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第4章 焔の中の怪物
第1話 フリーディア
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『焔の街 フリーディア』
そう視界の隅に表示される。焔の街……紅焔石、あるといいな。
街はプレイヤーが大勢いて、お祭り騒ぎだった。NPC達も、どこか楽しそうな表情をしている。それにしても、ここのNPCは背が低い人が多いな。もしかすると、ドワーフが多いのかもしれない。腕の良い鍛冶屋がいたら、少し技を見せてもらおうかな。今後の参考にしたい。
「なんか……暑いね」
「そう?僕には平気だけど」
隣を見ると、ハルが少し暑そうにしていた。顔にじんわりと汗を纏わせ、狐耳がいつもよりピンと立っている。動物はああやって熱を放散させているんだと、どこかで聞いたことがある気がする。
「きっとプレア殿はホムンクルスだから、温度変化に強いんだよ……」
「んー、言われてみればそうなのかもしれない」
確かに、この街に近づいた時から、何となくムワッとした空気がしているのは分かったが、特段暑いとは思っておらず、王都にいた時と何も変わらないように思っていた。特にそういった耐性が付いているとは聞いたことはないが、戦闘やステータスとは関係ないところで、そういう性質が存在しているのだろう。
このゲームは、つくづくこういった隠し要素が多い気がする。僕の【統合強化】の元になった【付与強化】はシークレットコマンドの初実行報酬だったし、チェインスキルだって、誰でも思いつくだろうがあれも隠し要素なのだろう。何なら、宝石だって多分隠し要素だろう。とても序盤で普及して良い性能ではないし。
そしてそれらは全て、行動によって左右されるものだった。【付与強化】が手に入ったのも、僕が全プレイヤー中初めて、既存の物にプラスする方式をとったからであって、その特定の行動を行わなくては、僕は今ここまで来ていなかっただろう。
宝石技術が少しずつ形になってきて、スキルなしでも加工できるようになってきてはいるものの。やっぱり、このスキルに対する信頼は圧倒的に厚い。きっと、ゲーム終盤になってもあのスキルは使っていることだろう。その頃には、もっと上位互換のスキルに派生しているかもしれないが。
「さて、とりあえずどうしようか?」
「一先ず宿でも探さない?これだけプレイヤーがいるし、ボクたちが泊まれる所がなくなったら困るもん」
「流石にそんな事態にはならないと思うけど……そうね、今日はこの街を色々回ってみたいし」
ということでホテル探し。王都同様、長期滞在が可能な場所を探す。いっそホームを買うというのも手ではあるが、何にせよお金が足りない。今まで僕達は、僕達がしたいと思ったことだけをしてきた。なので、気付かぬうちにギルドのクエストを殆ど手つかずのまま、第二の街まで来てしまったのだ。
物価が高くなって詰む、なんてことはないはずだが、いずれにせよ金策はぼちぼち考えなくてはならない。まあ、逆に今までクエスト無しで何とかなっていたのは、事実上食費と一部の素材くらいにしかお金を出す機会がないからだろうな。ほんと【統合強化】様さまだよ。
暫く歩き回った末、条件に合う宿を見つけた。長期滞在可能、室内にキッチンあり。大通りからもそう離れてない場所で、宿泊費は王都より若干安め。良かった、物価が王都より高いなんてことはなさそうだ。
「よし!じゃあ部屋も取れたし、観光でもする?」
「うん!行こう、プレア殿!」
ハルも、新しい街で楽しそうだ。やっぱり、今まで来れなかった場所に来た時、無性にワクワクするものだ。昔のゲームでいう隠しエリアみたいな。ここがダンジョンとかなら、浮ついた気持ちで行くと事故が起こることもあるが、幸いここは街の中。敵は出ない、安全地帯だ。
「それにしても凄いね、この街は。灯りが全部火で出来ているんだ」
「プレア殿、それって凄いことなの?」
「さあ?でも、王都は光属性錬金術を使ったものだったからさ……わざわざ火を使うってことは、この街は何か、火に対する特別な思い入れがあるのかなって」
「まあ、焔の街なんて名前だからね……」
観光者向けの演出と考えられなくもないが。いくら炎への親和性が強いと言っても、火事になる恐れもあるだろうし、基本光でどうにかなるなら光を使うのが普通だと思う。
「プレア殿、色んなとこにあの置物あるけど、あれって何だろう?」
ハルがそう指さした先にあったのは、街灯の上、飾りのように付いている謎の彫像だった。それが、街の各所にある。家の軒先だったり、屋根の上だったり。昔沖縄に旅行した時、博物館で見たシーサー像を思い出した。民家の玄関先とかに置いてあるやつ。
別の見やすい位置に同じのがあったため、そっちを見る。その彫像は、猛々しい人型の魔獣のような何かに、炎が纏わりついたような、複雑なデザインをしていた。街灯の上にあるものは、炎こそないが、人型魔獣の部分は同じだった。
「きっと、この街の守り神なのかも」
「ほう?そなたら、訪れ人じゃのう?」
背後にハル以外の声を聞き取る。人違いだったらと思うと怖いが、明らかに僕達に向けて話しかけられたようだったので振り返る。NPCのお爺さんだ。この街の住民だろうか?
