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3章
18 暴挙鎮圧
しおりを挟むなつめが警戒しつつ厨房に入ると、奥まった所で贄が夕食のおかずである肉じゃがを食べていた。
「あまりにもお腹が空きすぎて裏から入ったんだ」
「誰!?」
食堂から嘉奈の詰問口調が飛んでくる。
「新後テレビの贄がいた。今からそっちに連れてく」
振り向いてなつめが訝(いぶか)しげに問いかけた。
「確か沖縄に行ってたはずではないんですか?」
「うっ」
喉に食べていたしらたきか何かが詰まったらしく、しきりに咳き込みだした。
なつめは眉を潜ませながらも、背中でも叩いてやろうと近づいていく。
「大丈夫?」
贄は視線を彷徨わせ咳き込むだけだったが、手はテーブルの上の何かを探しているらしかった。
なつめは取ってやろうとなおも近づく。多分、もう少しで届きそうな位置にある真っ赤なマグカップを取りたいのだろう。
ちなみに贄は何か食べ物を食べる際、何かしらの飲み物がないと食が進まないらしい。やっと探し当てたマグカップの中身をあおる。そしてそれを飲み下すのではなく、近くまで来たなつめの顔面目がけて吹きつけた。
「わっ、何これ!? 目が痛いっ」
液体がモロになつめの両目に入り、痛みでひるむ。思わずナイフを取り落としてしまい、急いで拾おうとするも、背後に殺気にも似た気配を感じた。それを認識した瞬間、意識を失った。厨房の隅の積まれたダンボールの裏に桃未が潜んでいで、すばやく駆け寄り、首筋に手刀を喰らわしたのだ。くずおれるなつめを贄が抱きとめ、桃未が太いひもで両手を縛った。
「贄さんナイスっす」
「桃未ちゃんこそ」
小声でお互いを称え合う。そのとき、風を切る異質な音のあとに、何かに着弾した鈍い音が耳に入った。
時間を少しさかのぼる。
坂戸と桐子と佳澄がまだバンで作戦を練っていたとき、桐子がスポーツバッグからボールを取り出した。
「な、これ使えねぇか?」
坂戸が触ってみるとそれは軟球だった。
「まちごーてリトルのモンを入れっぱだったんだわ」
「尻ポケットに入れておけばバレないかもねー。顔面以外にぶつけるんでしょ?」
佳澄が聞くと桐子が愉快げな笑みを浮かべた。
「大丈夫かしら。奴らの味方がボディチェックしない?」
「そんげんそうなったら、そうなったらだこて」
「一か八かの賭けね。ダメだったら、裏手組の負担が激増するけど」
そして、坂戸たちは賭けに勝った。
蘭が八百長に加担させてうまい汁を吸わせてやった選手たちは、もれなく怖気づいて動かずに日和見(ひよりみ)を決め込んだ。結局蘭を筆頭に、つぼみとなつめの3人でコトを進めねばならなくなる。メリットは由加里と本保が人質になっていることぐらいしかない。
坂戸たちは作戦を実行し、それを成功させたのだった。
坂戸は蘭の鎖骨(さこつ)付近に、桐子はつぼみのナイフを持つ右肩にボールを当てた。
ふたりとも痛みで倒れ込むと、坂戸と桐子と佳澄が殺到(さっとう)する。しかし、その前に厨房から出てきたひげ面の男が眼の前を横切った。相崎である。蘭を無視して先につぼみの腕を縛り上げた。どうやら、つぼみはパワーがあるから束にかかっても危ないと相崎なりに判断したらしい。
少し気後れする形になったが、3人は痛みに悶(もだ)える蘭の体を抑えつけた。
「ナら(テメェ)この野郎!」
蘭の頭の前にしゃがんだ桐子が、蘭の髪をわし掴みにし、乱暴に引き上げた。
「オレの大事な相棒の由加里に何をしやがってんだ! 何を企んでんだ? 言ってみれやれ!!」
不快気な表情をしていた蘭の口元が不意に歪んだ。
「近くに」
蘭のささやきに招かれ、桐子は不用心に顔を近づけた。
ペッ
桐子の顔に蘭をツバを吐きかけた。蘭の口元の笑みがますます広がった。
「このクソアマッ……!!」
桐子が怒りに任せて空いた右手で拳を作り、蘭の横っ面をブン殴ろうとしたときであった。
「全員動くな!」
空気を揺るがすような大声が轟く。全員の動きが瞬時に静止し、ただただ声の主のほうに顔を向けた。
上下ベージュの作業着姿の老人――飯酒盃(いさはい)巧次(たくじ)が、開け放たれた食堂の戸の前に厳として立っていたのである。
「あとんことは、わしに任せてくれやれ」
痩せた体で加齢で背も縮んでしまった飯酒盃から発せられる声は、穏やかながら力強く、みなはしばらく釘付けとなった。
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