15 / 54
上梨西我編
5話 決まり文句は「決闘しなさい!」
しおりを挟む
この場の空気を何といえば良いのやら。俺には全く例える言葉が出てこない。しかし、それでも強いて言うなら『緊張』とでも言っておこう。
張り詰めた糸がいつ途切れるか分からない様な『緊張』に俺達の教室は包まれていた。
「アンタッ!今朝の変態!」
そんな山田さんの発言から始まったこの空気。それなら山田さんでどうにかしてくれ。
「ちっ違っ!今朝のは事故だって!それに俺もよく見えてなかったし!」
両手を勢い良く振って否定する転入生、上梨。
………………事故?よく見えてなかった?
今、上梨の発言からも相当危ない匂いがする。
「うっさいわよ!それでも変わらないでしょ!アンタがっ……!」
一度言葉に詰まる山田さん。それでも彼女は大きく息を吸って言葉を紡ぐ。
「アンタが私の…………を見た事には変わらないでしょ!」
何つった今。全然聞こえなかったぞ。
大切な部分が隠されてしまって余計妄想、もとい想像が広がってしまう。しかしそれでも当の上梨には伝わったらしく、彼は必死に頭を下げていた。
「ほんっとーに、悪い!アレは不可抗力だったんだ!」
「アンタ全然反省してないでしょ!」
不毛な言い争いがギャーギャーと繰り広げられる。それを見た佐藤先生はフッと笑った。
「そんなに仲が良いなら、隣の席にでもしてやろうか?」
「「良くない!」」
随分息合ってんな。
まぁ二人の様子から察するに今朝方に何かあったのだろう。あくまで何か。それを詳しく聞こうとは思えん。大体予想はつくけど。
睨み合ったまま動かない二人の空気をほぐす様に佐藤先生が手を鳴らす。
「転入初日に知り合いがいた事を嬉しく思え、上梨。この後直ぐにでも学園を見て回ってくるといい」
「私は案内しませんからね」
早い。
山田さんの早すぎる先手に流石の佐藤先生も苦笑する。
「案内なら以前の様に春日原に頼めば良いじゃないですか」
「僕は今回パス。テストも近いし、あんまり授業抜け出したくない」
カズミネがふるふると手を顔の前で振る。それを見てグッと呻いた山田さんは俺に視線を移す。
「………………」
何も言わずに逸らされた。
なんだこの敗北感。俺に押し付ける程でもないと、そう言いたいのか。
しかしよくよく思い出してみれば、俺は先日に上梨を案内する約束をしていたので、その役は本来俺がやるべきものだ。ここらで山田さんに助け船を出してやっても構わない、か。
「佐藤先生」
手を上げて立ち上がる。その時チロッと上梨の方に視線を向けると、少しホッとした様な表情になっていた。
「田中…………お前このクラスだったのか…………」
「まぁ、な。よろしく上梨」
「なんだ、お前達も知り合いだったのか」
「はい、そういう事なんで学園案内の件は━━━━」
俺は隣の席を指差す。
「山田さんがやったら良いと思います」
「ちょっと待って!何がそういう事なの!?」
山田さんが食いついてきたが、これはさっき俺をチラ見して何も言わなかった事に対しての仕返しだ。誰が助け船等出すものか。
「待てよ田中!昨日お前が案内してくれるって約束だっただろ!」
「どうした上梨。女子と学園を回るのはそんなに嫌か」
「嫌じゃ………ねぇけど」
「私は、イヤ。断固拒否」
「だから悪かったって、言ってるじゃねーか!」
再び言い争いをおっ始めたので、さり気なく椅子に座る。そこで佐藤先生が良く響く声で告げた。
「学園案内の件は後にすればいい、取り敢えず上梨を座らせてやれ」
少々呆れも入った声は教室を静めた。
その後上梨の席を決める事になったのだが、山田さんの強い意志により、上梨の席は窓際の教室後方までに追いやられた。
◆◆◆
「ねぇねぇ!上梨君って何か得意なスポーツとかある?」
「好きなスイーツとかない?作ってあげるよ!」
「上梨君の能力ってどんな感じなの?」
昼休み。購買にパンを買いに行く人や食堂で昼食を済ませる人が教室からいなくなり、残った弁当組が支配しているこの時間帯に、上梨の席は大勢の女子に囲まれて賑わっていた。
「大人気だね~結構イケメンだし、直ぐに彼女とか出来るんじゃないの?」
「そりゃないだろ」
「何、嫉妬?」
「そんなんじゃない」
弁当組の一人である俺達は、カズミネの机を使って弁当を食べていた。俺の弁当は手作りという訳ではなく、そこらのコンビニで購入してきた大盛り焼肉弁当だ。カズミネも手作りではない幕の内弁当を食べている。俺は肉の一切れを口に運ぶと白飯をかきこむ。
「それにしても、意外ですねー。またこのクラスに転入生が来るなんて」
そう言って水筒のお茶をコップに注いでゆっくり飲んでいる星叶。彼女の弁当は可愛らしい容器の半分を占めるご飯と卵焼き、タコ型ウインナーにレタス、いかにも手作りという感じがしていた。
「僕もそこは納得出来ないんだよね」