「あっはい、そうですが……」
「あの、何かボクたちに御用でしょうか……?」
「ホッホッホ、いや何。ここ最近、急にたくさんの訪れ人がこの街に来たんじゃが……その像に興味を示す者は殆どおらんでのう。珍しく思い、つい声をかけてしもうたわい」
何というか、凄くまったりしてるな、このお爺さん……。フサフサの白髭を蓄え、目を細め、少し腰が曲がってて。いかにも、昔ながらのお爺さんだ。最近は電気的にアクティブな人が多く、日常的にゲームをするのは珍しくない。こう、炬燵でのんびりお茶を啜るような人って、今の時代殆どいなくなってしまった。
だからこそ、このお爺さん世代でそういったゲーム生活とは無縁の生活を送っていそうな人を見ると、例えゲーム内とはいえ何かほっこりするのだ。因みに、そういうゆったりした生活は、リアルでは逆に若者の間でプチ流行中だ。時代は逆行する、というよりは文化は繰り返されるといったところか。
それはさておき、この像こんなに目立つのに、誰も興味を示さないって本当かな?と思ったが。この街に先んじて乗り込むのは専ら攻略メインの人達だから、こういう所まで目が行かないのも無理はないな。細かいところまでゆっくり見られるのは、エンジョイ勢ならではの楽しみだ。
「そうなんですね。あの、この像のモチーフって一体?」
「イフリートじゃよ。炎の最上位精霊イフリート。ワシらの守り神の象徴じゃ」
ハルの問いにお爺さんが答える。なるほど、イフリートか。街の名前が似ているからもしやとは思っていたが。ガイアの時点で予測は出来たが、やはりギリシャ神話からの影響を受けているらしい。単に運営が好きなだけなんだろうけど。今度はハルに代わって僕が質問する。
「象徴、というのは?」
「神様は普段は姿を見せん。そこで、神様とワシらを繋ぐ精霊を、神様の象徴として祀るのが定例なのじゃよ。この街では、それがイフリートというわけじゃ」
なるほど。要するに精霊は、天使と同じように神と人間の間に立つ存在で、その中で最上位に位置するイフリートを、その神を象徴する偶像として崇拝するというわけか。
「どうじゃ、お二人さん。旅の土産に一つ作ってみるか?」
「え、作る……?」
「おや、そういえば言っとらんかったの。ワシはグスターヴ。彫刻家じゃ」
……なんとまあ。どうやらこの人は、この街中のイフリート像を彫った職人その人だったようだ。
そう視界の隅に表示される。焔の街……紅焔石、あるといいな。
街はプレイヤーが大勢いて、お祭り騒ぎだった。NPC達も、どこか楽しそうな表情をしている。それにしても、ここのNPCは背が低い人が多いな。もしかすると、ドワーフが多いのかもしれない。腕の良い鍛冶屋がいたら、少し技を見せてもらおうかな。今後の参考にしたい。
「なんか……暑いね」
「そう?僕には平気だけど」
隣を見ると、ハルが少し暑そうにしていた。顔にじんわりと汗を纏わせ、狐耳がいつもよりピンと立っている。動物はああやって熱を放散させているんだと、どこかで聞いたことがある気がする。
「きっとプレア殿はホムンクルスだから、温度変化に強いんだよ……」
「んー、言われてみればそうなのかもしれない」
確かに、この街に近づいた時から、何となくムワッとした空気がしているのは分かったが、特段暑いとは思っておらず、王都にいた時と何も変わらないように思っていた。特にそういった耐性が付いているとは聞いたことはないが、戦闘やステータスとは関係ないところで、そういう性質が存在しているのだろう。
このゲームは、つくづくこういった隠し要素が多い気がする。僕の【統合強化】の元になった【付与強化】はシークレットコマンドの初実行報酬だったし、チェインスキルだって、誰でも思いつくだろうがあれも隠し要素なのだろう。何なら、宝石だって多分隠し要素だろう。とても序盤で普及して良い性能ではないし。
そしてそれらは全て、行動によって左右されるものだった。【付与強化】が手に入ったのも、僕が全プレイヤー中初めて、既存の物にプラスする方式をとったからであって、その特定の行動を行わなくては、僕は今ここまで来ていなかっただろう。
宝石技術が少しずつ形になってきて、スキルなしでも加工できるようになってきてはいるものの。やっぱり、このスキルに対する信頼は圧倒的に厚い。きっと、ゲーム終盤になってもあのスキルは使っていることだろう。その頃には、もっと上位互換のスキルに派生しているかもしれないが。
「さて、とりあえずどうしようか?」
「一先ず宿でも探さない?これだけプレイヤーがいるし、ボクたちが泊まれる所がなくなったら困るもん」
「流石にそんな事態にはならないと思うけど……そうね、今日はこの街を色々回ってみたいし」
ということでホテル探し。王都同様、長期滞在が可能な場所を探す。いっそホームを買うというのも手ではあるが、何にせよお金が足りない。今まで僕達は、僕達がしたいと思ったことだけをしてきた。なので、気付かぬうちにギルドのクエストを殆ど手つかずのまま、第二の街まで来てしまったのだ。
