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5章
05 疑似デート作戦
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人々がにぎわう街中を修助と優美が並んで歩いていた。
修助は普段どおりの私服姿で、表情もいつものようにほがらかな笑みを浮かべている。
優美は姉の彩乃からコーディネートをしてもらった服を着て、緊張した面持ちだった。外でスカートを穿くのは初めてだった。もちろん、骨格でモロバレしたら大変なので、黒いタイツも欠かせなかった。
「ねえねえ、あのカップル。なんかいいよねぇ」
「うん。男の子がちっちゃくてかわいいし、女の子は高身長でキリッとした美人だし。足が長くてうらやましいなぁ」
ウィンドウショッピングをしていたふたりの女が、声をひそませて会話している。耳のいい優美には丸聞こえだったが。
「あの男いいよなー、あんな美人と付き合えてよ」
「いや、案外歳の離れた姉弟かもしれんぞ」
「負け惜しみはいいって」
「負け惜しみじゃねーよ!」
「……どっちもいける!」
「はあ!?」
男子高校生と思われる3人組が、これみよがしに聞こえるような大きな声ですれ違っていく。もちろん、修助と優美の耳に直撃である。
「あら! みなさん、あれを見なさいな!」
「あらー、また背の高いこと高いこと!」
「まるでうどの大木ね!」
「あらあら、それは言いすぎよ。ほっそりしてるし、バレーでもしてたのかしらね」
「奥さん、これからはバスケットの時代って朝のニュースで言ってましたわよ!」
「あんなに背が高くちゃね。まともな就職先はスポーツか寿命の短いモデルよねぇ」
「身長が高くて目鼻立ちはいいけどね……その分、胸に栄養がいかなくなったのねぇ。かわいそうに」
「私のこのお腹に付いた脂肪をあげたいくらいだわ~」
「あらやだ奥さんったら!」
井戸端会議をしているおばちゃんたちが、加齢で低くなった声を高く張り上げ、笑いながら話している。
「あの、うるさく醜いオバタリアン――おばさん――軍団どもめっ……人の気も知らないでっ……!」
優美は両方の拳をぎゅっと握りしめる。歯の軋む音ともに猛獣のうなりのような声が、歯の間から漏れてくる。
「まあまあ」
今にも振り向き様に乗り込みかねない優美を、抱きついて必死に押しとどめている修助。
「確かに言い草はひどいけど、いちいち噛みついてたらキリがないよ」
「放しなさい。いくらアンタでも乱暴に振り払うわよっ」
(もー、豪ちゃんが抑えてくれないと困るよ……こうなったら)
修助は乱暴な方法だと思うも、仕方ないと割り切った。
「優美ちゃん、ちょっと姿勢を低くして」
「いきなりなんで!?」
「いいからいいから」
疑問を頭に漂わせつつも、怒りの炎を少し消し、優美は言うことを聞いてみる。
すると修助は、足と首を伸ばして優美の白い頬にキスをしたのだった。
さかのぼること数日前。美喜も加えたメイドォールで行われた会議後のことだ。
話がひと段落して、夕食を食べようということになり、ファミレスへと移動していた。みんなが思い思いの料理を食べている。
茂勝はスプーンとフォークを器用に使ってパスタを食べている。口に運んだ分を飲み込んでから、豪篤に雑談のつもりで話しかけた。
「たけあっつぁんってさ、女装して外出しねーの?」
「ッ!?」
天丼を食べていた豪篤が、ご飯と噛み砕かれたえび天を噴き出しそうになる。しかし、寸前でこらえて苦しそうに胃に落とした。
「茂さん! いきなり何を言うんです!?」
ほかの3人も強弱があれど、非難のまなざしを茂勝に突き刺す。
「ああ、わりぃわりぃ。間違えちまったい。ちゃんとよー、優美ちゃんを外に出してあげてるのかなーって」
「まるで家で飼ってる犬みたいな言い方ですね」
「え? 実際にそうなんじゃねーの?」
茂勝は首をクイッと動かし、店内を示した。公共の場では誰が聞いているかわからない。女装や人格の話は大きな声ではできないのだ。
豪篤は状況を理解し、軽くうなずいた。
「散歩は行ってないですよ。あいつは行きたそうな表情をしませんし」
「いいや違うね。きっと気を遣ってんだ。のう、修ちゃん」
「そうだね。そういうタイプなんだろうね。けど、ストレスが溜まってるはずじゃ」
「ちょっと待ってくれ」
豪篤はふと目を閉じて優美と会話する。
「……でも、着ていく服がないし、今のままで充分らしいぞ」
「あのね。実際に外に出ないと、いざお見合いデートってとき、早々にヘばっちゃうよ。それでもいいの?」
「そっか……。んじゃ、どうすればいいんだ?」
「うーん……」
すると、フライドポテトを食べていた浩介が、横から口を挟んだ。
「1回、練習してみろよ。おまえのところでオスを飼ってんだろ?」
「いいですけど、みなさんの予定は空いてないんですか?」
「俺は仕事」
「俺も仕事だなー」
浩介は即答し、茂勝も同調するように言った。このふたりの場合、店は俺らがやるから行って来いという意味も含まれている。
美喜は眉を困らせた。
「私はその日、特別講義があるんですよ」
