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二章
その17 二章の蛇足
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その日の文芸部の活動は、普段よりも数十分も早く終了した。その理由は二つ目の不思議を解明したこともあるが、やはり大きいのはナツキの意趣返しに皆が怖がっていたからだろう。自分達が何気なく過ごしていた体育館の壁中に、無数の『き』があるなど想像しただけでも恐ろしい。取り囲まれる恐怖を身に沁みて理解出来た文芸部員達は、今後誰かを取り囲まないと誓いを立てたのだった。
季節は夏であり、時刻は四時を回っているが夕暮れというにはまだ空が青過ぎる。その為、暗くならないうちに、この空の明るさで恐怖を紛らわせることができるうちに、解散となった。
体育館から皆でまとまって渡り廊下を伝い、校舎の方に歩いて行く。体育館シューズや上履き、革靴などは全て下駄箱に置いてあるので、体育館シューズを革靴に履き替えたら即座に下校することが出来る。
「それでお前ら荷物を全部下駄箱に置いていたのか……」
「そうですね。当初は文芸部室に荷物を置いていたら面倒くさいと思って持って来ていたのですが、思わぬ形で役立ちました」
「いやもうホント……すぐにでも帰りたいわ」
「じゃあ、シュウとナツキ。お先に失礼するよ」
効率を重視して、正鞄などの荷物を下駄箱付近にまで持って来ていた冬花、春、雨の三人は、それぞれ別れを述べて学園を後にした。残っていたのは秋と夏希の二人。どちらも文芸部室に荷物を置いたままだった。
「俺も荷物を持って来ておけば良かった……」
「んー?その時は女の子一人で文芸部室まで行かせてたのー?」
「その時はフユカでもハルでも連れていけばいいだろ。それに、ナツキはあんまり怖がってなさそうだしな」
「あ、バレたー?」
カラカラと夏希が笑う。それを秋はため息混じりに見やった後、二人で部室棟へと歩いて行った。
アブラゼミが鳴いている。夏の風物詩とも言えるセミの鳴き声だが、冷房が効かない文芸部室にとっては暑さを感じさせる要因でしかない。かろうじて、窓を解放し風を取り入れることで僅かな涼しさを得ていた部室も、戸締まりすると共に蒸し暑くなり始めている。
全ての窓の鍵がかかっていることを確認し、秋は荷物を持って文芸部室の扉に手をかけた。スライド型の扉はガラガラと音を立てながら開かれる。そして、文芸部室の外に一歩を踏み出そうとしていた秋を、夏希は呼び止めた。
「ねぇシュウ。ちょっといいかなー」
「ん?どうかしたのか?」
振り返った秋に夏希は笑みを見せる。普段から目が細いせいで、笑顔を浮かべていると思われている夏希だが、この時の表情は紛れもなく笑顔。その可憐な笑顔が、自分に向けられていることに秋の胸は思わず高鳴る。
「昼休みの時にさー落ちそうな私を助けてくれたよねー」
「あ、ああ。まぁ怪我がなくて良かったよ」
「本当にありがとねー」
そう言った夏希は歩き出す。そして秋と殆ど変わらない身長の彼女は、秋の耳元ヘそっと口を寄せた。
「あの時のシュウ、男らしくてかっこよかったよ」
一瞬、何を言われたのか秋には理解できなかった。しかし、その言葉を脳内で何度も反芻し、やっと理解した秋はすぐに頬を赤くした。夏希を慌てて視線で追いかけると、彼女はもう部室から退出していた。
扉の向こうから顔だけ出して、夏希は呼びかける。
「早くしないと閉めちゃうよー」
「ちょっ、ちょっと待ってくれって!」
秋も急いで部室から出る。
この時の秋には気づく由もなかっただろう。夏希の耳がほんのりと朱色に染まっていたことに。
夏希は思う。体が熱いのは、きっと夏だから。セミの鳴き声が聴こえるせいだから、と。
日ノ宮学園は、今日もアブラゼミが鳴いている。
これは蛇足の話。あってもなくても構わない、そんな話。
季節は夏であり、時刻は四時を回っているが夕暮れというにはまだ空が青過ぎる。その為、暗くならないうちに、この空の明るさで恐怖を紛らわせることができるうちに、解散となった。
体育館から皆でまとまって渡り廊下を伝い、校舎の方に歩いて行く。体育館シューズや上履き、革靴などは全て下駄箱に置いてあるので、体育館シューズを革靴に履き替えたら即座に下校することが出来る。
「それでお前ら荷物を全部下駄箱に置いていたのか……」
「そうですね。当初は文芸部室に荷物を置いていたら面倒くさいと思って持って来ていたのですが、思わぬ形で役立ちました」
「いやもうホント……すぐにでも帰りたいわ」
「じゃあ、シュウとナツキ。お先に失礼するよ」
効率を重視して、正鞄などの荷物を下駄箱付近にまで持って来ていた冬花、春、雨の三人は、それぞれ別れを述べて学園を後にした。残っていたのは秋と夏希の二人。どちらも文芸部室に荷物を置いたままだった。
「俺も荷物を持って来ておけば良かった……」
「んー?その時は女の子一人で文芸部室まで行かせてたのー?」
「その時はフユカでもハルでも連れていけばいいだろ。それに、ナツキはあんまり怖がってなさそうだしな」
「あ、バレたー?」
カラカラと夏希が笑う。それを秋はため息混じりに見やった後、二人で部室棟へと歩いて行った。
アブラゼミが鳴いている。夏の風物詩とも言えるセミの鳴き声だが、冷房が効かない文芸部室にとっては暑さを感じさせる要因でしかない。かろうじて、窓を解放し風を取り入れることで僅かな涼しさを得ていた部室も、戸締まりすると共に蒸し暑くなり始めている。
全ての窓の鍵がかかっていることを確認し、秋は荷物を持って文芸部室の扉に手をかけた。スライド型の扉はガラガラと音を立てながら開かれる。そして、文芸部室の外に一歩を踏み出そうとしていた秋を、夏希は呼び止めた。
「ねぇシュウ。ちょっといいかなー」
「ん?どうかしたのか?」
振り返った秋に夏希は笑みを見せる。普段から目が細いせいで、笑顔を浮かべていると思われている夏希だが、この時の表情は紛れもなく笑顔。その可憐な笑顔が、自分に向けられていることに秋の胸は思わず高鳴る。
「昼休みの時にさー落ちそうな私を助けてくれたよねー」
「あ、ああ。まぁ怪我がなくて良かったよ」
「本当にありがとねー」
そう言った夏希は歩き出す。そして秋と殆ど変わらない身長の彼女は、秋の耳元ヘそっと口を寄せた。
「あの時のシュウ、男らしくてかっこよかったよ」
一瞬、何を言われたのか秋には理解できなかった。しかし、その言葉を脳内で何度も反芻し、やっと理解した秋はすぐに頬を赤くした。夏希を慌てて視線で追いかけると、彼女はもう部室から退出していた。
扉の向こうから顔だけ出して、夏希は呼びかける。
「早くしないと閉めちゃうよー」
「ちょっ、ちょっと待ってくれって!」
秋も急いで部室から出る。
この時の秋には気づく由もなかっただろう。夏希の耳がほんのりと朱色に染まっていたことに。
夏希は思う。体が熱いのは、きっと夏だから。セミの鳴き声が聴こえるせいだから、と。
日ノ宮学園は、今日もアブラゼミが鳴いている。
これは蛇足の話。あってもなくても構わない、そんな話。
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