物価が高くなって詰む、なんてことはないはずだが、いずれにせよ金策はぼちぼち考えなくてはならない。まあ、逆に今までクエスト無しで何とかなっていたのは、事実上食費と一部の素材くらいにしかお金を出す機会がないからだろうな。ほんと【統合強化】様さまだよ。
暫く歩き回った末、条件に合う宿を見つけた。長期滞在可能、室内にキッチンあり。大通りからもそう離れてない場所で、宿泊費は王都より若干安め。良かった、物価が王都より高いなんてことはなさそうだ。
「よし!じゃあ部屋も取れたし、観光でもする?」
「うん!行こう、プレア殿!」
ハルも、新しい街で楽しそうだ。やっぱり、今まで来れなかった場所に来た時、無性にワクワクするものだ。昔のゲームでいう隠しエリアみたいな。ここがダンジョンとかなら、浮ついた気持ちで行くと事故が起こることもあるが、幸いここは街の中。敵は出ない、安全地帯だ。
「それにしても凄いね、この街は。灯りが全部火で出来ているんだ」
「プレア殿、それって凄いことなの?」
「さあ?でも、王都は光属性錬金術を使ったものだったからさ……わざわざ火を使うってことは、この街は何か、火に対する特別な思い入れがあるのかなって」
「まあ、焔の街なんて名前だからね……」
観光者向けの演出と考えられなくもないが。いくら炎への親和性が強いと言っても、火事になる恐れもあるだろうし、基本光でどうにかなるなら光を使うのが普通だと思う。
「プレア殿、色んなとこにあの置物あるけど、あれって何だろう?」
ハルがそう指さした先にあったのは、街灯の上、飾りのように付いている謎の彫像だった。それが、街の各所にある。家の軒先だったり、屋根の上だったり。昔沖縄に旅行した時、博物館で見たシーサー像を思い出した。民家の玄関先とかに置いてあるやつ。
別の見やすい位置に同じのがあったため、そっちを見る。その彫像は、猛々しい人型の魔獣のような何かに、炎が纏わりついたような、複雑なデザインをしていた。街灯の上にあるものは、炎こそないが、人型魔獣の部分は同じだった。
「きっと、この街の守り神なのかも」
「ほう?そなたら、訪れ人じゃのう?」
背後にハル以外の声を聞き取る。人違いだったらと思うと怖いが、明らかに僕達に向けて話しかけられたようだったので振り返る。NPCのお爺さんだ。この街の住民だろうか?
「あっはい、そうですが……」
「あの、何かボクたちに御用でしょうか……?」
「ホッホッホ、いや何。ここ最近、急にたくさんの訪れ人がこの街に来たんじゃが……その像に興味を示す者は殆どおらんでのう。珍しく思い、つい声をかけてしもうたわい」
何というか、凄くまったりしてるな、このお爺さん……。フサフサの白髭を蓄え、目を細め、少し腰が曲がってて。いかにも、昔ながらのお爺さんだ。最近は電気的にアクティブな人が多く、日常的にゲームをするのは珍しくない。こう、炬燵でのんびりお茶を啜るような人って、今の時代殆どいなくなってしまった。
だからこそ、このお爺さん世代でそういったゲーム生活とは無縁の生活を送っていそうな人を見ると、例えゲーム内とはいえ何かほっこりするのだ。因みに、そういうゆったりした生活は、リアルでは逆に若者の間でプチ流行中だ。時代は逆行する、というよりは文化は繰り返されるといったところか。
それはさておき、この像こんなに目立つのに、誰も興味を示さないって本当かな?と思ったが。この街に先んじて乗り込むのは専ら攻略メインの人達だから、こういう所まで目が行かないのも無理はないな。細かいところまでゆっくり見られるのは、エンジョイ勢ならではの楽しみだ。
「そうなんですね。あの、この像のモチーフって一体?」
「イフリートじゃよ。炎の最上位精霊イフリート。ワシらの守り神の象徴じゃ」
ハルの問いにお爺さんが答える。なるほど、イフリートか。街の名前が似ているからもしやとは思っていたが。ガイアの時点で予測は出来たが、やはりギリシャ神話からの影響を受けているらしい。単に運営が好きなだけなんだろうけど。今度はハルに代わって僕が質問する。
「象徴、というのは?」
「神様は普段は姿を見せん。そこで、神様とワシらを繋ぐ精霊を、神様の象徴として祀るのが定例なのじゃよ。この街では、それがイフリートというわけじゃ」
なるほど。要するに精霊は、天使と同じように神と人間の間に立つ存在で、その中で最上位に位置するイフリートを、その神を象徴する偶像として崇拝するというわけか。
「どうじゃ、お二人さん。旅の土産に一つ作ってみるか?」
「え、作る……?」
「おや、そういえば言っとらんかったの。ワシはグスターヴ。彫刻家じゃ」
……なんとまあ。どうやらこの人は、この街中のイフリート像を彫った職人その人だったようだ。
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