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第4章 焔の中の怪物
第7話 咲き乱れろ
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この辺で良いかな。近くの屋根に打っていたワイヤーを解放する。飛ぶ手段を失った身体は慣性に従って降下を始める。姿勢を制御して、背中が地面に向くように維持。3、2、1……今だ!
「……ふぅ、着陸成功」
僕が今何をしたのかというと。実はこの背面の小型ジェット、ワイヤーの牽引以外でも回転させることができる。最初はなかったのだが、練習を経て着陸の安全性を確保するべきだと思い、着陸時に仰向けで降りることで、ジェットの噴射で風のバリアを作り、着陸の衝撃を大幅に和らげるように改良したのだ。
最も、自分で操作しなくてはならない上、数秒しか噴射できないのでミスったら終わりだが。パラシュートも考えたが、しまうのも面倒だし、何より降下が遅すぎる。今みたいに急いでいる時、敵を急襲したい時に、のらりくらりと降りている場合ではない。
「さて、と……」
この辺りはもう住民がいない。避難誘導がしっかり行き届いたようだ。僕は門に手をかけ、そっと開けて外を覗き込んだ。
「うわっ、何だこれ」
まだゴーレム達の姿は近くはない。彼らの進軍スピードを考えれば時間はある。だが、思ったより数が多い。精々10くらいかとタカを括っていたが。
「プレア殿!」
背後から声が上がる。ハルとカンナさん、セイスさんも来たようだ。途中で合流したのだろうか。
「随分速かったな、あの移動」
「ええ、まあ……思ったより速かったです」
「それよりプレアデスさん、敵はどれくらいいるのでしょうか?」
カンナさんが僕達のやり取りにそんなことはどうでも良いという風に割り込む。まあ、実際どうでも良かった。あの数に対抗するなら、それなりに準備が必要だ。
「門の外を見れば分かります」
「はい……え!?」
「プレア殿、これちょっと多くない?」
「ざっと100ってところか。一個体が強くないことを祈るしかないな」
100という数は、一見少ないように思える。しかし、それは無意識のうちに人間で換算しているから。ゴーレムはどんなに弱い個体でも体力が多い。並の人間の10倍以上はあるだろう。それが100体。殲滅できるかできないかで言えば、できる。だが、街に被害を出さずに戦えるかと言われれば、話は違う。
「皆さん!」
雪ダルマさんが駆け寄って来た。後ろにはテラナイトさんとユノンさんもいる。って、あれ?
「あの、僕達だけなんですか?」
「それが……他の最前線プレイヤーはダンジョン攻略に出向いていて、今街にいるのは殆ど非戦闘員だけなんです」
「奴ら、まるで俺達プレイヤーのいない時を狙ったみたいに来やがって……!」
テラナイトさんが拳をギリギリと握りしめ、感情を露わにする。珍しいな。テラナイトさんといえば、雪ダルマ以上に冷静沈着な性格だと有名なはずなのだが。
「とにかく、今はウチらで何とかするしかない」
「無理は承知ですが、どうか協力宜しくお願いします」
ユノンさんと雪ダルマさんが頼み込む。そんなこと言われなくても、僕達のやることは決まっている。むしろ、これはチャンスだ。
「勿論、協力させて頂きます。ちょうど、試したいこともありますし」
ハルが言いながら僕にチラリと目配せする。それを見て、僕は微笑んで頷く。どうやら、ハルも同じことを考えていたようだ。
「ありがとうございます!恐らく戦闘開始は10分後。皆さん、準備の程をお願いします」
10分、か。それだけあれば。
「ハル」
「うん、分かってる。アレをやるんだね?」
「うん。奴らをなるべく散開させないようにしよう」
実は、ゴーレム達の襲撃の知らせが来るより前……再ログインした後、僕達はとあることについて打ち合わせをしている。ハルの装備が完成したことで、初めて出来るようになったのだ。
「カンナさん、彼らにゴーレム達を一箇所に集めるように伝えて頂けますか?」
「はいっ、任されました!」
そう言ってタタッと駆けて行った。これで向こうは大丈夫。あとは……。
………
「そろそろ時間です。準備は大丈夫ですか?」
