Unknown Power

ふり

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3章

34 ベースボールから野球へ

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「あら、生きてらしたのね」
「開口一番がそれかよ」

 社長室を辞した足で仲はガウラとネリネを引き連れ、監督室を訪れていた。

「やだわぁ、冗談ですよ」
「笑えねえよ」
「冗談ぐらい言わせてください。アタクシだって昨日大変だったんですからね。誰かさんのおかげで正座説教を2時間受けました」
「ああ……間に合わなくて本当にすまなかった」

 仲は素直に頭を下げた。

「ところでそのふたりはもちろん、仲さんのお眼鏡にかかった人物なんでしょうね」
「あたりまえだ。でなきゃ連れてきてない」

 仲が園木にふたりを紹介する。

「おあつらえ向きにバッテリーを獲得するとは、ね。ひょっとして仲さんは、生名と真鍋が抜けることを存じてました?」

 園木はぬめるような視線を投げかけて来る。仲はため息まじりに一蹴した。

「馬鹿野郎、俺はアメリカにいたんだぞ。知るわけがない」
「そうでしたわね。失礼しました」

 確かに疑われても仕方ない。投手だけ獲得すると言ったのにも関わらず、アメリカに着いてすぐに捕手も獲得すると言っていたのだ。仲はチームのためと思ってやったことも、他人から見れば不可解な行動に見えなくもない。

「仲さーん、この人はモンク(お坊さん)ですカー?」

 園木の剃り上げられた頭を見ながらガウラが唐突に切り出す。

「そんな上品な奴じゃない。シーメール――ただのオカマの坊主頭だ」
「誰がオカマタコ坊主よ!」
「オーゥ! グッドキャラクターってやつですネー! 園木カントク最高デース!」

 ネリネがガウラを手で制しながらわずかに前に足を踏み出した。

「ガウラは黙ってて。園木監督、私たちは日本や日本の野球のことを右も左もわからぬ若輩者です。退団したふたりを超えられるよう精進しますので、ご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどをよろしくお願いします」
「あらあら、そんじょそこらの若者より綺麗な物の言い方をするじゃない。日本に親戚がいるのかしら」

 仲が捕捉した。

「日本に知り合いはいない。日本行きが決まってから独学でここまで話せるようになった」

 何かを感じ取ったらしい。園木の目がキラリと光った。

「素晴らしい頭脳を持ってる。そして、的確にかつ精確(せいかく)に頭で処理することができる。すなわち、短期間で詰め込めるだけ詰め込めることができる、というわけねえ。頭のいいキャッチャーは大歓迎よ♡」

 園木はねっとりと恍惚(こうこつ)とした視線を向けた。

「ネリネさん。ベースボールから野球への転換を急ピッチで進めるけど、覚悟はいいかしら」 
「はい。さっき社長の前でも言いましたが、私の体には無駄な物は一切ありません。この頭脳も例外ではないです」
「うんうん、いいわよいいわよ。で、ガウラさんは……」

 あからさまにかける言葉を考えておらず、尻切れトンボとなる。口を歪めて言葉を探しているように見えた。

「おいおい、天下の園木監督がさっきの言葉で判断しちゃ駄目じゃねえか。日本語が不自由なだけでアホと断定したらいかんだろ」
「誰もアホだなんて見なしてないわよッ。失礼しちゃうわね!」
「ガウラには未知の力が眠っています。何かきっかけのひとつでもあれば、覚醒できるのです。そしてそれは――あらゆるピッチャーを凌駕(りょうが)する」

 重みのある口調で言ったネリネは自嘲(じちょう)気味に唇の端(はし)を歪(ゆが)めた。

「しかし、私では力が足りず、彼女の能力を存分に引き出すことができませんでした。どうか園木監督に仲さん、よろしくお願いします」

 ネリネは深々と頭を下げる。隣のガウラをさりげなく指でつつき、最適なアクションを促す。

「園木カントクゥー、私、がんばりマース!」
「わかりました! ここまでやる気を見せられて奮い立たない人間なんていませんものね。ビシバシッと指導していきますからね。でも、考え違いをしてるようだけど、仲さんはコーチじゃないのよね」
「いや、今回は俺がアメリカまで行って連れてきた選手だ。俺も付きっ切りでつく」

 驚いて口を開けていた園木が、嫌味ったらしく言った。

「あらまあ。前は選手をアタクシに紹介したら、すぐさま飛び回ってらしたのに」

 前の仲ならそうだったかもしれない。しかし、今の仲は金谷(かなや)政(まさ)である。

「事情が事情なんでね。一秒でも早くベースボールから野球に慣れてもらわないと困る。スカウトの仕事なんかやってる場合じゃねえからな」
「ありがたいわぁ。社長のご機嫌がかつてないぐらいナナメですものね。どうにかして勝たないと、アタクシの首も物理的に飛びかねませんもの」
「俺も同じだ。内訌(ないこう)に時間を使ってる時間もなく、手駒もなければ策もなし。こうなればもはや、真っ向勝負の実力でねじ伏せるほかないだろう」

 仲は熱いまなざしをガウラとネリネにも向ける。ガウラは雰囲気を察し、真面目な顔作ってうなずき、ネリネは力強くうなずいた。

「そういうわけだ。野球道具以外の荷物はとりあえず監督室に置いて、早速だが練習場に行くぞ」
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