アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
182 / 230
第6章 夢と混沌の祭典

第34話 重りを外す時

しおりを挟む
~~side 春風~~

第4試合が始まった。初撃はセイスさんが先制したが、その後ホーちゃんの召喚によって、逆にユノンさんが有利に勝負を進めている。

一方、ボクたちは……。

「カンナさん、そっちはどうでしたか?」

「ダメですね……見当たらないです」

「困りましたね…………フレンドマップにも反応ないですし」

フレンドになったプレイヤーは、マップ上のどこにいるかを互いに共有できる。普通なら、例えばスタジアムのどの辺の客席にいるのか、とか、ショップエリアのどの店の近くにいるのか、のように。

でも、困ったことにプレ君のアイコンはそのマップのどこにもないのだ。そのせいで、今彼がどこにいるのかをボクたちは確認できない。

「まさか、通信障害でしょうか?それで落ちてしまっている、とか」

「いえ、その可能性も考えたんですが。ちゃんと現在進行形でログインはしているみたいなんですよ」

「てことは、このマップのどこかには必ずいるはず、ですよね……?」

と話し合いながらスタジアムを出ると、見たことのある面々を見つけた。

「あっ、テラナイトさん!ノルキアくんまで」

「何だか珍しい組み合わせですね」

「おう、お嬢さん方……」

そう言うテラナイトさんは、どこか元気が無さそうだった。やっぱり、あの試合が後を引いているんだろうか。無理もない。テラナイトさんも間違いなく健闘していたし、何度も追い込んでいた。でも、あんな負け方をしたら。

「その…………さっきの試合、凄かったですね!特に、最後の猛攻とか!」

「そ、そうですよ!【リベンジ・バースト】、でしたっけ?あんな強力なスキル、私も初めて見ました!」

「……おっと、気を使わせちまったか。その…………ありがとな。でも良いんだ。アイツには、今まで1度も勝ったことないしな」

まあ、それでも今回ばかりは勝ちたかったが、と拳を握りしめている。ボクはそこに、かつて絶対に負けられない大会でまさかの敗北を喫した時の自分を重ね合わせる。勝ちたいと強く願った試合ほど、負けた時のストレスは重くのしかかり、尾を引くものだ。きっと彼も今、同じ状態なんだろう。

「あの、春風さん。プレアデスさんのこと、聞かなくていいんですか?」

カンナさんから耳打ちされ、我に返る。確かに、会場の外に出たならここのエントランスから出た可能性は高い。もし2人がしばらくここにいたなら、見た可能性だって高いわけだ。

「ところで……プレ君を見てませんか?探しているんですが、どこにも見つからなくて……」

「プレアデス?見てないな」

「ああ、俺もだ……てか、フレンドマップ見りゃ分かるんじゃないのか?」

「それが、何故か位置情報が分からなくなっていて……ログインしているのは確かなんですが」

それを聞いて、2人ははたと顔を見合わせる。何か、心当たりがあるんだろうか?

「あー、実は…………おれたちも今探しているんだ、マグと雪ダルマさんを」

「聞く限り、カシラもアイツらと同じ状態みてえだな」

「えっ…………?」

ボクは耳を疑った。3人同時に、それも上位プレイヤーばかりが同じような状態になっているなんて。そんなもの、明らかに偶然の産物じゃないだろう。とすると、誰かが目的を持って3人の居場所を隠蔽した?いやでも、何のために?

「…………とりあえず、私達と協力して外を探しましょう。お2人とも、スタジアムの中には見当たりませんでしたし」

「悪ぃな、手をかけさせちまって」

「とりあえず、ショップエリアで聴き込みしてみよう!」

こうして、行方不明になった3人のプレイヤーの臨時捜索チームが結成された。これで、何か手がかりが掴めれば良いけど。


~~side セイス~~

「ホーちゃん、【ウインド・クラッシュ】!」

「…………チッ!動きを封じるつもりか!」

風の渦に呑まれる。下手に動いたらダメージを受けるということか。だが、また影に潜れば……!

「【潜影】!」

「そこっ!【エレキネット】!!」

「何ィッ……!?」

もう見切ったってのかよ。まだ2回目だぞ。だが、その辺は流石『鷹の目』と言わざるを得ない。

『ユノン、セイスの回避を完璧に読み切って二重の攻撃を決めた!!セイスは麻痺が入って自慢のスピードが封じられた!』

《麻痺》か、厄介だな。身体を自由に動かせない……!ユノンの狙いは初めから、俺の動きを完全に止めることだったのか。

「さあ、決めるわよホーちゃん!!」

咆哮ののち、光を纏ってホロウファルコンがこっちに突っ込んでくる。と同時に、ユノンが雷の錬金術を頭上に準備する。まさか……。

「チェインスキル【ゴッドバード・アタック】!!」

やはり、従魔とのチェインスキルか。雷の力を受けてさらに強大になったホロウファルコンが、怒涛の勢いで突進してくる。麻痺で動けないから回避もできない。耐久に全く割いてないから受けきれない。これは…………予定より大分早くなってしまったな。

