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3章
04 いざ、沖縄へ
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決まったとなれば善は急げだった。
その日のうちに支度を始めると2日後には坂戸、佳澄、相崎、贄の一行は沖縄に立つべく、新後空港へ来ていた。
時間の空いている由加里に桐子を始めとした何人かのチームメイトたちと本保に見送られ、坂戸が最後に保安検査場の金属探知機を通ろうとしたときである。
坂戸が由加里と桐子と本保に目配せをし、みなから離れた所へ誘導する。
幸いにして蘭となつめとつぼみはいない。それでも、不審な人物がいないか視線を巡らし、口に手を当てて声を潜ませた。
「蘭たちには気をつけて、何かあったらすぐにポケベルに知らせること、いいわね?」
「わかってる。奴らがどう出て来るのかわからないけど、警戒は怠らないようにする」
「宿泊先に着いたらすぐに電話するから。あと、土曜日に帰って来れなかったら頼むわね」
坂戸が金属探知機のゲートをくぐる。先に行った3人と合流し、搭乗口へ向かって行った。
留守を任された由加里は、坂戸の姿が消えた途端に沸き起こった得も言われぬ不安に胸を騒がせつつも、現実と対峙(たいじ)せねばならないと悟っていた。
蘭、なつめ、つぼみの3人に目立った動きはないものの、それがかえっていついかなるときにどんな行動を移すのか。水面下で何をしているのか掴めていないし、わかっていない。
3人にしてみれば、目の上のコブである坂戸がいない今が絶好の機会。虎視(こし)眈々(たんたん)と絶妙なタイミングを今か今かとうかがっているはずだ。
それに、練習試合の監督代行を任されてしまった。助監督に本保はいるとはいえ、まだ一度も采配を揮(ふる)ったことがない。
――私にできることは新後アイリスを守ること。もうひとりの私はいないけど、桐子もいるし、本保さんも靖子さんだって……。
押し潰されそうなプレッシャーにキリキリ胃が痛む。痛みで思考が後ろ向きなったついでに差し込んできた。
――活きのいい生餌(いきえ)にされている……?
頭を手のひらで何度も叩く。
――どうしてこんなことを思うんだろう。心のどこかで捨て駒にされているのとでも思ってるのかな。未来の由加里が過去の私を危険な目に遭わせるかな? もしかして存在を確認できる私を邪魔だと思ってる……?
心臓の辺りが急に苦しくなる。気が遠くなりそうな感覚に陥りかけた。
――ああ、ダメだダメだ。疑ってもキリがないのに。私がこのザマじゃ。しっかりしろよ私!
頬を手のひらで何度も叩く。
――あの3人が何かしてきたら、そのときはそのときだ。試練や修行だと思って、頼れる人に相談してみんなで対処する! それだけだ。
気持ちを強くし、視線を正面に据える。いつの間にか最後尾を歩いていたらしく、少し前を歩く桐子と本保のあとを急いで追った。
「さーて、邪魔者が消え失せたし、蘭たちもこっからが正念場だよっ♪」
蘭とつぼみとなつめの3人は空港の片隅から見送り風景を眺めていた。
「片方の作戦は私と蘭で進んでるけど、なつめのほうはこれからだな」
坂戸の監視になりを潜めていたなつめだったが、邪魔者さえいなくなれば、こっちものである。しかし、今まで動けなかった分、これから動かなければ間に合わない。
「……大丈夫」
なつめはもごもご口を動かす。由加里と話すとき以外は、普段のままであった。
「でもさ、思ったんだけど、壱岐あたりに言い含めてるんじゃねーか。仕事が終わったら真っ先に寮に来るだろうし」
つぼみの懸念に、蘭は背筋が凍るような声で言った。
「佐渡と壱岐の接触を減らせばいいのよ」
すでに蘭はバイトと称して拝藤組側の人間を桐子の職場に放ってある。なんらかのアクションがあるだろう。