「はい!バッチリです」
「ありがとう。では、これより作戦を開始します!プレアデスさん、後衛の指示はお任せします」
雪ダルマさん達も作戦を知った上で、その鍵であり発案者である僕を指揮に任命してくれた。本来ならユノンさんがやるべきなのだが、どうやらこの前と同様、自分が指揮をする気はないらしい。
「俺達は前衛を張る。自慢じゃないが固さには自信がある。俺達のことは気にせず撃ってくれ」
「ありがとうございます。間違って殺しちゃったらすみません」
「はっはっは。その時は飯でも奢ってやるよ」
おっ、言ったな~?よーし、もし死んだらとびっきり高いの頼んじゃおう。まあ、流石に冗談だけど。
「では、行くぞ!」
雪ダルマさんの喝に、全員が応える。気合い十分。ゴーレム100体は確かに真っ正面から戦うのは難しい。実際、セイスさんの偵察によるとそれなりの上位個体らしい。だが、これが戦争の幕開けなんだとしたら。こっちだって普通じゃない戦い方をするまで。
門の外に出る。雪ダルマさんとテラナイトさんは、最前線で身構えている。彼らの仕事は、撃ち漏らして進軍してきた個体の撃破。最も、1体たりとも逃すつもりはない。
予定していたラインに前線が触れる。作戦開始だ。僕は門の上に登った2人に声を張り上げた。
「セイスさん!ユノンさん!宜しくお願いします!!」
~~side セイス~~
「……行くよ、合わせてね」
「おう、力を借りるぜ」
プレアデスから合図が入った。彼の立案した作戦が始まる。まずこの作戦では、ゴーレムが散らばらないように纏める必要がある。そこで、俺とユノンさんの錬金術で動きを止める。といっても、俺の風属性は決して属性相性が良いわけではなく、ユノンさんも水属性は得意ではない。だが。
「【クラウドサモン】」
ユノンさんがゴーレム軍の上空に雨雲を生成する。おいおい、どこが不得意だよ、全く。召喚された雲から、シトシトと雨が降り出す。通常はあまり攻撃力がなく、あまり使い所がないものだ。だが、プレアデスはそれを使う。彼はどこか、頭が切れるというか、少し発想力が特別だ。きっと、いずれ大きくなる。
「何してるの、あんまり保たないんだから早くして」
「はいはい、分かってるっての……【エアードーム】」
発動と共に、ゴーレム達の周囲を風の幕が吹き始める。大して強い風ではない。普通ならそよ風程度だ。だが、湿気を含み、雨粒を閉じ込めドーム内に飛散させることで、それは変わる。水に弱い奴らは、これであのドームから出づらくなった。任務完了だ。
「流石は『蒼の奇術師』。名前を変えても、腕は落ちてないようね」
「ふん、やっぱお前にはバレてたか……『鷹の目』のユノンさんよ」
「その名前はやめて」
「なら、俺のことをバラすのもやめてもらおうか」
~~side プレアデス~~
何だろう、門の上に緊張感が走っている気がする。何かあったのかな?まあ、今はいいか。彼らのお陰で、無事に奴らを封じ込めることに成功した。だが、あれもそう長くは保たないし、それ以前に威力が相当低いので、ゴリ押せることを悟られると後がない。急ごう。
「ハル、準備は良い?」
「うん、いつでも」
ハルは既に小春を抜いている。桜色の刃を煌めかせて。うん、きっと小春もやる気十分なんだろう。
「じゃあ行くよ……【連鎖爆破】!」
僕は湿った空気の膜の内側に、大量の蒼粒石を散らして行く。1体につき1~2粒で良いかな。しかし、このままでは蒼粒石は中心に落下して爆発するだけだ。だから、ハルが決めてくれるんだ。
「ハル!」
「行くよ!【桜花爛漫】!」
天に掲げた刀身が桜のオーラを纏ったかと思うと次の瞬間。轟々という勢いで無数の花弁が噴き出し、天高く昇っていく。これら全てが、今やハルの刀の延長。刀一振りで、その全てを制御する。
「やあぁぁぁぁっっ!!」
掛け声と共に、ハルが刀を振り下ろす。さながらムチのようにしなりながら、花弁の奔流は正面に飛んで行く。そしてセイスさん達の作り出した気流を目印にするように、竜巻のように激しく回転させる。吹き荒れる花弁達が、爆破寸前の蒼粒石を次々と巻き込み、散らして行く。それがゴーレム達を全て呑み込むのは、一瞬だった。
「咲き乱れろ!合技「【桜花壊塵撃】!」」
ズガガガガガァァッ……!!