カズミネが白飯の上に乗っている梅干しをピンッと弾いたので、無理矢理口に突っ込んでやる。
「そう深く考えるもんじゃないだろ。転入生が来る事にいちいち理由は必要ない」
カズミネが中途半端にかじった梅干しを口から吹き出す。その時、俺の弁当に入ったので再び梅干しを口に突っ込む。
「でもなんだか既視感がある展開ですよね。こうアニメとか漫画とかで似たようなイベントが結構ありますもん」
意外とアニメを嗜む少女はむしゃむしゃとレタスを咀嚼する。
「だとしたら、その後は上梨と山田さんが決闘でもするんだろうな」
食べ終わったので容器に蓋をして、手を合わせる。その隙にと、カズミネが梅干しを吹き出していたので無理矢理押し込んでやる。
「さて、僕はそろそろ行かなきゃ」
そう言って梅干しを取り出すカズミネ。しっかり食べられて、種だけ残っていたので特に何もしない。
「行かなきゃって、どこにだ?」
カズミネはひらひら特に手を振って、
「生徒会室。会長に聞かなきゃいけない事ができた」
昼休みは時間の進みが早く感じられる。授業と昼休みは時間の長さに変わりはない筈だが、あっという間に過ぎていた。
昼食の弁当を食べて眠くなった俺は今まで眠りこけていた。気がつけば次の授業開始まで、残り3分。早いとこ準備しておかなければと思って、次の授業を確認すべく後ろを振り向く。そこにはいつの間にやら帰って来ていたカズミネが着席していた。
「なぁカズミネ。次の授業ってなんだっけ」
「次?次は、ねぇ………確か佐藤先生の授業だったと思うけど」
「そうか、サンキューな。………………そういやカズミネ、昼間言ってた会長に聞かなきゃいけない事って何だったんだ?」
「ん?あはは、気にしなくても良いよ。世間話みたいな事しかできなかったし」
ふむ、と相槌を打って前に向き直る。………………今世間話みたいな事しかできなかった、って言ったか?しなかったではなく、できなかったって。
妙な違和感を覚えはしたけれど、特に気にする事もなく俺は視線を隣に移す。
「山田さん、上梨と話した?」
「なんで私があの変態と話さなきゃいけないのよ」
朝に比べれば、だいぶ機嫌が良くなった山田さんに話しかける。
「そもそもなんで上梨は変態って呼ばれてるんだ。傍からみれば凄い理不尽だぞ」
「それを説明するくらいなら私は退学してやるわよ」
凄い決意だった。前に聞いたから、大体予測はついているけど確認までに聞いてみただけだ。よほど山田さんにとって恥ずかしい出来事だったのだろう。
あまり追求するのも悪いので、ここらで話を打ち切った。暫くボケーッとしていると、佐藤先生が教室に入ってくる。
昼一番の授業は佐藤先生か。佐藤先生は以前言っていた様に生活指導が担当なので、何かの教科を担当してはいない。今から始まる授業は週に一度くらいのペースで行われる学級活動。いわゆる学活だ。
内容はまちまちで、一時間丸々自習していたり、読書していたり、自習していたり。全然活動してないな。仕事しろ教師。
しかし今日は違ったようで、教室に入るなり佐藤先生は俺達に場所の移動を命じた。
「今から全員体育館へ移動だ。今日の授業はそこで行う」
「先生ー。なんで体育館に行くんですかー?」
生徒の一人が手を上げて疑問を口にする。それに対して佐藤先生はニヤリと笑みを作った。
「急いで移動しろ。今日の授業は模擬戦だ」
◆◆◆
場所を移して体育館。俺達はステージを背に立つ佐藤先生の前に四列縦隊で座っていた。
「…………とまぁこのくらいだろう模擬戦のルールは。上梨、大体理解出来たかね?」
「はい、大丈夫です」
どうやら今回の学活は上梨に模擬戦を体験させる、という内容らしい。勿論、俺達も勿論参加させてもらうが。
来週あたりから今月の学年戦の受付も開始されるので、上梨にも出来れば参加して欲しいという佐藤先生の心遣いだろうか。
しかし、当然といえば当然だが、今回はポイントを賭ける事が出来ない。勝敗によるポイント譲渡は先生も認めているが、流石に授業中は良くないらしい。まぁ仮にも佐藤先生、生活指導だしな。
「それじゃ、上梨。まずはお試しで誰かと一度模擬戦を……」
「私がやります」
山田さんが、手を上げていた。今朝はあんなに上梨と接する事を嫌がっていた、山田さんが。佐藤先生も眉をひそめて、山田さんに尋ねる。
「良いのか、山田」
「任せてください」
なんだか自信たっぷりだった。凄く不安になる。
「先生、この模擬戦でポイントは賭けちゃいけないんですよね?」
「?あぁ、そうだな。上梨は模擬戦初心者だし、最低でも最初の一回はポイントを賭けないでやってくれ」
「なら代わりに別の約束をしてもいいですか?」
約束?と顔を傾げる佐藤先生から視線を外した山田さんは、上梨の方へと視線を移動させる。
「もし模擬戦で私が勝ったら、このクラスから出ていってもらうわ」