「じゃあ、僕と行くことで決まりだね。土曜日の午後1時ぐらいに、駅前集合でいいかな」
「あ、ああ、いいんじゃねえか。というか、よろしくお願いしますだな」
「こちらこそよろしくね」
人々がにぎわう街中を修助と優美が並んで歩いていた。
修助は普段どおりの私服姿で、表情もいつものようにほがらかな笑みを浮かべている。
優美は姉の彩乃からコーディネートをしてもらった服を着て、緊張した面持ちだった。外でスカートを穿くのは初めてだった。もちろん、骨格でモロバレしたら大変なので、黒いタイツも欠かせなかった。
「ねえねえ、あのカップル。なんかいいよねぇ」
「うん。男の子がちっちゃくてかわいいし、女の子は高身長でキリッとした美人だし。足が長くてうらやましいなぁ」
ウィンドウショッピングをしていたふたりの女が、声をひそませて会話している。耳のいい優美には丸聞こえだったが。
「あの男いいよなー、あんな美人と付き合えてよ」
「いや、案外歳の離れた姉弟かもしれんぞ」
「負け惜しみはいいって」
「負け惜しみじゃねーよ!」
「……どっちもいける!」
「はあ!?」
男子高校生と思われる3人組が、これみよがしに聞こえるような大きな声ですれ違っていく。もちろん、修助と優美の耳に直撃である。
「あら! みなさん、あれを見なさいな!」
「あらー、また背の高いこと高いこと!」
「まるでうどの大木ね!」
「あらあら、それは言いすぎよ。ほっそりしてるし、バレーでもしてたのかしらね」
「奥さん、これからはバスケットの時代って朝のニュースで言ってましたわよ!」
「あんなに背が高くちゃね。まともな就職先はスポーツか寿命の短いモデルよねぇ」
「身長が高くて目鼻立ちはいいけどね……その分、胸に栄養がいかなくなったのねぇ。かわいそうに」
「私のこのお腹に付いた脂肪をあげたいくらいだわ~」
「あらやだ奥さんったら!」
井戸端会議をしているおばちゃんたちが、加齢で低くなった声を高く張り上げ、笑いながら話している。
「あの、うるさく醜いオバタリアン――おばさん――軍団どもめっ……人の気も知らないでっ……!」
優美は両方の拳をぎゅっと握りしめる。歯の軋む音ともに猛獣のうなりのような声が、歯の間から漏れてくる。
「まあまあ」
今にも振り向き様に乗り込みかねない優美を、抱きついて必死に押しとどめている修助。
「確かに言い草はひどいけど、いちいち噛みついてたらキリがないよ」
「放しなさい。いくらアンタでも乱暴に振り払うわよっ」
(もー、豪ちゃんが抑えてくれないと困るよ……こうなったら)
修助は乱暴な方法だと思うも、仕方ないと割り切った。
「優美ちゃん、ちょっと姿勢を低くして」
「いきなりなんで!?」
「いいからいいから」
疑問を頭に漂わせつつも、怒りの炎を少し消し、優美は言うことを聞いてみる。
すると修助は、足と首を伸ばして優美の白い頬にキスをしたのだった。
さかのぼること数日前。美喜も加えたメイドォールで行われた会議後のことだ。
話がひと段落して、夕食を食べようということになり、ファミレスへと移動していた。みんなが思い思いの料理を食べている。
茂勝はスプーンとフォークを器用に使ってパスタを食べている。口に運んだ分を飲み込んでから、豪篤に雑談のつもりで話しかけた。
「たけあっつぁんってさ、女装して外出しねーの?」
「ッ!?」
天丼を食べていた豪篤が、ご飯と噛み砕かれたえび天を噴き出しそうになる。しかし、寸前でこらえて苦しそうに胃に落とした。
「茂さん! いきなり何を言うんです!?」
ほかの3人も強弱があれど、非難のまなざしを茂勝に突き刺す。
「ああ、わりぃわりぃ。間違えちまったい。ちゃんとよー、優美ちゃんを外に出してあげてるのかなーって」
「まるで家で飼ってる犬みたいな言い方ですね」
「え? 実際にそうなんじゃねーの?」
茂勝は首をクイッと動かし、店内を示した。公共の場では誰が聞いているかわからない。女装や人格の話は大きな声ではできないのだ。
豪篤は状況を理解し、軽くうなずいた。
「散歩は行ってないですよ。あいつは行きたそうな表情をしませんし」
「いいや違うね。きっと気を遣ってんだ。のう、修ちゃん」
「そうだね。そういうタイプなんだろうね。けど、ストレスが溜まってるはずじゃ」
「ちょっと待ってくれ」
豪篤はふと目を閉じて優美と会話する。
「……でも、着ていく服がないし、今のままで充分らしいぞ」
「あのね。実際に外に出ないと、いざお見合いデートってとき、早々にヘばっちゃうよ。それでもいいの?」
「そっか……。んじゃ、どうすればいいんだ?」
「うーん……」
すると、フライドポテトを食べていた浩介が、横から口を挟んだ。
「1回、練習してみろよ。おまえのところでオスを飼ってんだろ?」
「いいですけど、みなさんの予定は空いてないんですか?」
「俺は仕事」
「俺も仕事だなー」
浩介は即答し、茂勝も同調するように言った。このふたりの場合、店は俺らがやるから行って来いという意味も含まれている。
美喜は眉を困らせた。
「私はその日、特別講義があるんですよ」
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