スキル名の宣言と同時に、空気をつんざくような爆音を立てて、桜色の破壊が齎された。雪ダルマさん達は唖然としている。僕としても、予想よりずっと高威力の攻撃になってビックリしている。吹き荒ぶ桜の嵐が止んで消えた時、そこに残っていたのは焼け焦げた地面と散らばる残骸だけだった。
「やったね!プレア殿!」
「うん!上手く行って良かった」
ハイタッチ。当然、練習などしておらずぶっつけ本番だったが。事前に互いが強いイメージを共有していたこと、そして僕達の信頼の強さこそが、この攻撃を齎してくれたのだ……と、僕は信じる。
ーーープレイヤーレベルがアップしました。(Lv.25→31)
ーーープレイヤーレベルがLv.30に到達しました。特殊装備品スロットを1つ解放します。
ーーーシークレットクエスト『絆の一撃』をクリアしました。ペア称号《固く結ばれた絆》を獲得しました。
ーーー条件を確認。ペア称号授与者間の親愛度が既定値を突破。称号《固く結ばれた絆》は称号《運命の赤い糸》に派生進化しました。
ーーーチェインスキル【桜花壊塵撃】を獲得しました。
《運命の赤い糸》
前提称号《固く結ばれた絆》を獲得し、さらに互いの親愛度が高いことで取得。称号で結ばれた相手が半径10m以内にいる時、自身と相手の全ステータスに中補正。
うん、どうやら2名でスキルを合わせてチェインスキルを作ることがシークレットクエストのクリア条件だったみたいだ。で、その報酬である称号が、親愛度が既定値を突破したことで派生した、と。ふむふむ。まあこの称号自体は物凄く強いから良いんだけど。良いんだけどさぁ……。
「これ名前どうにかならないの!?」
「あ、赤い糸……プレア殿と……?」
はわわ……といった感じでハルも困惑している。これは完全に運営狙ってやってるなこれ。仮に同性同士なら「赤い糸だってよー」なんて笑い話に出来るし、異性間だとこうなることもある。うーん、でも流石にこの名前は恥ずかしいかなぁ。今後は不用意にステータスを人に見せるのは控えた方が良いかもしれない。
「やあ、また君たちか」
声が響く。誰だ。いや、この声は正体を聞かずとも分かる。この聞き覚えのある少年の声。そうか、やっぱり絡んでいたか。
「スロウ!」
「いやー恐れ入ったよ。あの時無鉄砲に突っ込んで来たきみたちが、まさかこんな力を隠し持っていたとはね」
しまった。あの一撃を見られていたのか。不味いな。あれはスロウ戦の切り札にするつもりだった手前、ここで情報のアドバンテージを握られたのは大きな痛手だ。何故スロウが絡んでいる可能性が分かっていながら、このゴーレム達がスロウの斥候かもしれないと気づけなかったのだろうか。
「さてと、旧型とはいえ上位機が100機もやられちゃったし、ぼくが相手しても良いんだけど……面倒だし、それにやることもあるからねー。こうしよう」
そう言って、スロウがパチンと指を鳴らした。瞬間、空気の流れが少し変わる。何をするつもりなのだろうか。
「あー、あー、聞こえるかな?」
なんと、スロウの声が辺りに響く。何らかの方法で空気の流れを変え、自身の声を遠くまで響かせているらしい。
「全フリーディア市民及び滞在中の訪れ人達に告ぐ。ぼくの名はスロウ。今日この時をもって、きみたちに、戦争を申し込む」
「……ふぅ、着陸成功」
僕が今何をしたのかというと。実はこの背面の小型ジェット、ワイヤーの牽引以外でも回転させることができる。最初はなかったのだが、練習を経て着陸の安全性を確保するべきだと思い、着陸時に仰向けで降りることで、ジェットの噴射で風のバリアを作り、着陸の衝撃を大幅に和らげるように改良したのだ。
