魔竜を封じる部室にて!!

秋月 銀

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一章

その10 一章の蛇足

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 完全下校の時刻となり、文芸部もその日の活動を終えることとなる。夏の夕方は未だに空に青色を残し、まだまだ太陽は沈みそうにもなかった。

 熱気が籠もるこの季節は、冷房のない文芸部室においてかなり苦しい。その為、窓を全開にしておかなければ到底部屋で過ごすことなど出来ない。その全開にした窓を一つ一つと閉めていく。窓を全て閉めた事を部員全員で確認した後、部室から出て部長である夏希なつきが扉に鍵をかけた。スライド型の扉に手をかけて、戸締まりがちゃんと出来ているかを確認して、文芸部の面々はその場で解散となった。

 と、言っても下駄箱まで全員の進行方向は同じであり、他愛のない会話をしながら彼らは歩いていく。皆、一様に表情は明るい。これから何をすべきか、それがようやっとはっきりさせることが出来たからだろう。

 彼らは下駄箱に辿り着き、上履きと革靴を履き替える。生徒玄関を出てしまえば、目の前に日ノ宮学園の正門がある。全員の帰り道はバラバラで、部活動帰りの時は正門で別れを告げてそれぞれの帰途につくのがお決まりだった。そして今日もさよならと手を振って、彼らは別れた。

 「ちょっと、いいですか」

 だが、しゅうの制服の裾を後方からつまむ人物が、一人。秋が振り返るとそこには、冬花ふゆかが俯きがちに立っていた。

 「フユカか。何か忘れ物でもしたのか」
 「いえ、そういうわけじゃないのですが……」

 イマイチはっきりとしない冬花の態度を不思議に思いながらも、次の言葉を秋は静かに待つ。

 何か決心がついたのか、冬花が深呼吸を一つ。そして視線を頭一つ分高い位置にある、秋の瞳にしっかりと合わせた。

 「昨日は言えなかったので、今日お礼を言おうと思いまして」

 先日の池の底漁り。何かが埋まっているとわかった時、何の躊躇いもなく自分が掘り起こしにいくつもりだった。しかし、それは秋の気遣いと共に、機会を失った。あの時、珍しく気遣ってくれたことへの感謝を述べたいと冬花は考えていた。

 だが、秋は顔をしかめながら首を傾げた。

 「お礼?それに昨日?すまんが心辺りがさっぱりないんだが」
 「………………………」

 数瞬ばかり、冬花の動きが止まる。そしてその後、大きなため息を吐いた。

 「やはり何でもないです。シュウにお礼を言うくらいならそのへんの雑草に言った方がまだ価値があります」
 「なんだそら。急に人を貶すな。というか本当に何でもなかったのか?」
 「ええ本当に。それじゃ私はこれで。さよならです」
 「そうか、わかった。また明日な」

 そう言って冬花は秋に背を向けて歩きだした。柄にもなく、それに秋相手に緊張していたのが不思議に思えてきた。それより、秋が昨日のことをすっかり忘れているということに対して腹が立つ。その怒りを道端の小石を蹴ることで発散する。

 そして昨日を思い返す。真っ先に思い出されるのは秋のあの言葉。

 『それでも、女の子を水浸しにさせるわけにはいかないだろ』

 思えば秋とは高校入学してからの三ヶ月、遊んだり喧嘩したりして過ごしていたが、秋から女の子扱いされたのは何気に初めての様な気がする。というより、友達があまり存在せず、男子との関わりも文芸部以外なかった冬花にとって、家族以外の異性からの女の子扱い自体初めてだ。

 思い出した言葉に冬花は、拗ねた様に口を尖らせた。

 「ちょっと嬉しく思ってた私が馬鹿みたいじゃないですか……」

 気がつけば、空はもう茜色へと変化していた。
 朱に染まる頬は、夕焼けのせいか、はたまたそれは━━━━

 冬花はもう一度、小石を蹴飛ばした。




 これは蛇足の話。あってもなくても構わない、そんな話。
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