「ハハ、こえーこえー。しっかし、金の力ってすごいな。目の色が変わる瞬間って、あんなに醜く見えるんだな」
「あたりまえじゃない。人間と金は切っても切り離せない。金に頓着したくなかったら、仙人にでもなるか人間を辞めるしかない」
つぼみは下品に声を上げて笑う。ひとしきり笑ったあと、口調を改めた。
「上手くいったら、本当に拝藤組に入れてくれるんだろうな」
蘭は辟易(へきえき)とした表情になった。
「しつこいわよ。私が社長の秘書を通して話を伝えるって言ってるじゃない」
「心配なんだよ。何かを得るときは犠牲が伴うって言うじゃねえか」
「そうよ。その通りよ。……犠牲ばかりのギャンブル狂いが使う言葉じゃないけどね」
つぼみがおもしろくなさそうに舌打ちをし、眉と声をひそめて言った。
「なあ、今度はなつめに何を吹き込んだんだ。暇さえあれば何かをブツブツ言ってるヤバい奴になってんだけど」
なつめの口がわずかに動き、そこから言葉にならない音が漏れている。
「自分が叶えたい願いを一日を3万回ずつ言うと、いずれはその願いが叶うって教えたのよ」
一瞬言葉に詰まったつぼみだったが、なんとか絞り出すように言った。
「ほかにも色々吹き込んだみたいだし、もはや洗脳だな」
「洗脳とは少し違うわね。人には適材適所がある。なつめみたいな娘(こ)は、私たちがやってる多くの人と関わる作戦には向かない。ひとりの人間に的を集中させたほうが、やりやすいに決まってる。私ただ、なつめにふさわしい働き口を与えただけ。そして、やり方を伝授(でんじゅ)してるだけなの」
ビビりのつぼみはこれ以上は何も言えず、適当に相づちを打った。
「どんな形であれ、奪うという行為は難しいのよ。だいたいの場合は相手の抵抗があるからね。まあ、抵抗の度合いにもよるけど」
蘭は口元を妖(あや)しく歪(ゆが)めた。
「土曜日の試合が楽しみだわ♡」
その日のうちに支度を始めると2日後には坂戸、佳澄、相崎、贄の一行は沖縄に立つべく、新後空港へ来ていた。
時間の空いている由加里に桐子を始めとした何人かのチームメイトたちと本保に見送られ、坂戸が最後に保安検査場の金属探知機を通ろうとしたときである。
坂戸が由加里と桐子と本保に目配せをし、みなから離れた所へ誘導する。
幸いにして蘭となつめとつぼみはいない。それでも、不審な人物がいないか視線を巡らし、口に手を当てて声を潜ませた。
「蘭たちには気をつけて、何かあったらすぐにポケベルに知らせること、いいわね?」
「わかってる。奴らがどう出て来るのかわからないけど、警戒は怠らないようにする」
「宿泊先に着いたらすぐに電話するから。あと、土曜日に帰って来れなかったら頼むわね」
坂戸が金属探知機のゲートをくぐる。先に行った3人と合流し、搭乗口へ向かって行った。
留守を任された由加里は、坂戸の姿が消えた途端に沸き起こった得も言われぬ不安に胸を騒がせつつも、現実と対峙(たいじ)せねばならないと悟っていた。
蘭、なつめ、つぼみの3人に目立った動きはないものの、それがかえっていついかなるときにどんな行動を移すのか。水面下で何をしているのか掴めていないし、わかっていない。
3人にしてみれば、目の上のコブである坂戸がいない今が絶好の機会。虎視(こし)眈々(たんたん)と絶妙なタイミングを今か今かとうかがっているはずだ。
それに、練習試合の監督代行を任されてしまった。助監督に本保はいるとはいえ、まだ一度も采配を揮(ふる)ったことがない。
――私にできることは新後アイリスを守ること。もうひとりの私はいないけど、桐子もいるし、本保さんも靖子さんだって……。
押し潰されそうなプレッシャーにキリキリ胃が痛む。痛みで思考が後ろ向きなったついでに差し込んできた。
――活きのいい生餌(いきえ)にされている……?
