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2章
03 初めて同士
しおりを挟む「み、美喜お嬢様ですね。わかりました」
ぎこちない優美を見かねて成実が助け舟を出す。
「すいません、この娘まだ新人で~。大目に見てやってくださいねぇ」
美喜は優美のスカートについている若葉マークに今ごろ気づいたみたいだった。
「そうだったんですか。むしろ、練習台でもいいですよ。初めて同士ですし……わたしのことは気にしないでください」
「美喜お嬢様のご配慮、骨身に沁み入りまする」
「優美さん、物の言い方が武士ですわ」
一同が笑い、店内がなごやかな雰囲気が流れようとしていた。
しかし優美は、厨房の物陰から郷子が射るような視線を飛ばしていることに気づいた。
「ちょっと、すみません」
優美が早足で厨房に入ると、作業台の上にチョコレートパフェが置かれていた。
郷子がチョコレートパフェを指差した。
「持ってけ」
「え?」
「初来店のお客様にはサービスをしてるんだよ。早く行け」
「わかりました!」
チョコレートパフェを持って店内に戻ってきた優美は、それを美喜の目の前に置いた。
「これは?」
「初めて来店されたお客様へのサービスです。どうぞ、お召し上がりください」
「ええっ、いいんですか? と、その前に……1枚写真を撮ってもいいですか?」
「どうぞ。大丈夫です」
美喜はデジカメを構えて何回かシャッターを切った。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
生クリームとチョコチップアイスとチョコフレークを、美喜は器用にすくい取り、口を開けた。
「……とっても、おいしいです」
美喜の幸せそうな顔に、優美は自分のことのようにうれしくなった。
「よかった。作った者も喜びます」
横目で厨房を見る。だが、奥に引っ込んだのか郷子の姿はなかった。
子どものように純粋無垢な美喜を横で観察していて、成実はあることを思い出した。
「そうだ、あーんとかできるんですよ!」
「あーん?」
チョコレートパフェを食べる手を止めて、美喜は成実に目を向ける。
「私たちメイドが、食べさせてあげることなんです!」
「ああ、そのあーんですか。へえー……」
美喜は顔を虚空に向けた。何かを言いたいけど、言うまいか迷っているらしい。
突然しゃべらなくなってしまった美喜に、優美たちは声をかけづらくて黙っている。
「よろしければ、わたしで練習します?」
不意な美喜の提案に、優美は手を顔の前で横に振った。
「いえ、そんな悪いですよ」
「そうですか……」
美喜はしゅんと顔を伏せる。それを敏感に感じ取った成実と萌が、
「させてもらえばいいじゃん!」
「せっかく、お嬢様からの申し出なのですから」
と、口々に言ってくる。萌に至っては、隣にいることをいいことに、優美の尻肉を軽くつねっていた。
「本当によろしいのですか?」
「いいですよ。気を遣わせちゃったみたいでごめんなさい」
言葉とは裏腹に、美喜ははずんだ調子で言った。
「それでは……」
「あっ、待ってください!」
美喜が首に提げていたデジカメを、隣で成り行きをニヤニヤと静観していた成実に渡した。
「すいませんが、撮ってもらってもいいですか?」
「いいですよ~。この丸いところを押せばいいんですよねっ?」
「そうです。お願いします」
「はいはーい」
美喜は正面に向き直り、軽く頭を下げる。
「ごめんなさい、優美さん。改めてよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
優美も軽く頭を下げる。それから容器にスプーンを入れ、材料をバランスよくすくい、
「はい、あーん」
「あーん」
スプーンが美喜の口に入った瞬間、成実がデジカメのシャッターを切る。
優美はゆっくりスプーンを引き抜く。
「ふぁ~……さらにおいしくなったよっ。ありがとう、優美ちゃん!」
「いえいえ、どういたしまして」
美喜の喜色満面の顔に、優美はホッとしていると、
「あのね、優美ちゃん。お年寄りに食べ物を食べさせているわけじゃないのだから、最後のほうでスプーンをクイッと上に上げなくてもいいのよ」
萌の優しいながらも厳しさをふくませた口調だった。
「あ、すみません……自分で食べるときの癖で」
「ううん、気にしてないからね。それより、残りの分もお願いしてもいい?」
「もちろん、いいですよ」
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