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第6章 夢と混沌の祭典

第13話 ボクっ娘剣士 vs おとこの娘拳士

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決戦の前というのは、いつも緊迫した空気が立ち込める。それはどの時代、どの場面でも同じことだ。僕とてゲーマーの端くれ、この空気は何度も味わってきた。だが……何故だろうか、コロシアムの中、皆が注目する戦場で相対する2人を見て、和んでいる自分がいるのは。

いや、その答えなど初めから分かりきっている。それはつまり、恋愛感情などとは全く関係のないところで、中性的な容姿が……僕は好きなのだ。推せる、とでも言えば良いのだろうか。ともかく、下心は一切介在しない、純粋な趣味嗜好の範疇において、僕はそういった見た目が気に入っている。

「…………」

「…………」

そういう意味では、今互いに沈黙し、戦闘開始を待つあの2人、ハルとノルキアが並び立つその光景は……僕にとっては、緊張で燻る心を癒す楽園エデン、なのかもしれない。


~~side 春風~~

1回戦の相手は、いきなりノルキア君。まあ、プレ君とか雪ダルマさんじゃないのは幸運だったと言えるだろうけど……さて、どうしたものか。

ノルキア君は、バフスキルを巧みに使いこなし、自身を強化してその身で戦う拳闘士……間違いなく、強敵の1人だ。どうにかして、彼の猛攻を躱さなくてはならない。しかし一方で、これから待ち受ける強豪との連戦を考えると……流石に、1戦目から全力を出すわけにもいかないだろう。様子を見ながら、戦っていくしかない。

そして、昨日予選を見てプレ君が分かったことには……彼は、相手のバフ効果を奪うスキルを持っているということ。だとしたら、ボクも身体強化系のスキル……特に【血術】は絶対に使えない。その辺も意識して、戦っていかなくては。

戦闘開始までは……あと1分ってとこか。よし、ここはちょっと揺さぶってみるか。

「久しぶりだね~ノルキア。元気にしてた?」

「おかげさまで。あと、何度も言うけどおれは男だから」

「またまたぁ、せっかく可愛いのに」

「……挑発のつもり?悪いけど、それならおれには効かないよ!何たって今日は……本気、だからね」

瞳の奥、彼の闘気がメラメラと燃える。その気迫に、ボクも少し気圧される。これは……1戦目からあんまり手加減してる余裕ないかもしれない。でも少なくとも、それを向こうに察知されたらダメだ。それでは、心理戦を仕掛けた意味がなくなる。あくまで、平静を装う。心の余裕を演じるんだ。

「ほー、負けられない理由がある、と……。じゃあ、負けたらボクがいつも着てるメイド服、着てもらおうかな?」

「だから、その程度では…………え?何で?」

「だって、今日のノルキアちゃんは本気、なんでしょ?じゃあ、それくらいは大丈夫だよね?」

「お、おいちょ待っ!それとこれとは話が……!」

『1回戦第1試合、春風vsノルキア!レディ……!』

このタイミングで開始5秒前の合図!狙い通りだ!!

「ほら始まるよ!構えて!!」

「くっ……絶対負けないからな!!?」

ひとまず、精神面ではボクが優位、と。ま、これくらいはズルには入らないでしょ。多分。それに、彼ほどの実力者なら……。

『バトル、スタートォ!!』

これくらいのプレッシャー、跳ね返して来るでしょ!!

「【閃刀:刹那】!」

まずは、こっちから仕掛ける。彼がバフスキルをかけるより早く、間合いを詰める!

「くっ……!?」

「まだまだ!【燕返し】!」

『春風、いきなり猛攻を仕掛けたッ!!対するノルキアはどう出るのか!?』

刃を返し、さらに攻撃を積み重ねる。向こうが態勢を完全に整えるまでに、少しでも多くのダメージを与えていく。そのために、多少のスキル消費は惜しまない!取り回しの良いものからどんどん使っていく。

「……【脱兎の如く】!」

ノルキア君が何かスキルを使った!と思った次の瞬間、物凄い勢いで間合いから離れられてしまった。多分、跳躍力かスピードを上げるスキルなんだろう。

だとすると、結構マズい。ボクが完全に間合いを詰めるまでの間、彼はスキルを使い放題だ。それを許すわけにはいかない!

「小春、頼んだよ!!」

《【電光石火Ⅲ】!!》

左手から投げた小春が、自らスキルを発動しノルキア君を追跡する。まあ、追跡といっても直線にしか動けないし、その代わり絶対に逃さないんだけど……ね!

「ッ、刀が……!?」

『な、何と!!春風が放った刀が急加速しノルキアに命中!これは一体……!?』

クリーンヒット。深く刺さりはしないし、大したダメージにはならない。だが、ボクの狙いはそれによって、スキル発動までの時間を稼ぐこと!!

「【付加エンチャント:地縛アースバインドⅡ】!」

小春の攻撃で怯んだ彼を、地面から出したツタで絡め取っていく。手足を素早く縛りあげ、身動きを取れなくする。

『あーっと、ノルキア!早くも動きを封じられたぁ!!』

「よし!【螺旋衝Ⅱ】!!」

ボクもジャンプで近づきつつ、ガイアに螺旋の力を溜める。そして……撃つ!!

