ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学年トーナメント戦編

3話 トップバッター加藤君

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 問◎観戦者も多くなると、大概の勝負には解説役が配置される事がある。その理由を簡潔に述べよ。

 答☆解説役は大概放送委員であり、放送委員は大概目立ちたがりである為。しかし、美少女ならなんでも許されるので、特に文句はありません。(あくまで田中終夜の個人的な解釈なので、放送委員が大概目立ちたがり等という事実は存在しません)

 (脇役検定準2級練習問題集~知っておいて損は無い!むしろ知らなければ損しか無い!~より抜粋)

◆◆◆

 遂に、というべきか。
 とうとう、というべきか。
 何にせよ、この時が来たのだ。

 『それではっ!只今より、月陰学園高等部一年による学年トーナメント式模擬戦、学年戦を開催します!気合は十分かてめぇらあああああああああ!』
 「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」

 スタジアム中に響く開会宣言に呼応するように雄叫びを上げる、学年戦参加者達。無論雄叫びを上げた一人に俺こと、田中終夜もいたのだが、隣にいる春日原和嶺かずみねはしらっーとした顔をしていた。

 俺達、高等部一年の学年戦参加者は、校舎からかなり離れた所にある闘技エリアの一角、複数存在している内の一つであるスタジアムに各クラス毎に整列していた。

 そもそもこの学園には、闘技エリアの他にも商業エリアや寮エリア等、他にも様々なエリアが存在しているが今回はその事は割愛。闘技エリアについての説明だけさせてもらう。

 規模としては、月陰学園に於ける様々なエリアの中でも一、ニ番を争う程に大きい。東京ドーム何個分、なんて例えは実際に俺が東京ドームの大きさを理解していないので使用する事が出来ない。まぁ、一般的な野球場とスタジアムの大きさは大体同一と考えてもらって構わない。そのレベルの建築物が一定の距離を間に空けて、十数個並ぶ様子は壮観としか俺には表現出来ない。

 学年戦は中等部から実施されているので、中等部で三つ、高等部で三つと最低でも六つ用意していなければならないのだ。

 たまに初等部も実施する時もあるが、それはかなり安全性を高めており、監視役の先生を数人と高等部や中等部の生徒会から何人か派遣された上での開催となる。勿論、中等部と高等部の学年戦とは開催時期をずらされている。

 では使用していないスタジアムは何の為に存在するのか。その答えは、誰も知らない。

 『さぁーさぁー時間も押しております。ちゃっちゃと始めちゃいましょう!』

 スタジアムに熱の入った放送が響く。なんか学年戦の度にこの人の声を聞いているような気もしないではないが、実際どこの誰とか興味ないので放置している。

 カズミネ曰く、放送委員であるらしいのだが、俺はそんな委員会が存在している事自体知らなかった。他にも美化委員だら文化委員だらなんたら存在するらしい。この学園は少し特殊で生徒会や委員会に所属する生徒は例外なく、生徒会・委員会側からの推薦により役職を与えられている。

 要するに委員会の人達の目に止まるような“何か”を持っていればお声が掛かるという訳だが、俺に掛かってないという事は、特に何もないという証明なんですかね。はい。

 しかし、“何か”を認められただけの事は有る、今放送してくれている人物の声にはしっかりと心がこもっていて、俺達の心をストレートに打ち抜いてくる。

 声からして女子生徒なのだが、放送委員は大体女子と相場でも決まっているのだろうか。

 そんな事を考えていたが、思考を切り替える。
 俺は今から俺の生命を賭けた戦いに挑まなければならないのだ。

 『それではAブロック第一回戦一組目の発表です!』

 盛り上がっていたスタジアム内に静寂が訪れる。

 全員が全員、放送へと耳を澄ます。隣の奴の心音でも聞こえてきそうな程の静まりで、誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。

 『まずは、この方!1―Cクラスの加藤浩介こうすけ君!』

 おお~と歓声にも似た声がCクラスの列から上がる。

 トップバッターって何気にきついので絶対になりたくはない。皆の心境は大体似たりよったりなので、静かに放送を聞いているのだ。

 学年戦では、同クラス同士の対戦は一回戦ではまず起きる事はない。Cクラスから上がった声は、取り敢えず一組目に組み込まれていなかった安堵によるものが大きいのだろう。

 しっかし、いきなりトップバッターに任命された加藤だかなんだか知んない奴はご愁傷様だ。自分の心情を理解せずに、「ああ良かった」「私じゃなかった」と安堵するだけしておいて、こちらを全く気遣おうともしない同じクラスの連中を恨みつつ、一回戦に臨む事だろう。

 模擬戦を普段から行う事はあっても、大勢の前でそれを行う機会なんて学年戦位なものだろう。一対一なら特に気にもしなかっただろうが、大勢の人の目があると、どうしても気にしてしまう、気になってしまう事が有る。それは自分の能力の事だ。

 他と被っていない、その人物独自の能力なら特に問題はないのだが、大抵の能力は他にも同じ種類の能力を扱える能力者がいる事を忘れてはならない。

 他の人と比べて自分の能力は不出来ではないか?小規模ではないか?と、ついついそんな事を考えてしまって無駄に緊張してしまうの無理もないだろう。

 身近な例で言えば、山田さんの発火能力なんて能力の代名詞とばかりに使用者は大勢いるし、星叶の大天使も大きな枠に当てはめれば召喚能力になる筈だ。まぁ彼女達に限ってそう考えるとは思えないのだが。

 有りもしない嘲笑や罵倒が聞こえたような気がして、本来の実力を発揮出来ず敗退する、なんてのは珍しくない。その緊張感だけは、何度学年戦を経験しても慣れないものだ。

 学年戦も準決勝や決勝まで進めば、言わずとも実力は伝えられ、自信を持って堂々と戦う事も出来るのだが、トップバッターとなれば話は別だ。殆どの視線は好奇のものとなる。それに耐える所から一回戦は始まっているのだから。

 しかし加藤とやらも災難なクラスに所属してしまったものだ。我らがAクラスならば、一回戦一組目にクラスメイトが組み込まれてしまったら、その人物を労って応援の一つでも投げかけてやる程だというのに。

 Cクラスの方をチラッと見て、フッと鼻で笑った時にスタジアム上部に設置されたスピーカーから対戦相手の放送が入る。

 『対する相手はこの方!1―Aクラス、田中終夜君ですッ!!』

 ブフッと口から肺の空気が吐き出されるのと同時に、我らがAクラスから歓声にも似た雄叫びが上がった。その歓声はカズミネの声も含まれていた。おい、カズミネお前さっきそんなテンション高くなかっただろうが。

 ふざけんなこの野郎。この裏切り者のクラスメイト共が!
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