頭を手のひらで何度も叩く。
――どうしてこんなことを思うんだろう。心のどこかで捨て駒にされているのとでも思ってるのかな。未来の由加里が過去の私を危険な目に遭わせるかな? もしかして存在を確認できる私を邪魔だと思ってる……?
心臓の辺りが急に苦しくなる。気が遠くなりそうな感覚に陥りかけた。
――ああ、ダメだダメだ。疑ってもキリがないのに。私がこのザマじゃ。しっかりしろよ私!
頬を手のひらで何度も叩く。
――あの3人が何かしてきたら、そのときはそのときだ。試練や修行だと思って、頼れる人に相談してみんなで対処する! それだけだ。
気持ちを強くし、視線を正面に据える。いつの間にか最後尾を歩いていたらしく、少し前を歩く桐子と本保のあとを急いで追った。
「さーて、邪魔者が消え失せたし、蘭たちもこっからが正念場だよっ♪」
蘭とつぼみとなつめの3人は空港の片隅から見送り風景を眺めていた。
「片方の作戦は私と蘭で進んでるけど、なつめのほうはこれからだな」
坂戸の監視になりを潜めていたなつめだったが、邪魔者さえいなくなれば、こっちものである。しかし、今まで動けなかった分、これから動かなければ間に合わない。
「……大丈夫」
なつめはもごもご口を動かす。由加里と話すとき以外は、普段のままであった。
「でもさ、思ったんだけど、壱岐あたりに言い含めてるんじゃねーか。仕事が終わったら真っ先に寮に来るだろうし」
つぼみの懸念に、蘭は背筋が凍るような声で言った。
「佐渡と壱岐の接触を減らせばいいのよ」
すでに蘭はバイトと称して拝藤組側の人間を桐子の職場に放ってある。なんらかのアクションがあるだろう。
「ハハ、こえーこえー。しっかし、金の力ってすごいな。目の色が変わる瞬間って、あんなに醜く見えるんだな」
「あたりまえじゃない。人間と金は切っても切り離せない。金に頓着したくなかったら、仙人にでもなるか人間を辞めるしかない」
つぼみは下品に声を上げて笑う。ひとしきり笑ったあと、口調を改めた。
「上手くいったら、本当に拝藤組に入れてくれるんだろうな」
蘭は辟易(へきえき)とした表情になった。
「しつこいわよ。私が社長の秘書を通して話を伝えるって言ってるじゃない」
「心配なんだよ。何かを得るときは犠牲が伴うって言うじゃねえか」
「そうよ。その通りよ。……犠牲ばかりのギャンブル狂いが使う言葉じゃないけどね」
つぼみがおもしろくなさそうに舌打ちをし、眉と声をひそめて言った。
「なあ、今度はなつめに何を吹き込んだんだ。暇さえあれば何かをブツブツ言ってるヤバい奴になってんだけど」
なつめの口がわずかに動き、そこから言葉にならない音が漏れている。
「自分が叶えたい願いを一日を3万回ずつ言うと、いずれはその願いが叶うって教えたのよ」
一瞬言葉に詰まったつぼみだったが、なんとか絞り出すように言った。
「ほかにも色々吹き込んだみたいだし、もはや洗脳だな」
「洗脳とは少し違うわね。人には適材適所がある。なつめみたいな娘(こ)は、私たちがやってる多くの人と関わる作戦には向かない。ひとりの人間に的を集中させたほうが、やりやすいに決まってる。私ただ、なつめにふさわしい働き口を与えただけ。そして、やり方を伝授(でんじゅ)してるだけなの」
ビビりのつぼみはこれ以上は何も言えず、適当に相づちを打った。
「どんな形であれ、奪うという行為は難しいのよ。だいたいの場合は相手の抵抗があるからね。まあ、抵抗の度合いにもよるけど」
蘭は口元を妖(あや)しく歪(ゆが)めた。
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