「グゥッ!?……でも、ただではやられないよ!【カウンターオーラ】!!」

「ッ!?これは……ウッ!!」

ノーモーションで、突然勢いよく吹っ飛ばされる。痛い。どういうことだ?今はボクが攻撃しているはずなのに、ボクにもダメージが入っている。今のスキルの効果か……!?

《マスター!今のスキル、ドウやらダメージヲ相手にモ跳ね返せるようでス!》

……やっぱり。危ない、今もしもっと威力の高い攻撃を使っていたら、彼のHP次第じゃボクが先にやられてた!

「ッ、やるねぇ……!でも、そんなもんかい?」

「まだまだ、おれの本領発揮はこれからだ!【アタックシフト】!!」

出た。ノルキア君の象徴とも言えるスキル群、シフトチェンジだ。以前ウルヴァン戦で巧みにバフを操る彼を見て、ボクは実力者だと確信したんだ。このスキルはそれくらい、自分の戦闘スタイルとステータスを大きく変化させる。

「さぁ、行くよ!!」

瞬時に間合いを詰めてくる。速い……!さっきの【脱兎の如く】の効果がまだ続いてるんだ。そして、今攻撃力が上がってるってことは……。

「グッ……お、重い!」

「そんなもん……か!!」

ガードをこじ開けられた!?マズい……!

「グハッ……!?」

『おーっとノルキア、遂に春風に一撃を加えた!ここから形勢逆転か!?』

ダメだ。今の状態ではまともに正面から打ち合っても勝てない。攻撃は小春に任せよう!

「【レイジ】!」

ステータスを上げつつ、挑発効果を与える。これで、小春を彼の意識外に置ける。だが、その効果時間はたった20秒。1、2回攻撃できるかどうか!

だが、それでいい。それで彼が小春に意識を割かざるを得ない状況が作れれば、ボクの攻撃を対処しづらくなるはず。まずは、小春が攻撃する時間を稼ぐ。

「貰った!【強化奪取ブースト・スナッチ】!!」

案の定、【レイジ】で強化された分のステータスを奪われる。彼の【アタックシフト】と併せると大変なATKになっているが……ボクの目的はあくまで、挑発効果を与えること。さすがの彼でも、その効果までは奪えない!

……集中するんだ。攻撃されるとヤバいなら、攻撃を喰らわずに反撃すればいい。簡単なことだ。

あの時の、スロウとの戦いを思い出せ。あの、ボクを取り巻く世界がクリアになったような感覚を。スキルによる再現じゃない、純粋にプレイヤーであるボクが到達する、明鏡止水の境地。強くなった今なら、きっとできるはずだ。

「やあぁぁぁっ!!」

攻勢に転じる彼に対し、ボクもダメージ覚悟で距離を詰める。納めた木刀を抜きながら、その首筋を打とうと攻撃モーションに入る。多分、向こうにもその太刀筋は見えているんだろう。ちょうど刀を防ぎつつ攻撃できる軌道……右フックを繰り出して来た。

見える……あの時ほどではないけど、周りが少しだけスロー再生になったような感覚。修行の成果が、ちゃんと出ている!!

「……【カウンター】!!」

「何ッ」

ギリギリまで攻撃の道筋を見せることで、相手の攻撃を誘導し、より確実に逆転の一撃を叩き込む。これが、今のボクにできる最高のカウンター。

「グッ!?」

彼の体勢は、完全に崩れた。

《小春!今!!》

《【五月雨斬り】!!》

ノルキア君の背後から、小春が攻撃を仕掛ける。これは……決まっただろ!!

「させない……!【ディフェンスシフト】!【ガードオーラ】!!」

「っ!?」

ここにきて、スキルの連続使用。ボクのカウンターから小春の攻撃までの、ほんの僅かな一瞬。その隙を突いて、彼は防御態勢を整えたんだ。

「……やっぱり、君は強い。そう簡単には決めさせてくれないね!」

「そりゃあ……おれだって負けたくないからね!!」

意外と女装のこと気にしてたらしい。

「……でも!!」

不意を突いた回し蹴りで、彼を向こうの壁に叩きつける。ダウンを取ると、復帰までの2~3秒間相手はスキルを使えなくなる。ここだ!勝負を決めるのは、この瞬間しかない!!

今ノルキア君は、小春の五月雨斬りを受けた直後!そして、MPが多く消費されてるってことは、あれは水属性攻撃。そう、水を帯びている今なら!

(この攻撃が……よく通るはず!!)

「【紫電一閃】ッ!!」

猛烈なスピードでノルキアに迫る。雷を纏った一突きを浴びせる。水は電気をよく通す……それは、彼の防御特化ステータスをも貫通する!

「うっ……あああぁぁぁぁっっ!!!」

彼のHPゲージが、底を尽きた。


───試合終了。あなたの勝ちです。


【紫電一閃】消費MP:80 クールタイム:10分
刀身に電気のオーラを纏い、雷光の如き速さで敵を穿つ。
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