ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学園生活非日常編

1話 六法全書は未だ読み終わらず

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 朝のホームルームがもう少しで始まるので、愛川とまた2人並んで教室にまで戻る。流石に何日も中庭と教室を行ったり来たりしていれば道順なんて覚えられるが、別に1人でさっさと帰る薄情者ではない。それに学年戦で、愛川の事をすっかり忘れてしまっていた事が俺にとっては少し罪悪感を覚える出来事だったのだ。

 だから愛川と話して、愛川の事を知って今度は忘れない様にと今は思う。まぁ普通に美少女と話すのが楽しいっていうのもあるんだけどな!でも愛川が俺を好きになる事はないので虚しい気持ちもない訳ではない。

 「そういえば食堂のメニューにうどんがあるじゃない?」
 「あーあるな」

 唐突に話題はうどんの話になった。愛川と話していると、1つの話題を長く続けられた試しがない。愛川があれもこれもと次から次へと話題を提供してくるので、それを返すのに精一杯な現状。

 只今の議題であるうどん。これは素晴らしいのだ。鰹節ベースの出しにコシのある麺………くらいしか特筆すべき所はないのだが、なんと言ってもその素晴らしさは安さにある。

 俺がまだ中学生の時。2か月のキュウリ生活を余儀なくされようとしていた、というより余儀なくされたのだが、そのキュウリ生活の前日まで俺はうどんを食していた。丼一杯で割りとお腹一杯になるうどんのお値段なんと一杯90ポイント。これが食堂で食べる事の出来る最低ポイントの食事だ。

 あのうどんに何度命を救われたのか……ありがとう、うどん。

 ていうか話が逸れすぎた。ただ愛川からメニューにうどんがあると聞いただけの話だったのに。

 「そのうどんがどうかしたのか?」
 「あのうどんって同じ値段で麺多めとか頼めるらしいわよ」
 「マジかよ」

 本当にマジかよ。いい情報を聞いてしまった。今度から食堂に行った時は頼んでやろう。

 そんなくだらない様な世間話をしていると、教室までの道のりはあっという間だ。いつも通り、俺はA組の教室へ。愛川はB組の教室へと別れて進んでいく。

 「それじゃあまた放課後ね」
 「ああ、それじゃ」

 そして教室に入って、はたと気づく。

 待ち合わせとか決めてなかった。でも、まぁなんとかなるだろう。隣のクラスに顔を出すのは何気に度胸がいるものだが、そこは我慢して放課後になったら愛川を呼びに行けば良い。………でも知らない奴ばかりの所に1人で行くのは結構怖い。

 そんなチキンな事を考えていると、隣のクラスから「田中終夜ー!」と声が聞こえた。明らかに愛川の声だったので、入ったばかりの教室を出て声のしたB組の方を見る。すると、というかやはりそこには、愛川がいた。

 「帰りのホームルーム終わったら玄関で集合ね」
 「………わかったよ」

 それだけ伝えてくると、愛川は自分の教室に引っ込んだ。俺が今まさにどうしようかと考えていた事を向こうから、答えをくれたので心がスッと軽くなる。知らない奴だらけのクラスに顔を出す必要がなくなってよかった。割りと小心者のどうも俺です。

 ただ、今の俺の中にはそれだけではなく。

 愛川との買い物を楽しみにしている俺も確かにいた。

 心がなんだか高鳴る様な。ふわふわして所在がない様な。わくわくもしている気がした。そんな自分がいる事に気がついて、フッと笑みを零した。

◆◆◆

 朝のホームルーム。

 佐藤先生からの諸連絡があった後、提出物の回収をして直ぐに終わった。毎度毎度、必要以上の事はあまりやらないホームルームだ。佐藤先生があまり朝からテンション高い人ではない事が原因である。でも転入生とかが来ると割りとテンションが上がって悪ノリしだす。

 それでも転入生は上梨以来2か月近く来ていないので、佐藤先生は大人しい。いや、そもそも星叶上梨と2か月続けて2人の転入生が俺達の学年に、それも俺達A組に来た事が異常な出来事だったのだ。

 当時はただ新しいメンバーが加わる事が嬉しくて何も考えちゃいなかったが、月陰学園生徒会長と会話してみて、何らかの狙いを疑わないでもない。しかし、会長とは言え一介の生徒である彼女にそんな事が出来るかどうかは謎ではあるが。

 ホームルームも終わり、佐藤先生が教室を出て行く。そして騒がしさの増す教室。俺は後ろを振り向いて、性懲りもなく『六法全書』と書かれたタイトルの分厚い本を読まされているカズミネを見る。

 立てて読んでいた本の背表紙上部を掴んでバン!と机に叩きつけた。

 「えぇぇ。何すんのさシュウヤ」
 「いつまでも六法全書なんか読んでんじゃねーよ。それより頼みたい事があるんだ」
 「頼みたい事?僕の読書を邪魔してでも?」
 「ああ」

 六法全書を読む事は果たして読書なのだろうか。読書というより勉強ではなかろうかと思いつつも、割りとどうでもいいので頷いておく。不思議そうに首を傾げるカズミネに叩きつける様に俺は言った。

 「会長から呼び出しがあった。正しくは愛川からそう伝えられたんだがな」

 それを聞いたカズミネもふざけた表情をやめて、僅かばかり声を潜めた。教室は騒がしく、普段の話し声でも聞き取られる事はないだろうが、少しは気をつけておいた方がいいな。まぁこのクラスの奴に聞かれて困る話はしていないのだが。

 「愛川さんから聞いたって……僕にはそんな話一切しなかったよ」
 「だろうと思った。つまり会長はこの話にお前を関わらせる気はないのかもな」
 「でもなんとなくわかるでしょ。シュウヤを愛川さん経由で呼び出したとしても口の軽いシュウヤは絶対に僕に相談するって」
 「おっおう」

 これって喜んでいいのかな?褒められては………ない。ないな。なら怒ってもいいか。まぁそんな無駄な事をするつもりもないのでしないけど。

 「だけど愛川からは誰にも話すな、なんて言われてないからな。案外カズミネがこの話を耳にする事も想定内だろうな」
 「あの会長なら絶対そうだよ……」

 はぁ…とため息をついて、頭を片手で抱えるカズミネ。

 「シュウヤの言いたい事はわかった。頼みたい事ってのは、僕も会長の所について来て欲しい、でしょ?」
 「ああ、頼めるか?」

 疑っていた訳ではないが、一応尋ねる。すると頼もしい親友はニヤリと笑って応えてくれる。

 「頼まれなくてもついてくさ」
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