クラスがざわめきだす。その時、隣からちょんちょんとつつかれたのでそちらを見てみると、星叶が片手を口に添えていた。どうやら小声で話したいらしい。取り敢えず耳だけそちらに寄越すと、コショコショとくすぐったい声で星叶が話し掛けてきた。
(これって完全に負けますよね、山田さん)
(俺も薄々思ってたけどそういう事は言うんじゃない)
俺も星叶の耳に口を近づけて小声で話す。
(でも、それ以前に佐藤先生がそんな無茶を許可するかどうかだよな)
(それは…上梨さんが勝った場合の条件によりますね)
俺達は佐藤先生に視線を移す。佐藤先生は山田さんを見つめて、
「それで?上梨が勝った時はどうするんだ?」
山田さんは立ち上がって濃いピンクの髪を揺らして、胸に右手を当てる。
「その時は、私がアイツのいう事を何でも一つ聞きます!だから、上梨西我……私と━━━━」
山田さんが息を吸う。
「私と、模擬戦しなさい!」
その言葉に俺達は、
(お決まりですね)
(お決まりだな)
ある意味感心させられた。
張り詰めた糸がいつ途切れるか分からない様な『緊張』に俺達の教室は包まれていた。
「アンタッ!今朝の変態!」
そんな山田さんの発言から始まったこの空気。それなら山田さんでどうにかしてくれ。
「ちっ違っ!今朝のは事故だって!それに俺もよく見えてなかったし!」
両手を勢い良く振って否定する転入生、上梨。
………………事故?よく見えてなかった?
今、上梨の発言からも相当危ない匂いがする。
「うっさいわよ!それでも変わらないでしょ!アンタがっ……!」
一度言葉に詰まる山田さん。それでも彼女は大きく息を吸って言葉を紡ぐ。
「アンタが私の…………を見た事には変わらないでしょ!」
何つった今。全然聞こえなかったぞ。
大切な部分が隠されてしまって余計妄想、もとい想像が広がってしまう。しかしそれでも当の上梨には伝わったらしく、彼は必死に頭を下げていた。
「ほんっとーに、悪い!アレは不可抗力だったんだ!」
「アンタ全然反省してないでしょ!」
不毛な言い争いがギャーギャーと繰り広げられる。それを見た佐藤先生はフッと笑った。
「そんなに仲が良いなら、隣の席にでもしてやろうか?」
「「良くない!」」
随分息合ってんな。
まぁ二人の様子から察するに今朝方に何かあったのだろう。あくまで何か。それを詳しく聞こうとは思えん。大体予想はつくけど。
睨み合ったまま動かない二人の空気をほぐす様に佐藤先生が手を鳴らす。
「転入初日に知り合いがいた事を嬉しく思え、上梨。この後直ぐにでも学園を見て回ってくるといい」
「私は案内しませんからね」
早い。
山田さんの早すぎる先手に流石の佐藤先生も苦笑する。
「案内なら以前の様に春日原に頼めば良いじゃないですか」
「僕は今回パス。テストも近いし、あんまり授業抜け出したくない」
カズミネがふるふると手を顔の前で振る。それを見てグッと呻いた山田さんは俺に視線を移す。
「………………」
何も言わずに逸らされた。
なんだこの敗北感。俺に押し付ける程でもないと、そう言いたいのか。
しかしよくよく思い出してみれば、俺は先日に上梨を案内する約束をしていたので、その役は本来俺がやるべきものだ。ここらで山田さんに助け船を出してやっても構わない、か。
「佐藤先生」
手を上げて立ち上がる。その時チロッと上梨の方に視線を向けると、少しホッとした様な表情になっていた。
「田中…………お前このクラスだったのか…………」
「まぁ、な。よろしく上梨」
「なんだ、お前達も知り合いだったのか」
「はい、そういう事なんで学園案内の件は━━━━」
俺は隣の席を指差す。
「山田さんがやったら良いと思います」
「ちょっと待って!何がそういう事なの!?」
山田さんが食いついてきたが、これはさっき俺をチラ見して何も言わなかった事に対しての仕返しだ。誰が助け船等出すものか。
「待てよ田中!昨日お前が案内してくれるって約束だっただろ!」
「どうした上梨。女子と学園を回るのはそんなに嫌か」
「嫌じゃ………ねぇけど」
「私は、イヤ。断固拒否」
「だから悪かったって、言ってるじゃねーか!」
再び言い争いをおっ始めたので、さり気なく椅子に座る。そこで佐藤先生が良く響く声で告げた。
「学園案内の件は後にすればいい、取り敢えず上梨を座らせてやれ」
少々呆れも入った声は教室を静めた。
その後上梨の席を決める事になったのだが、山田さんの強い意志により、上梨の席は窓際の教室後方までに追いやられた。
◆◆◆
「ねぇねぇ!上梨君って何か得意なスポーツとかある?」
「好きなスイーツとかない?作ってあげるよ!」
「上梨君の能力ってどんな感じなの?」
昼休み。購買にパンを買いに行く人や食堂で昼食を済ませる人が教室からいなくなり、残った弁当組が支配しているこの時間帯に、上梨の席は大勢の女子に囲まれて賑わっていた。
