ヒーロー再誕 ~ヒーロー諦めた俺がもう一度ヒーローを目指す話~

秋月 銀

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学園生活日常編

8話 約束ね

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 ライトノベルを探そうとしていた俺は見事にカズミネに捕獲された後、無理矢理机に座らされて勉強をさせられるハメとなった。いやまぁ図書館に来たのってそれが目的なんだけどさ。

 やっぱり図書室とか図書館とかに行くと、ライトノベルとかマンガとか探しちゃわない?そして見つけたら「あるじゃん!」ってちょっと嬉しくなったりしない?

 しない?俺だけなのか。

 しかし一度机に付いてしまえば俺も諦めるので、そこからは普通に3人で勉強する事が出来た。カズミネは元から成績が良かったので、勉強すると言うより勉強を教える方が多かった。星叶はむしろ俺より勉強させられてた気がする。仕方ないよね。アホの子だもんね。

 テスト勉強を終えた頃にはすっかり日は暮れていて、図書館で俺達は解散した。寮に戻って晩御飯をしっかりと食べて、週明けのテストに備えてカズミネとまた勉強をした。

 そしてテスト当日。苦手教科を集中して勉強したおかげなのか、特に問題で詰まる事も無くさらさらと最後まで解くことが出来た。

 2日目も同様だった。今回のテストはやけに自信がある。それは星叶もなのか、妙なドヤ顔を見せつけてきたりもした。2人してカズミネにドヤ顔を送っておいてやった。カズミネは苦笑で答えた。

 そして運命のテスト返却の日がやってきた。

 まず最初に初日1時間目にあった数学が返却される。苦手科目ではあったが、あんだけ勉強したのだ。それでも俺は緊張していた。ドクンドクンと高鳴る胸がやけに痛い。僅かにだが手も震えている。まさか……これが、恋?

 勿論そんな訳ないので、テストが返却されるその時まで大人しく席に着いておく。佐藤先生が出席番号順にどんどん名前を読み上げていって、テストが返却されていく。この月陰学園では、担任の先生に受け持っているクラスのテストを全て渡され、担任の先生が全教科の返却を行うという形になっている。

 先にテストを返却された奴等からは、落胆やら歓喜やら羨望嫉妬の入り混じった声が飛び交っていた。暫く待機していると、とうとう俺の番となった。

 「田中ー」
 「ハイ」

 素っ気なく名前を呼ばれて素っ気なくテストを渡された。ククク……普段平均点の俺がよほど良い点数を取ってしまって驚きを隠しているんだな?佐藤先生もわかりやすい人だ。

 さぁいでよ点数!俺にその素晴らしくも美しい姿を表してくれ!バッと勢い良く広げた答案用紙。その右上に書かれた赤色の数字が飛びこんでくる。

 65点。

 平均点。

 ふにゃふにゃとその場に崩れ落ちた俺は、どうやら暫くそのままの体勢だったそうな。(カズミネ談)

 その後もテスト返却は行われたが、全て平均点だったのでむしろ開き直った。赤点を取らないだけまだマシなのだ。テスト返却された星叶が異様に喜んでいたので、もしや俺だけ勉強の成果がないのでは?と心配して星叶に点数を聞くと、それはそれは笑顔で、

 「赤点じゃありませんでした!」

 と言ってきたので深くは追求しないでおいた。仕方ないよね。アホの子だもんね。

 まぁ何はともあれ今学期のテストは終了。肩からどっと力が抜けた。テストに期間になるといつもいつも気が張って仕方がない。だが、これでようやっと夏を迎える事が出来そうだ。

 因みにカズミネは全教科90点超えでクラス1番、学年で4番という結果でした。腹立つよね。

◆◆◆

 「それでテストはどうだったのよ」
 「全教科平均点だ。凄いだろ」
 「凄いけど、誇れる凄さじゃないわよね?」
 「グッ……!じゃあそういうお前はどうなんだ愛川」
 「私は全部80点は超えてるわよ。国語に至っては100点だしね」
 「俺の得意教科でここまで差が着けられるとは…」
 「貴方、全教科毎回平均点なら得意不得意関係ないんじゃないの?」

