螺旋列車

ryokutya

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第二章

託されたもの

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意味のわからないことを言う俺に佐々木は不安を隠せないようだった。
道路沿いにあるベンチに座ろうと俺を誘導する。
「とりあえず座ろう。疲れてるんだろ」
そう言って俺をベンチに座らせると佐々木も隣に座った。
「俺の様子がおかしくなったのはどれくらいだった?」
「一瞬だよ。急に立ち止まったと思ったら黙り込んで俺の声にも答えなかった」
佐々木は俺の肩に手を置く。
「まあ1日歩き回ったからな。疲れが溜まってたんだな。お前俺より体力ないし」
俺はさっきまでの体験が夢とは思えなかった。
彩香の声も温もりも克明に覚えている。
「なあ、、、俺がさっきまで別の世界にいたって言ったら信じるか?」
佐々木は一瞬固まったがすぐに笑い出す。
「あっはははは」
佐々木は腹を抱えて笑っている。
「どうしたお前!変な漫画の影響でも受けたのか?」
佐々木の反応は至極当然のものだろう。俺がもし佐々木から同じことを言われても同じように反応する自信がある。
「そうだよな。そうなるよな」
俺はベンチに座りながら項垂れた。
荒唐無稽な話だ。信じろという方がおかしい。
「、、、本当なのか?」
佐々木は俺が顔を上げると先程までと違い真剣な表情で俺を見ていた。
「信じるのか?俺の言うことを」
「正直に言えば信じていない。ただお前が意味のない嘘をつくとも思えない」
友人が落ち込んでいたら全力で助ける。
困っている奴は暑苦しいくらい見捨てない。
そうだ。佐々木はこういう奴だ。
俺はベンチから立ち上がった。
「佐々木、お前の力を貸してほしい」
佐々木は薄く笑いながら頷いた。

時刻は17時15分。
俺と佐々木は駅の近くにある「マカロン」という喫茶店に入った。
昔ながらの純喫茶で年配のマスターと若い女性ウエイターの二人で経営している。
毎年この町に来て休憩する時は利用している。
喫茶店の中はエアコンが効いていて外との温度差が激しかった。
中に入ると若い女性のウエイターが席まで案内してくれた。
案内されたのは窓際のテーブル席だ。
俺はブレンドコーヒー。佐々木はカフェラテを頼む。
2人で来る時は大体このメニューになる。
お互い頼んだコーヒーも届いて落ち着いた頃に佐々木から切り出した。
「さて、とりあえず落ち着いて一から話してくれるかい?総司に何が起きたのか」
俺はコーヒーを一口飲むとカバンからメモ帳を取り出した。
このメモ帳には彩香に聞いた世界のことや豪雨で起こる被害のことが書いてある。
「このメモ帳には俺が体験したことが書いてある」
俺はメモ帳を見せながら体験した内容を簡潔に伝えた。
佐々木はペラペラとメモ帳を見て考え込むように腕を組む。
「ここに書いてある彩香という女性はその謎の駅で会ったのが初めてだったのか?」
「、、、わからない」
俺は目を伏せた。
「彩香は俺のことを知ってる様子だった。でも俺は正直言うと思い出せないんだ、彼女のことを」
佐々木は腕を組んだまま黙り込みメモに目を戻した。
「正直、、やっぱりまだ信じることは難しい」
「この彩香という女性の言うことが正しいとしてだ」
佐々木はコーヒーを一口飲む。
「豪雨からお母さんを救うことが目的とのことだがお母さんは既に亡くなっていたということだよな?」
俺は小さく頷く。
「ということはだ。そもそも記憶の世界というのも嘘だった可能性もある」
佐々木の言う通りだった。俺と彩香は謎の世界に迷い込み行動指針が無かった。
そんな中彩香が図書館で豪雨の資料を見た。更に歩いている街並みが見覚えあると言い記憶の世界だと仮説を立てたのだ。
今思えばその仮説が正しい根拠は何も無かった。
「、、、」
俺は何も言えず目を伏せる。
「白昼夢でも見てたんじゃないのか?リアルな夢をさ」
佐々木はメモ帳を閉じて俺に返してきた。
「でも、、、夢だとしてこのメモは何なんだ?俺はなぜこのメモを持っているんだ」
俺はメモ帳を見ながら頭を掻いた。
「お前に妄想癖があるとも思えないからな。確かにこのメモは不可解だ」
佐々木は考え込むように目を閉じた。
俺は窓の外を見た。夕焼けの道を歩く人々。信号待ちする原付。
ありふれた光景を見ながら自身に起きた異質な体験を思い出す。
薄暗い駅のホーム。彩香を背負った山道。彩香の感触。
全てが克明に思い出せる。
「、、、仮にだ。仮にお前の言う事が正しいとして別の世界に行っていたとしよう」
佐々木も窓の外を見ている。
「その世界で彩香さんのお母さんを救うのを目的にして行動していたと言っていたよな?」
「ああ、その通りだ」
「だけど彩香さんのお母さんは既に亡くなっていた。助けたくてもどうしょうもないということだ」
俺は黙って佐々木の言うことに耳を傾けていた。
「その場合お前にできることはもう無いよな。だから戻ってきたんじゃないのか?」
確かにそうだ。佐々木の言うことは的を得ていた。
「ならお前が気に病むことはないだろう」
佐々木の言うことは正しいと思う。
何も気に病むことは無いのだ。
このまま今まで通りの日常に戻っていいのではないか。