「大人気だね~結構イケメンだし、直ぐに彼女とか出来るんじゃないの?」
「そりゃないだろ」
「何、嫉妬?」
「そんなんじゃない」
弁当組の一人である俺達は、カズミネの机を使って弁当を食べていた。俺の弁当は手作りという訳ではなく、そこらのコンビニで購入してきた大盛り焼肉弁当だ。カズミネも手作りではない幕の内弁当を食べている。俺は肉の一切れを口に運ぶと白飯をかきこむ。
「それにしても、意外ですねー。またこのクラスに転入生が来るなんて」
そう言って水筒のお茶をコップに注いでゆっくり飲んでいる星叶。彼女の弁当は可愛らしい容器の半分を占めるご飯と卵焼き、タコ型ウインナーにレタス、いかにも手作りという感じがしていた。
「僕もそこは納得出来ないんだよね」
カズミネが白飯の上に乗っている梅干しをピンッと弾いたので、無理矢理口に突っ込んでやる。
「そう深く考えるもんじゃないだろ。転入生が来る事にいちいち理由は必要ない」
カズミネが中途半端にかじった梅干しを口から吹き出す。その時、俺の弁当に入ったので再び梅干しを口に突っ込む。
「でもなんだか既視感がある展開ですよね。こうアニメとか漫画とかで似たようなイベントが結構ありますもん」
意外とアニメを嗜む少女はむしゃむしゃとレタスを咀嚼する。
「だとしたら、その後は上梨と山田さんが決闘でもするんだろうな」
食べ終わったので容器に蓋をして、手を合わせる。その隙にと、カズミネが梅干しを吹き出していたので無理矢理押し込んでやる。
「さて、僕はそろそろ行かなきゃ」
そう言って梅干しを取り出すカズミネ。しっかり食べられて、種だけ残っていたので特に何もしない。
「行かなきゃって、どこにだ?」
カズミネはひらひら特に手を振って、
「生徒会室。会長に聞かなきゃいけない事ができた」
昼休みは時間の進みが早く感じられる。授業と昼休みは時間の長さに変わりはない筈だが、あっという間に過ぎていた。
昼食の弁当を食べて眠くなった俺は今まで眠りこけていた。気がつけば次の授業開始まで、残り3分。早いとこ準備しておかなければと思って、次の授業を確認すべく後ろを振り向く。そこにはいつの間にやら帰って来ていたカズミネが着席していた。
「なぁカズミネ。次の授業ってなんだっけ」
「次?次は、ねぇ………確か佐藤先生の授業だったと思うけど」
「そうか、サンキューな。………………そういやカズミネ、昼間言ってた会長に聞かなきゃいけない事って何だったんだ?」
「ん?あはは、気にしなくても良いよ。世間話みたいな事しかできなかったし」
ふむ、と相槌を打って前に向き直る。………………今世間話みたいな事しかできなかった、って言ったか?しなかったではなく、できなかったって。
妙な違和感を覚えはしたけれど、特に気にする事もなく俺は視線を隣に移す。
「山田さん、上梨と話した?」
「なんで私があの変態と話さなきゃいけないのよ」
朝に比べれば、だいぶ機嫌が良くなった山田さんに話しかける。
「そもそもなんで上梨は変態って呼ばれてるんだ。傍からみれば凄い理不尽だぞ」
「それを説明するくらいなら私は退学してやるわよ」
凄い決意だった。前に聞いたから、大体予測はついているけど確認までに聞いてみただけだ。よほど山田さんにとって恥ずかしい出来事だったのだろう。
あまり追求するのも悪いので、ここらで話を打ち切った。暫くボケーッとしていると、佐藤先生が教室に入ってくる。
昼一番の授業は佐藤先生か。佐藤先生は以前言っていた様に生活指導が担当なので、何かの教科を担当してはいない。今から始まる授業は週に一度くらいのペースで行われる学級活動。いわゆる学活だ。
内容はまちまちで、一時間丸々自習していたり、読書していたり、自習していたり。全然活動してないな。仕事しろ教師。
しかし今日は違ったようで、教室に入るなり佐藤先生は俺達に場所の移動を命じた。
「今から全員体育館へ移動だ。今日の授業はそこで行う」
「先生ー。なんで体育館に行くんですかー?」
生徒の一人が手を上げて疑問を口にする。それに対して佐藤先生はニヤリと笑みを作った。
「急いで移動しろ。今日の授業は模擬戦だ」
◆◆◆
場所を移して体育館。俺達はステージを背に立つ佐藤先生の前に四列縦隊で座っていた。
「…………とまぁこのくらいだろう模擬戦のルールは。上梨、大体理解出来たかね?」
「はい、大丈夫です」
どうやら今回の学活は上梨に模擬戦を体験させる、という内容らしい。勿論、俺達も勿論参加させてもらうが。
来週あたりから今月の学年戦の受付も開始されるので、上梨にも出来れば参加して欲しいという佐藤先生の心遣いだろうか。
しかし、当然といえば当然だが、今回はポイントを賭ける事が出来ない。勝敗によるポイント譲渡は先生も認めているが、流石に授業中は良くないらしい。まぁ仮にも佐藤先生、生活指導だしな。