 テストも終了し返却も終えた翌日。俺は愛川との約束通りに、あれから毎朝中庭に顔を出していた。流石に時間が立てば、会長とのあの話も頭の隅に追いやられて思い出される事があまりなくなってきてはいる。再開しようと思えばいつでも朝の勉強は再開出来るのだが、それはまだ先でもいいのだろう。

 今は愛川の手伝いでもしておく。

 手伝いと言っても、俺に出来る事はほんの僅かだ。花壇の花に水を上げて、新たに生えてきた小さな雑草を摘む。最近は毎日こんな感じだ。少し新鮮味に欠けてきたので、愛川に尋ねた。

 「なぁ愛川。この花壇で何か野菜とか栽培出来ないのか?」
 「出来るわよ。でも何を栽培するの?」
 「まぁもうじき……というより既に夏だしな。夏野菜の苗なんか植えても良さそうだな」
 「悪くないわね。それじゃあ明日にでも植えましょうか。でも、苗が無いから買いに行かないと……」
 「それなら今日の放課後一緒に買いに行くか」
 「ええそうね……って、え?」
 「え?」

 何か変な事でも口走ってしまったのだろうか。買い物の提案をしたら、愛川が固まってしまった。そんなに驚く事なのか?

 もしや「貴方となんか買いに行きたい訳ないでしょ。馬鹿じゃないの?」とでも言われるのだろうか。そんなん言われたらシャイボーイの俺はあっさりと心が折れてしまうぞ。しかしその可能性を捨てきる事は出来なくて、愛川に確認してみる事にした。

 「愛川、俺と行きたくないなら別に無理しなくても━━━━」
 「そんな訳ない!」

 食い気味に愛川からの否定があった。力強い否定に思わず驚いてしまったが、後からじわじわとその言葉が身体に入り込んでくる。それは愛川も同じだったのか、普段は綺麗な白色のその頬を赤くしていった。あっだの、うっだの言葉に何度か詰まってはいたが、それでも愛川は小声になりつつ、自分の意思をしっかりと告げてくれる。

 「行きたくない、なんてないから……普通に行きたいし、………というかなんでニヤニヤしてんのよ」
 「ニヤニヤはしてないだろニヤニヤは」

 ニヤニヤはしてないつもりだ。ただ、まぁ笑ってはいたと思う。学年戦で、俺は愛川にそれなりの事(雑魚とかアホとか)を言ったし(後悔はしていない)、愛川だって最初は俺の事を凄く睨みつけてきたりしていた。
 だからだろう。

 『そんな訳ない!』

 その言葉が聞けたから。愛川からどうやら嫌われてないとわかって、安堵の笑みを浮かべていたんだ。まぁ人から嫌われるってのも気分は良くないしな。好かれてるとはまた違う感情なのだろうが、少なくとも愛川にとって俺は悪者じゃないのがわかって良かった。

 「………まぁ良いわ。じゃあ今日の放課後は苗を買いに行くからね。約束よ」
 「ああわかった。約束、だな」

 そうして俺達は約束を交わす。すると愛川がふと、何かを思い出した様な顔をした。

 「そういえば貴方に伝えといてって頼まれた事があったんだった」
 「ん?誰からだ?」
 「会長から」

 その言葉を聞いて、緩んでいた気が再び張り詰めた様に感じた。

 そんな俺の変化に愛川が気がつくはずもなく、愛川は伝えられた要件を俺に話してくれる。

 「ええっと…新しい委員会?の話があるから昼休みにでも生徒会室に来てくれって」
 「………そうか。愛川、ありがとう」
 「別に良いわよこのくらい」

 ついに来たか。この時を待っていた気もするし、待っていなかった気もする。ただ、この学園の生徒会長は油断ならないとだけしっかりと心に刻み込む。怪しすぎる上に意図的に開けられた多数の穴のあるあの話の続きをしようと、お誘いがかかってしまったのか。昼休みにはカズミネもついてきてもらわないとな。

 朝のホームルームが始まる予鈴が校舎内に響いた。どうやら俺の日常編は、ここで終わりらしい。
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