セクシャルメイド!~女装は彼女攻略の第一歩!?~

ふり

文字の大きさ
36 / 52
5章

04 メイドさんの正体

しおりを挟む
3



「だから、自分は気をつけろとあれほど言ったんだ。まったくもう」
「まーまー、浩(こう)ちゃん。飲むペース速(は)ぇーから、もうちっとゆっくり飲もうや」
「そうですよ。いくら茂(しげ)さんの奢りとは言え、早すぎます」
「……」

 カーテンやブラインドで閉め切ったメイドォールの店内。奥のソファに、手前から浩介(メイド時・郷子)、茂勝(メイド時・萌)、修助(メイド時・成実)、そして美喜が腰を下ろしている。
 テーブルの上にはろうそくが数本立てられ、照明代わりとしている。だが、まったくと言ってもいいほど足りていなかった。お互いの表情を確認できる程度の明るさである。

「……」

 豪篤(メイド時・優美)はみんなと向かい合うように、イスを持ってきてそこに腰を下ろしている。背筋がピンと伸びて一点を見つめている。まるで面接を受けている就活生のようだった。

(まさか本当につれてくるとは……)
 ――私たちが望んだことだし、それに話が早くていいじゃない。あとあとになって、混乱しても困るし。
(そうだな。もうこれしか方法はないんだから)
「黙ってねえで、なんとか言ったらどうだい! まったく、最近の若いモンと来たら……」

 浩介がビールの入ったコップ片手に、まくし立てる。

 ――ああ、酒癖悪っ。
「ひっ」

 顔を下げて無言でいた美喜が、仰天して思わず顔を上げた。
 美喜が黙っていた理由としては、ほかのメイドも例外なく男ということも少しは関係している。修助と違ってほかの面々は、メイドの時の姿と普段の姿のギャップがありすぎた。
 それに加えて、数分前に自己紹介をされた直後である。だから、頭の中で整理が終わるまで、ひと言も話すまいとしていたのだった。

「美喜ちゃんのことじゃないからね」
「そーそー。酒を飲んだ浩ちゃんは、説教魔になっちまうんよ。いつものことだから、あんま気にしねぇで」

 修助と茂勝の言葉を聞き、美喜はホッとした。

「本人の前で説教魔なんて言って、大丈夫なんですか?」
「でーじょぶでーじょぶ。標的以外の言葉は聞こえねーみたいだよ」
「標的って……」

 茂勝のあっけらかんとした言いっぷりに、美喜は微苦笑を浮かべる。

「大丈夫なのかな?」

 美喜もいまだに黙りこくっている豪篤に目を向ける。豪篤は説教を受けていたが、何か思案にふけっているようだった。

「すいません、聞いてますよ。浩介さん」
「本当か?」

 浩介の酔眼にひるむことなく、豪篤は目を合わせながらコップの水を一気に飲み干す。とうとうこのときが来たと、腹にグッと力を入れた。

「この騒動を解決する方法がありますが、その前に美喜さん。優美と出会った後の渚は、どう変わっていきましたか?」
「そうですね……」

 豪篤に水を向けられてみんなの視線が集中する。美喜は、逃げ出しそうになる気持ちを抑え、真摯に向き合うために気を引き締めた。

「渚が優美ちゃんと会ってから、会うたび会うたび『優美ちゃんがね』『優美ちゃんってさ』『優美ちゃんだったら』って言ってて正直、優美ちゃんに嫉妬したよ。せっかくできた友達が、取られるんじゃないかって思いにとらわれたりもした。けど、あるとき一歩引いて渚の目を見てみたの。そこでわかった」

 一旦言葉をくぎって、アイスコーヒーで唇と口の中を湿らした。

「目が濁っていた。会った当初のキラキラとした魅力的な瞳は消えたのね。狂信的で何かひとつしか見えない人間ってこうなるんだと思った。
 このことを知ったことで嫉妬の炎は消えて、憐憫(れんびん)の火が灯った。そして、気付いたの。『ああ、わたしにはどうにもできない』と。その瞬間、奈落に突き落とされたような絶望感がフッと胸をよぎった。どこに隠れていたのかは知らないけどね……。わたしは、わたしは――」

 話していて感極まったらしく、目じりに溜まった涙が、次々と頬をすべり落ちていく。

「渚が以前の状態に戻って、みんなと楽しく話しがしたいだけ……!」

 美喜は嗚咽混じりの声を、歯を食いしばって抹殺する。

「……」

 4人はかける言葉が見つからず、しばらく無言の時間があった。
 最初に声を発したのは修助だった。

「片想いするのは結構だけど、そのことで日常生活に支障をきたすのはいけないよね」

 茂勝も真面目な顔でうなずく。

「一番大切な友達さえも見えなくなるのは、さっすがになぁ」
「……まったく、女って奴はどうしてこうなんだか」

 浩介はビールをあおりながら、ぶつぶつとひとり言を言い出した。
 豪篤もようやく重い口を開いた。

「美喜さんの言ったとおりの状態です。こうなった原因は俺の……演じる優美にあります。このまま放置しておくわけにはいかないので、優美になって、日曜日の約束を果たそうと思います。
 約束は叶えてあげて正体を明かします――おそらく、天国から地獄に落とされるような痛みを味わうと思いますが、正気に戻る確率は高いはず」

 修助には懸念が先立った。

「結構荒療治だねぇ……」
「でも、もうこうするしか方法はないはずだ。今でさえ、気の置けないと思う美喜さんの声が届いてないわけだし」
「うーん……」
「こう言っちゃ悪いが」

 と、前置きしてから浩介は、コップに入った水を一気にあおった。

「それって、おまえ個人の復讐なんじゃないか?」
「ええっ?」

 ハンカチで涙を拭き取っていた美喜は、豪篤を凝視する。豪篤は美喜のほうに向き直った。

「言うのが遅くなってしまったけど、俺は働く前に1週間だけあいつと付き合ってたんだ。だから復讐と取られても仕方ない。だけど、今の俺にうらみもつらみはない。あるのは美喜さんと同じ、憐れみだけだ」
「……」
「俺もあいつの元気な姿がみたい。生意気な口が利けない渚なんて、渚じゃないからな」
「確かに……そうだね」 

 美喜の表情が久しぶりに明るくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...