「ま、何とかなるか」

言い終わる前に、俺の身体に攻撃が衝突する。

『ユノンの狙い通り、強力なチェインスキルがセイスにクリーンヒット!!…………いや、これは!?』

「…………やっぱり、使ってきたか」

「ああ、あのまま受けたらやられていたからな」

【呪いの骸】。1日に1度だけ使用できる、緊急回避用スキル。自身を半径5m以内の任意の場所にワープし、代わりに身代わりの人形を残す。そして攻撃を受けて壊れた人形は、事前にセットしたスキルを攻撃した対象に必中させる。テイマーの持つ【身代わり人形スケープ・ゴート】の上位互換スキルだ。

昨日の1回戦でミハイルに使ったのは、彼の精神を蝕んだあのバフスキルを解除するための【スペルブレイク】だった。だが、今回はセオリー通り……。

「ッ、ホーちゃん!!」

鎖に囚われたホロウファルコンが、飛行を続けられずに地面に落ちる。【百鎖の一矢フルバインド・アロー】の効果で拘束したのだ。これで当分は動けないだろうが……せっかく地面に落ちてくれたことだし、念には念を入れておこう。

「【罠操術:底無沼】」

『セイスの切り札、身代わり作戦が今回も炸裂!!ユノンの錬金従魔アルケミック・サーヴァントを封じてみせた!!』

鎖で動けないまま、地面に呑まれていく。これで鎖を断ち切ることも、効果が切れたとしても今度は沼から脱出することも難しくなっただろう。あれは特にダメージを与えることもないし、ちょうど良い。

「安心しろ。ホーちゃんを殺しはしねえよ」

実際、俺もユノンに影響されたのか、今はそれなりに動物は好きな方だ。攻撃せずに無力化できるなら、それに越したことはない。

「さて…………これでタイマンに戻したぜ。もう他に従魔は用意してないだろ?」

「フン…………まあ良いわ。ウチもアンタの身代わり人形を使わせたし。どうせ、あれは1回しか使えないとかそんなところでしょう?」

「フッ、よく分かるなぁ?鷹の目には何でもお見通しってか」

「これに関しては誰でも分かるわよ。スキル1つでできることが多すぎるもの。でも、これでアンタの切り札はもう使えない……ホーちゃんもやられてしまったし、いよいよこれを使う時が来たようね」

そう言って懐から白黒に彩られた腕輪を取り出し、左腕に嵌める。あれは……確かフリーディアのイベントの後、ユノンがプレアデスに作らせていた特殊装備。そしてその効果は……真影術の解放と制御。

「来るか……あの化け物が」

「おいで、影ちゃん!!」

人の形をした黒い影が、どこからともなく現れてユノンに覆い被さる。それと共に、物凄い力が集まっているのを感じる。肌がヒリつくこの感覚……!

「『【真影術の弍・二者合一】!!』」

『来たーっ!!ユノンの最強の切り札、真影術だぁぁっ!!』

「今回は、いきなり合体するんだな」

「『あはっ、アンタを本気で葬るためには、最初から全力じゃないとね!!』」

そう言って俺の懐に潜り込んで来る。これは……!あの従魔以上の速さだと!?

「『【パワーエッジアタック】!』」

「グッ…………今のは危なかった」

全力で横に跳び回避したが、脇腹に短剣が掠めた。俺のスピードで避けきれないとは……。

『身体が軽い……!』

「プレアデスに作ってもらった、この腕輪のおかげね!!」

「おい、誰が喋ってるか分からなくなるからやめてくれ」

にしても、やはりあの腕輪……ちゃっかりスキルの性能そのものも向上させている。ったく、毎度のことだが、アイツはどんだけ強いアイテムを作れば気が済むんだ?いくら何でも、この世界のAIに愛され過ぎている。

……だがまあ、アイツのアイテムに助けられているのは俺も同じか。

「『避けられちゃったけど……次は外さないわ。大人しくやられなさい!!』」

「フッ…………お前は1つ、勘違いをしているな」

「『勘違い……?』」

「俺の切り札はあの人形だけじゃねえ。スピード極振りの真の力、見せてやるよ」

真上に向けて1発、矢を放つ。スキルを込めたその矢は、空中で弾け俺達が立つフィールド全体にパーティクルをばら撒く。

「『これは…………世界系のスキル?』」

世界系スキル。自身の周辺の世界そのものに影響を与えるものだ。煌の【星導アストラル・ドミネーション】やプレアデスの【燦煌たる宙の星ダイソン・スフィア】がその例である。

そして俺の場合は……スピードが支配する世界。普段は身体制御を簡単にするため、自身に速度制限をかけている。このスキルが作るのはその制限を外し、限界までスピードを出せる世界。そして、より速く動けるほど力を得られる世界。まさに…………俺のための世界だ!

「展開しろ……【無制限の速度領域アウトバーン】!!」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【VTuber】猫乃わん太 through Unmemory World Online【ぬいぐるみ系】

mituha
SF
「Unmemory World Online」通称「アンメモ」は実用、市販レベルでは世界初のフルダイブ方式VRMMOである。 ぬいぐるみ系VTuberとして活動している猫乃わん太は、突然送られてきたベータテスト当選通知に戸惑いつつもフルダイブVRMMO配信を始めるのだったが…… その他の配信はこちら https://kakuyomu.jp/users/mituha/collections/16817330654179865121 777文字で書いた短編版の再編集+続きとなります。

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

処理中です...