アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
195 / 230
第6章 夢と混沌の祭典

第47話 世界を変える力

しおりを挟む
戦いの中で心が少し溶けたのか、彼女は少し、自分のことを語ってくれた。本当は問答無用でトドメを差してしまうのが確実な勝利の道筋なのだろうが、僕は武器を構えながら、その話に耳を傾けた。

それは、勿論彼女に対する情けでも舐めプでもなく。僕が彼女のことを、1人の対戦相手である前に、もう1人のハルとして、どのような存在なのかを知る必要があったからだ。

『オレは道場の育ちだった。ガキの頃に、仕事の都合で海外へ飛んだ両親に代わって、道場師範のジジイに引き取られた』

驚くことに、彼女の生まれ育った背景は、ハル本人のそれと酷似していた。ただのシステムが、スキルが再現する擬似人格が、本人のリアル事情を知っているはずも、ましてやそれを反映できるはずもない。さっきも予想はしていたが、やはり彼女は、ハル本人と何らかの深い繋がりがあるに違いない。

「それで、剣道を始めたと……?」

『ああ。最初は興味もなかったんだが…………親に捨てられたって知ってな』

「えっ?」

『誰がそんなアホなことするんだよって思うよな?…………まさか、自分の親がそうだとは』

「………………!」

乾いた笑いで自虐的に呟く彼女の姿に、僕は何も言葉が出てこなかった。ハルに、本当にそんな過去が…………?だが、嘘をつくにしては趣味が悪すぎる。それに彼女の目も、真っ直ぐで真剣だった。

『それで、オレは剣の道に進んだ…………見返してやりたいって思ったんだ。オレを……いや、を捨ててどこか遠くに行っちまったアイツらに、示してやりたかったんだ。オレはもう、テメェらに頼らなくても生きていけるって。それだけの力があるって』

自分を捨てた両親に、自分という存在を認めさせるために…………か。少し…………僕に、似ているかもしれないな。

『だからオレは、強くなるために練習した。血反吐を吐きながら刀を振って、数えきれないほど打ち込まれて…………そうしてオレは、誰にも負けない力を得たんだ』

なのに…………と彼女は拳を握りしめて続ける。

『なのに、まさかその力がここまで通じない相手に出会えるなんてな。これだから戦闘は面白い!』

「あぁ…………僕も、ハルがこれほどの強さを隠し持ってたなんて、思わなかったよ!」

正直、想像以上だった。コイツはもはや、擬似人格などではない。れっきとしただ。だからこそ、ハル本人と同じ、芯の通った「心の強さ」を持っているように思える。

まあ、何となくの感覚なんだけどね。でも、やはりこの仮想世界では、内に秘めた本性を隠しきれない。特に、自分を取り繕う余裕のないほどの立合の中では。だから分かるんだ、目の前のこの少女もまた、1人の人間であり…………「もう1人のハル」なんだと。

「でも、いつまでもこうしてはいられない………………終わりにしよう、ハル」

だが同時に、恐ろしくもある。コイツが本当に、ハルの中に眠るもう一つの人格だったとしたら?今この瞬間、オリジナルの方はどこにいる?もしかするといずれ、本来の人格を追いやって、彼女のアバター……下手したら現実の身体を支配してしまうんじゃないか?と。今は特に異常はみられないが、ミハイルのように精神が蝕まれているかもしれない。

だとすれば、これ以上戦い続けるのは危険だ。僕の身体の方もそうだが、それ以上にハルを、もう危険な目に遭わせたくはない。

「次の一撃…………それで決着としよう!!ハル!!」

『んだと…………?でもまぁ、そうだな…………!!お互い息も上がってきた。楽しいままこの試合を終わらせるなら、今しか無えなぁッ!!』

ニシシっと笑い、両手で小春を構えるハル。ああ、僕は本当に、こういう真っ直ぐな人達との縁に恵まれて……幸せ者だな、とつくづく思う。彼女もこんなにひたむきに、ただ純粋に、勝負に熱中している。これじゃあ、色々心配して気を回してしまう僕が馬鹿みたいじゃないか。

でも、杞憂で終わってくれるなら、それに越したことはないな、と僕も武器を構える。

『今から見せんのは、伏宮流に伝わる最大最強の秘奥義……ってやつだ。防げるもんなら防いでみやがれ、プレアデス!!!』

「最大最強の、秘奥義…………ッッ!!望むところだ、ハルゥッ!!」

上段の構え、オーソドックスな剣道の技か?だがそれにしたって…………何てプレッシャー、肌がヒリつくようなこの緊張感ッ!構えだけでこの迫力……これが秘奥義なのか!?