「それじゃ、上梨。まずはお試しで誰かと一度模擬戦を……」
「私がやります」
山田さんが、手を上げていた。今朝はあんなに上梨と接する事を嫌がっていた、山田さんが。佐藤先生も眉をひそめて、山田さんに尋ねる。
「良いのか、山田」
「任せてください」
なんだか自信たっぷりだった。凄く不安になる。
「先生、この模擬戦でポイントは賭けちゃいけないんですよね?」
「?あぁ、そうだな。上梨は模擬戦初心者だし、最低でも最初の一回はポイントを賭けないでやってくれ」
「なら代わりに別の約束をしてもいいですか?」
約束?と顔を傾げる佐藤先生から視線を外した山田さんは、上梨の方へと視線を移動させる。
「もし模擬戦で私が勝ったら、このクラスから出ていってもらうわ」
クラスがざわめきだす。その時、隣からちょんちょんとつつかれたのでそちらを見てみると、星叶が片手を口に添えていた。どうやら小声で話したいらしい。取り敢えず耳だけそちらに寄越すと、コショコショとくすぐったい声で星叶が話し掛けてきた。
(これって完全に負けますよね、山田さん)
(俺も薄々思ってたけどそういう事は言うんじゃない)
俺も星叶の耳に口を近づけて小声で話す。
(でも、それ以前に佐藤先生がそんな無茶を許可するかどうかだよな)
(それは…上梨さんが勝った場合の条件によりますね)
俺達は佐藤先生に視線を移す。佐藤先生は山田さんを見つめて、
「それで?上梨が勝った時はどうするんだ?」
山田さんは立ち上がって濃いピンクの髪を揺らして、胸に右手を当てる。
「その時は、私がアイツのいう事を何でも一つ聞きます!だから、上梨西我……私と━━━━」
山田さんが息を吸う。
「私と、模擬戦しなさい!」
その言葉に俺達は、
(お決まりですね)
(お決まりだな)
ある意味感心させられた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜
ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」
「街の井戸も空っぽです!」
無能な王太子による身勝手な婚約破棄。
そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを!
ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。
追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!?
優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。
一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。
「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——!
今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける!
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画
及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。
【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】
姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。
双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。
だが、この公爵家、何かおかしい?
異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。
一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。
ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳
バーディナ伯爵家令嬢
✖️
ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳
キングスフォード公爵
ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。
とても励みになります。
感想もいただけたら嬉しいです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる