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3章
15 暴挙
しおりを挟む食堂に入って来たばかりの蘭とつぼみの目が点になった。
今まさに鞘(さや)を外してナイフを手にしたなつめが、由加里に忍び寄っていたからだ。
「蘭ちゃん、つぼみちゃん、やるなら今だよッ!」
蘭は眉間に深いシワを作った。
――なつめの大馬鹿野郎。段取りを守れないなんて……洗脳が過ぎたか。まあ、いい。よくここまで我慢したと思えばいいんだ。
気持ちを切り替えた蘭とつぼみは硬い表情でなつめの元へ急行した。
「な、何をするつもりなんだ」
言ってから自分の声が恐怖におびえていることに気づき、由加里は悔しげに唇を血が滲むほど噛んだ。
「由加里、恨むんならもうひとりの自分である坂戸を恨むんだな。つぼみ、このロープで由加里の腕を縛って」
「わ、わかった」
つぼみが震える手で由加里の両手を後ろに回し、縛ろうとする。
「お前たち、何を考えてるんだ。そうはさせるか!」
本保が勢いよく突っ込んでくると同時に、ナイフを持ったなつめが前に出て迎え撃った。
「ぐあッ」
なつめが普段見せたこともない忍者を彷彿(ほうふつ)とさせる動きで、身をかわしながら本保の首筋に手刀を振り下ろした。本保は前のめりに盛大にすっ転ぶ。すばやく馬乗りになって切っ先を首に突き刺そうとする。
「や、やめ……」
由加里が目を見開いて止めようとするが、恐怖でのどが締めつけられ、声が出てこない。
「やめな!」
くしくも代わりに言ったのは蘭だった。つぼみが傍らであたふたしている。
「本保のおっさんが完全に動かなくなったぞ! どど、どうすんだよ!」
ビビリきったつぼみが悲鳴にも似た声を発しながら蘭の顔色をうかがっている。
「馬鹿。あんな手刀ごときで死ぬもんか。早く起き上がらんうちに手足を縛って来いッ」
蘭に尻を蹴られ、つぼみは弾かれたように飛び出していく。
蘭は周りに睨みを利かせながら、うんざりした様子で頭を掻いた。
――八百長でいい思いをさせてやった連中は来ねぇ。まあ、来たところで役に立ちそうもないか。桐子を返したのとなんとなく集まりにくくしてくれただけマシだな。あとは、坂戸――いや、佐渡由加里の帰りを待つだけだ。
頭の中でこれからのことを思い描いていると、腕を縛られて床に座らされてる由加里が虚勢を張ってきた。
「何を企んでる?」
「さあ、なんだと思う?」
「アンタ、平瀬蘭じゃない。狭山嘉奈なんだろ」
「だったらどうする? そうだったらなんなのよ?」
「新後アイリスになんの恨みがあるんだ。拝藤組はアンタに何をしてくれるんだ!」
「だーかーらー」
蘭は由加里の目の高さまでしゃがみ、おもむろにビンタを頬に1発喰らわせた。
「用があるのはアンタが老いぼれたほう! なーんも知らない人間は黙ってな!」
「靖子さ――」
靖子に110番してもらおうと精いっぱい口を開こうとするが、またもビンタが頬に飛んできた。
「ねえ、それ以上お口を閉じないと――」
蘭が指を鳴らすと、かたわらにいたなつめが同じようにしゃがんだ。目が狂気に支配され、もう一声あれば殺しかねない雰囲気に包まれている。
「喉を切り裂くわよ」
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