最も、自分で操作しなくてはならない上、数秒しか噴射できないのでミスったら終わりだが。パラシュートも考えたが、しまうのも面倒だし、何より降下が遅すぎる。今みたいに急いでいる時、敵を急襲したい時に、のらりくらりと降りている場合ではない。
「さて、と……」
この辺りはもう住民がいない。避難誘導がしっかり行き届いたようだ。僕は門に手をかけ、そっと開けて外を覗き込んだ。
「うわっ、何だこれ」
まだゴーレム達の姿は近くはない。彼らの進軍スピードを考えれば時間はある。だが、思ったより数が多い。精々10くらいかとタカを括っていたが。
「プレア殿!」
背後から声が上がる。ハルとカンナさん、セイスさんも来たようだ。途中で合流したのだろうか。
「随分速かったな、あの移動」
「ええ、まあ……思ったより速かったです」
「それよりプレアデスさん、敵はどれくらいいるのでしょうか?」
カンナさんが僕達のやり取りにそんなことはどうでも良いという風に割り込む。まあ、実際どうでも良かった。あの数に対抗するなら、それなりに準備が必要だ。
「門の外を見れば分かります」
「はい……え!?」
「プレア殿、これちょっと多くない?」
「ざっと100ってところか。一個体が強くないことを祈るしかないな」
100という数は、一見少ないように思える。しかし、それは無意識のうちに人間で換算しているから。ゴーレムはどんなに弱い個体でも体力が多い。並の人間の10倍以上はあるだろう。それが100体。殲滅できるかできないかで言えば、できる。だが、街に被害を出さずに戦えるかと言われれば、話は違う。
「皆さん!」
雪ダルマさんが駆け寄って来た。後ろにはテラナイトさんとユノンさんもいる。って、あれ?
「あの、僕達だけなんですか?」
「それが……他の最前線プレイヤーはダンジョン攻略に出向いていて、今街にいるのは殆ど非戦闘員だけなんです」
「奴ら、まるで俺達プレイヤーのいない時を狙ったみたいに来やがって……!」
テラナイトさんが拳をギリギリと握りしめ、感情を露わにする。珍しいな。テラナイトさんといえば、雪ダルマ以上に冷静沈着な性格だと有名なはずなのだが。
「とにかく、今はウチらで何とかするしかない」
「無理は承知ですが、どうか協力宜しくお願いします」
ユノンさんと雪ダルマさんが頼み込む。そんなこと言われなくても、僕達のやることは決まっている。むしろ、これはチャンスだ。
「勿論、協力させて頂きます。ちょうど、試したいこともありますし」
ハルが言いながら僕にチラリと目配せする。それを見て、僕は微笑んで頷く。どうやら、ハルも同じことを考えていたようだ。
「ありがとうございます!恐らく戦闘開始は10分後。皆さん、準備の程をお願いします」
10分、か。それだけあれば。
「ハル」
「うん、分かってる。アレをやるんだね?」
「うん。奴らをなるべく散開させないようにしよう」
実は、ゴーレム達の襲撃の知らせが来るより前……再ログインした後、僕達はとあることについて打ち合わせをしている。ハルの装備が完成したことで、初めて出来るようになったのだ。
「カンナさん、彼らにゴーレム達を一箇所に集めるように伝えて頂けますか?」
「はいっ、任されました!」
そう言ってタタッと駆けて行った。これで向こうは大丈夫。あとは……。
………
「そろそろ時間です。準備は大丈夫ですか?」
「はい!バッチリです」
「ありがとう。では、これより作戦を開始します!プレアデスさん、後衛の指示はお任せします」
雪ダルマさん達も作戦を知った上で、その鍵であり発案者である僕を指揮に任命してくれた。本来ならユノンさんがやるべきなのだが、どうやらこの前と同様、自分が指揮をする気はないらしい。
「俺達は前衛を張る。自慢じゃないが固さには自信がある。俺達のことは気にせず撃ってくれ」
「ありがとうございます。間違って殺しちゃったらすみません」
「はっはっは。その時は飯でも奢ってやるよ」
おっ、言ったな~?よーし、もし死んだらとびっきり高いの頼んじゃおう。まあ、流石に冗談だけど。
「では、行くぞ!」
雪ダルマさんの喝に、全員が応える。気合い十分。ゴーレム100体は確かに真っ正面から戦うのは難しい。実際、セイスさんの偵察によるとそれなりの上位個体らしい。だが、これが戦争の幕開けなんだとしたら。こっちだって普通じゃない戦い方をするまで。
門の外に出る。雪ダルマさんとテラナイトさんは、最前線で身構えている。彼らの仕事は、撃ち漏らして進軍してきた個体の撃破。最も、1体たりとも逃すつもりはない。
予定していたラインに前線が触れる。作戦開始だ。僕は門の上に登った2人に声を張り上げた。
「セイスさん!ユノンさん!宜しくお願いします!!」
~~side セイス~~
「……行くよ、合わせてね」
「おう、力を借りるぜ」
プレアデスから合図が入った。彼の立案した作戦が始まる。まずこの作戦では、ゴーレムが散らばらないように纏める必要がある。そこで、俺とユノンさんの錬金術で動きを止める。といっても、俺の風属性は決して属性相性が良いわけではなく、ユノンさんも水属性は得意ではない。だが。
「【クラウドサモン】」
ユノンさんがゴーレム軍の上空に雨雲を生成する。おいおい、どこが不得意だよ、全く。召喚された雲から、シトシトと雨が降り出す。通常はあまり攻撃力がなく、あまり使い所がないものだ。だが、プレアデスはそれを使う。彼はどこか、頭が切れるというか、少し発想力が特別だ。きっと、いずれ大きくなる。
「何してるの、あんまり保たないんだから早くして」
「はいはい、分かってるっての……【エアードーム】」
発動と共に、ゴーレム達の周囲を風の幕が吹き始める。大して強い風ではない。普通ならそよ風程度だ。だが、湿気を含み、雨粒を閉じ込めドーム内に飛散させることで、それは変わる。水に弱い奴らは、これであのドームから出づらくなった。任務完了だ。
「流石は『蒼の奇術師』。名前を変えても、腕は落ちてないようね」
「ふん、やっぱお前にはバレてたか……『鷹の目』のユノンさんよ」
「その名前はやめて」
「なら、俺のことをバラすのもやめてもらおうか」
~~side プレアデス~~
何だろう、門の上に緊張感が走っている気がする。何かあったのかな?まあ、今はいいか。彼らのお陰で、無事に奴らを封じ込めることに成功した。だが、あれもそう長くは保たないし、それ以前に威力が相当低いので、ゴリ押せることを悟られると後がない。急ごう。
「ハル、準備は良い?」
「うん、いつでも」
ハルは既に小春を抜いている。桜色の刃を煌めかせて。うん、きっと小春もやる気十分なんだろう。
「じゃあ行くよ……【連鎖爆破】!」
僕は湿った空気の膜の内側に、大量の蒼粒石を散らして行く。1体につき1~2粒で良いかな。しかし、このままでは蒼粒石は中心に落下して爆発するだけだ。だから、ハルが決めてくれるんだ。
「ハル!」
「行くよ!【桜花爛漫】!」
天に掲げた刀身が桜のオーラを纏ったかと思うと次の瞬間。轟々という勢いで無数の花弁が噴き出し、天高く昇っていく。これら全てが、今やハルの刀の延長。刀一振りで、その全てを制御する。
「やあぁぁぁぁっっ!!」
掛け声と共に、ハルが刀を振り下ろす。さながらムチのようにしなりながら、花弁の奔流は正面に飛んで行く。そしてセイスさん達の作り出した気流を目印にするように、竜巻のように激しく回転させる。吹き荒れる花弁達が、爆破寸前の蒼粒石を次々と巻き込み、散らして行く。それがゴーレム達を全て呑み込むのは、一瞬だった。
「咲き乱れろ!合技「【桜花壊塵撃】!」」
ズガガガガガァァッ……!!
スキル名の宣言と同時に、空気をつんざくような爆音を立てて、桜色の破壊が齎された。雪ダルマさん達は唖然としている。僕としても、予想よりずっと高威力の攻撃になってビックリしている。吹き荒ぶ桜の嵐が止んで消えた時、そこに残っていたのは焼け焦げた地面と散らばる残骸だけだった。
「やったね!プレア殿!」
「うん!上手く行って良かった」
ハイタッチ。当然、練習などしておらずぶっつけ本番だったが。事前に互いが強いイメージを共有していたこと、そして僕達の信頼の強さこそが、この攻撃を齎してくれたのだ……と、僕は信じる。
ーーープレイヤーレベルがアップしました。(Lv.25→31)
ーーープレイヤーレベルがLv.30に到達しました。特殊装備品スロットを1つ解放します。
ーーーシークレットクエスト『絆の一撃』をクリアしました。ペア称号《固く結ばれた絆》を獲得しました。
ーーー条件を確認。ペア称号授与者間の親愛度が既定値を突破。称号《固く結ばれた絆》は称号《運命の赤い糸》に派生進化しました。
ーーーチェインスキル【桜花壊塵撃】を獲得しました。
《運命の赤い糸》
前提称号《固く結ばれた絆》を獲得し、さらに互いの親愛度が高いことで取得。称号で結ばれた相手が半径10m以内にいる時、自身と相手の全ステータスに中補正。
うん、どうやら2名でスキルを合わせてチェインスキルを作ることがシークレットクエストのクリア条件だったみたいだ。で、その報酬である称号が、親愛度が既定値を突破したことで派生した、と。ふむふむ。まあこの称号自体は物凄く強いから良いんだけど。良いんだけどさぁ……。
「これ名前どうにかならないの!?」
「あ、赤い糸……プレア殿と……?」
はわわ……といった感じでハルも困惑している。これは完全に運営狙ってやってるなこれ。仮に同性同士なら「赤い糸だってよー」なんて笑い話に出来るし、異性間だとこうなることもある。うーん、でも流石にこの名前は恥ずかしいかなぁ。今後は不用意にステータスを人に見せるのは控えた方が良いかもしれない。
「やあ、また君たちか」
声が響く。誰だ。いや、この声は正体を聞かずとも分かる。この聞き覚えのある少年の声。そうか、やっぱり絡んでいたか。
「スロウ!」
「いやー恐れ入ったよ。あの時無鉄砲に突っ込んで来たきみたちが、まさかこんな力を隠し持っていたとはね」
しまった。あの一撃を見られていたのか。不味いな。あれはスロウ戦の切り札にするつもりだった手前、ここで情報のアドバンテージを握られたのは大きな痛手だ。何故スロウが絡んでいる可能性が分かっていながら、このゴーレム達がスロウの斥候かもしれないと気づけなかったのだろうか。
「さてと、旧型とはいえ上位機が100機もやられちゃったし、ぼくが相手しても良いんだけど……面倒だし、それにやることもあるからねー。こうしよう」
そう言って、スロウがパチンと指を鳴らした。瞬間、空気の流れが少し変わる。何をするつもりなのだろうか。
「あー、あー、聞こえるかな?」
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物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
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