〃総司くん。君ならきっと変えられる〃

頭の中で彩香の声か再生される。
彼女は俺に何かを託して消えていった。
きっと俺にはやらなければならないことがあるはずだ。
俺は彩香が消える直前に渡してくれたものをカバンから出した。
「ん?それは何だ?栞と紙か?」
佐々木はテーブルに置かれたものを凝視している。
「これは彩香が消える直前に渡してくれたものなんだ」
「これ見ていいか?」
佐々木は四つ折りにされている紙を手に取った。
「ああ、見てくれ」
佐々木は紙を開くとしばらくチラシを読んでいた。
「これ七夕祭りの案内だな。そういえば行ったことはないけど近くで七夕祭りをやってるってじいちゃんが言ってた」
「あれ?この日付、、、」
佐々木は日付のところを気にしている。
七夕祭りの日付は7月6日~7月7日と書いてあるはずだ。
何か不審なとこがあるとは思えない。
「総司、これ見てみろよ。日付のところ」
佐々木の指差す場所を見た。
令和3年7月6日~7月7日。
「この日付って明後日だよな?」
俺は呆然とチラシを見た。
橘さんに渡したチラシには和暦の記載は無かった。
なぜ気づかなかったのか。
彩香は俺にヒントを渡してくれていたんだ。
「佐々木、俺わかった気がするよ」
佐々木は頭を傾げた。
「何か思い当たることがあるのか?」
俺は頷いた。
「荒唐無稽とお前は言うかも知れない。でも可能性は高いと思うんだ」

時刻は18時半になろうとしている。
コーヒーはすっかり冷めてしまっていた。
俺は考えついた一つの可能性を佐々木に伝えるため自分の頭の中を整理していた。
あの世界で感じていた違和感。彩香の最後の言葉。
それらの情報から頭の中でロジックを組み立てる。
俺が数分間メモ帳に考えをまとめている時、佐々木はカフェラテをもう一杯頼んでいた。
「よし、、、」
俺はペンを置いて深く息を吸った。
「考えはまとまったようだな」
俺は頷く。
「一つずつ考えていこうと思う。まず俺がいた世界だ。それは本当に彩香の作った世界だったのか?」
佐々木は腕を組みながら頭を傾げた。
「ああ、そもそも記憶の世界なんて普通なら信じないからな」
俺は頷きつつ話続けた。
「そう。ただ俺はあの異質な空間にいて異質な体験をした。それにより信じてしまったんだ」
「俺は異質な空間にいて他の可能性を考えることを放棄してしまっていた」
佐々木は未だ理解できないという顔だ。
「彩香は3年前に豪雨があったと言う。それは事実だと思う。彩香以外の人も言っていた」
「彩香にとっては3年前だった。でも俺にとっては3年前じゃなかったんじゃないか」
佐々木は俺の言いたいことがわかったようだった。
「なるほどな。つまりお前の行った世界は今から3年後の世界ということだな?」
俺は小さく頷いて話を続ける。
「そう考えると辻褄が合うんだ。彩香が俺に変えられると言ったのは豪雨でお母さんが亡くなってしまう未来だった」
「俺のやらなければならないことはこれから起こる豪雨から彩香のお母さんを助けることなんだ」
佐々木は七夕祭りのチラシに目を移す。
「なるほど。このチラシはお前が未来にいたことを伝える為のヒントだったのか」
この令和3年のチラシも彩香からのメッセージだったのだ。

俺は螺旋状の駅から3年後の未来へ行った。
豪雨による土砂崩れで彩香の母が亡くなった未来だ。
なぜ彩香は俺が未来に来ていることを言わなかったのか。
なぜ未来に行ったのは俺だったのか。
わからないことはたくさんある。
しかし俺は彩香に託された。
未来を変えることができるのは俺しかいない。
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