしめた。
すでに体はほとんど消えている。
「俺も彩香が大好きだ」
俺は抱きしめながら力強く言った。
生まれて初めての女性への告白だった。
「ありがとう。私の愛した唯一の人」
そう言うと彼女はもう一度微笑んで消えていった。
光の粒も空に登って完全に消えた。
俺はその場に泣き崩れた。
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