アルケミア・オンライン

メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第33話 頭脳戦

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~~side プレアデス~~

「…………ッ!!」

暗い部屋で目が覚める。どうやら、意識を失っていたらしい。あの男にスタンガンを撃たれて、それで……。

「ここは、どこだ…………?」

灯りが殆どない、真っ暗な部屋。あのイベントサーバーの中にこんな空間があったのか……?そう思案していると。

「やあ、すまないね。急に呼び出してしまって」

目の前の扉が開き、男の声がする。さっき僕を捕まえたあの男とは、違う声だ。ひとまず、そのことに安堵する。正直、あの力の強さは体験したら軽くトラウマものだ。

「貴方は、誰なんですか?ここはどこですか?」

「ふむ、順番に君の疑問を解決していこうか。まず私について……私は第一サーバー管理課、代表の早瀬康太郎だ。まあ、所謂運営の人、というわけだ」

「このゲームの、運営……!?IG社の人間ってことですか!?」

「うん、そういうことだ」

「そう、なんですね……あの、これ僕も本名を言わなきゃいけない流れですか?」

「その必要はないさ、プレアデス君。私は単に、己の潔白を証明するために、わざわざこうしてリアルネームを明かしただけだ。これから色々と話を聞かせて貰うんだ、それくらいのことはして当然だろう?」

「な、なるほど……」

いくら運営の人間で、検索すれば名前が出てくる立場だからとはいえ、こうもあっさりリアルネームを話してくれるなんて……なんか、変わった人だな。でも不思議と、さっきまで感じていた不信感は薄れている。本当にこれを狙っていたのだとしたら、大した器量の持ち主だ。

「分かりました。ひとまず、貴方が運営の人間であるということは、信じましょう……。それで、ここはどこなんですか?」

「ここはイベントサーバーの隅……というより、データの余剰スペースに臨時的に生み出した仮初の空間、とでも言おうか。心配せずとも、すぐに君達を送り返してあげるつもりだよ。特に君は……次の試合が控えているからね」

「そ、それはどうも……って、君?ってことは、他にも誰かここに?」

「ああ。雪ダルマとマグ太郎……ここに連れて来たのは君を含めてその3人だ」

雪ダルマさんと、マグ太郎さん……ははーん、大体この人が聞きたいことが分かってきたぞ。それは確かに、僕が参考人として呼ばれてもおかしくはない案件だ。

「なるほど、大体話は読めましたよ……でも、それだったら言ってくれればちゃんと着いて行きましたよ。あんな強引に気絶させることはなかったのに……」

「ふむ、それは申し訳なかったね。でも、本来このゲームの世界の中で、君達プレイヤーと私達運営が相対することはタブーだ。それは十分理解しているね?」

「それは、まあ……世界観とか色々、崩壊しますからね」

「つまりはそういうことだ。今回は私達が直接話を聞かねばならないほどの事態が起こったわけだが、だからといって自分達で作り上げた世界観を崩したくはない。ここで私達が会ったこと、話したことがプレイヤーの誰の記憶にも残らないように……意識を刈り取らせて貰っている。決して意地悪をしているわけではないということは、理解してほしい」

…………なーんか、怪しいんだよなあ。世界観を大切にしたいなら、そもそもリアルでやり取りするなり、ゲーム内でもっと秘密裏に情報を集めるなり、色々やりようはあっただろうに。IG社は何をそんなに急いでいるんだ?

「……まあ、それだけ事態が貴方がたにとって緊急を要するってことで、今回は納得してあげますよ…………」

まあ、ここでウダウダゴネても仕方ない。帰る時間が遅くなるだけだ。不本意だが、今は彼らに大人しく従おう。どうせ僕達プレイヤーは、この世界の創造主達にはどう足掻いても勝てないのだから。

「……では、早速尋問を始めようか」


~~side セイス~~

『バトル、スタートォ!!』

ユノンはまず錬金術発動のために距離を置く。なら俺は、それを上回るスピードで懐に入る!

「ッ!!」

「まずは1発!!」

鳩尾をボウガンで殴る。そしてすかさず矢を撃ち込む!!

「……甘いわよ」

「何ッ!?」

気付くとそこにユノンはいない。殴ってから撃つまでのほんの僅かな時間で脱出したのか?いや、少なくともユノンにそこまでの機動力はない。となるとこれは。

「罠か!!」

「フフッ、正解♪」

途端に、身体がズシンと重くなる。地面に引っ張られるようなこの感覚……重力か!なるほど、俺が初手から接近してくることを読んで、錬金術の種子を蒔いていたのか。攻撃回避に使ったのは恐らく、テイマーのスキル【身代わり人形スケープ・ゴート】。

「ファーストアタックは貰うわよ!【ボルテック・スフィア】!!」

だが、甘いな。

「消えた!?」

「こっちだ、鷹の目!!【ダブル・ショット】!!」

背後から2発の射撃。今度は命中!先にダメージを負わせたぞ。

『ユノンとセイス!開始早々、互いに策略を仕掛け合う!これは見応えのある戦いになりそうだ!!』

「……重力の影響を打ち消すなんて。どんなAGIしてるのよ?」

「フッ、極振りは伊達じゃないってことさ」

まあ、本当はカンナから借りてる『闇夜のローブ』のおかげなんだけどな。元々はカンナとのコンボ前提で影を作り出すスキルを多く習得してきたが……俺が装備すれば一気に、緊急回避の切り札に早変わり。

ただ、俺が影から出てくることに向こうはすぐに気付き対応してくるだろう。出口に種でも蒔かれたら終わりだ。計画的に使わなくてはな……。

「流石、蒼の奇術師は今も変わらず厄介ね……」

「相手の嫌がるプレイングで追い詰めるのは、PvP対プレイヤー戦の基本だろ?」

「そうね……だからウチも、最初から本気を出させてもらうわ。七色の錬金術師としてではなく…………『鷹の目のユノン』として!」

そう言い、ユノンは胸のポケットから何かを取り出して上に投げる。あれは…………カプセルか?

「…………【従魔召喚】。来い、アーマード・ホロウファルコン!」

中から出てきたのは……プレートメイルで完全武装した、1羽の白い隼だった。

『おっと!!ここでユノンの十八番、錬金従魔アルケミック・サーヴァントの登場だ!!』

「おいおい……それってまさか、あのイベントの時の?」

「そう……親を失ったホーちゃん。あの後ね、この子、自分も戦いたいって言って聞かなかったのよ」

親を失って、ユノンだけになって。アイツは、自分の身を…………いや、ユノンすらも守ろうとしているんだろうな。今度こそ、大切なものを失わないためにも。

「そうか…………そいつぁ、俄然戦うのが楽しみだな」

「ええ。ウチらのコンビネーションに、着いて来られるかしら!?行きなさい、ホーちゃん!」

「ッ!!」

ユノンの命令が耳に届いて数瞬後、俺は反射的に身体を逸らす。翼の鎧が頬を掠め、微かに血が滲む。

「おいおい…………コイツ、めちゃくちゃ速いじゃねぇか」

鎧を全身に纏ってなおこのスピードだと?なかなかにイカれた性能してんじゃねえか。

「フフッ、もう速さはあんたの専売特許じゃないのよ!」

「…………ッ、そういえばソイツも、敏捷性に特化してたんだったな」

なるほど、これは面倒だ。普通、テイマーは扱う従魔の戦闘力を最大限に活用するべく、それを上手く制御するためのスキルを多く習得する。結果、プレイヤー自身の戦闘力は同レベル帯の他職業と比べて低くなりがちだ。

だが、あのホロウファルコンはイベント後に、ユノンが錬金従魔アルケミック・サーヴァントに変化させている。あれの厄介な所は、再召喚できるというだけでなく、錬金術によって半自律的に行動させることができることだ。そして本人は、空いた手間で錬金術による攻撃をしてくる。

つまり俺は、テイマーの従魔以上に洗練された動きをしてくる高機動型のホロウファルコンと、ユノンの多彩な錬金術、その両方を相手にしなくてはならない。テイマーとは違い、純粋な2対1を強制されるとは……厄介というか、無法だな。

「さあ……一気に畳み掛けるわよ、ホーちゃん!!」
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