『黄泉の扉は開かれた…………屍人よ躍れ!!亡者よ叫べ!!』

その瞬間、辺り一帯が暗闇に包まれる。それは単に夜というより、死せる者が蠢めく墓場…………屍の世界のようであった。

「今のは…………詠唱!?」

間違いない、彼女は詠唱を、この世界における言霊の役割を知っている!これはイメージを言葉に発することで生まれる、具現化現象!!このプレッシャーは…………ハルがこの秘奥義に込めた想い、その全てが掛かっているんだ!!

絶対的な力は自信に、自信は強さに変わっていく。それはこの仮想世界における不変の真理、セントラルドグマ!この想いの強さを上回らないと、僕はハルに勝てない!!

「………………面白くなってきた」

思いがけない燃えるシチュエーションに、無意識に口角が上がる。今なら、できる気がする。

ようやくだ…………ようやく目覚めの時が来たんだ!!十数年前、僕が仮想世界に初めて来てからずっと胸の内に宿ってきた、僕の魂!!!

多分、またとんでもない無茶をすることになるんだろう。それも、これまでの痛みや反動とは、比べ物にならないほどの。だが恐らく、あの攻撃を防ぎ勝利に繋ぐためには、この方法しかない。僕の中の本能が、そう告げていた。

『伏宮一刀流 秘奥義 百鬼千夜行・万死之一閃ッッ!!!』

周囲に狐火のような人魂が現れる。そこから生まれた無数の怨霊が小春に集まり、僕目掛けて放たれる。とても正面から捌ききれる数ではない。そしてこのエネルギー量…………間違いなく、あの1つ1つが必殺級の威力を持っている。

何て無法な性能…………イメージの補正に恵まれすぎだろ!?

『………………墜ちろッ!!』

だが、その攻撃は僕には決して届かない。

「よくその目に焼き付けろ…………これが本物の、イメージの体現だッッ!!!」

強く思い描いた事象がプログラムとして実現する、この世界なら!!

変換コンバース………………」

今の僕にできる全力…………スキルキャンセラーよりもずっと上の、この世界そのものに干渉しうる権能!!

「………………【不均衡世界ワールド・ディストーション】」

その瞬間、世界が歪む。僕を中心に取り巻く空間が、ベクトルを大きく捻じ曲げ、圧縮され、拡張される。あらゆる物理法則の通用しないカオスの領域だ。

『何ッ、避けられただと!?まともに回避できる攻撃ではないはず…………!?』

『プレアデス!絶体絶命のピンチに陥ったが、紙一重で攻撃を躱し続ける!!』

いいや、躱しているんじゃない。攻撃の軌道を変えているんだ。今の状態では、僕には全ての攻撃が無意味。これが本当の「当たらなければどうということはない」理論だ。

なんて、そんな冗談を考えている余裕などなく。

「アッ、ガゥアアアアアァァァ、アアアアアアアァァァッッッ!!!??」

何だ、この尋常じゃない頭の痛みは!?痛いとか苦しいとか、そんなチャチな言葉で表せる次元じゃない!!世界から弾き出されるような、そんな異常な感覚だッ……!!

さりげなく【宝珠の炯眼ジェム・ストリーム・インサイト】を再起動させて並列思考回路をフル回転させているのに、全く処理が追いつかない!!いやそれどころか、限界を超えて焼き切れ始めている…………!!

たった数秒で、このダメージ!生身の人間1人では到底抱えきれない、膨大な情報量!!これが、世界に干渉するということなのか………………!!?

「アァゥッッ、グッッ…………!!アアァァァァァッッッ!!!」

膝をつき、その場に踞る。まともに立っていられない!!眩暈、吐気、そして割れるような頭痛…………ありとあらゆる症状が、次々と嵐のように押し寄せてくる。

だが、まだ怨霊による攻撃は続いている!ここで、ここまできて、今更権能を解くわけにはいかないッ!!一度でもできると信じたならば、せめて最後まで信じ抜け!!

「グッ……………うおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

身体制御はこの際放棄!!スキルの継続に専念するんだ!!

『いや、違う。回避動作は初めから無かった…………コイツまさか、攻撃を逸らしてんのか!?』

気づいたか!だが、今更そうだと知ったところでどうする!?

『…………いや、そんなぶっ飛んだ能力、必ず限界があるはずだ!!』

そう言って、彼女はさらに攻撃の手を強める。

クソッ、分かってはいたが、やっぱり最適解を取ってきたか…………!!僕のこの姿を見て、限界が近いと睨んだんだろう。舐められたものだ…………ッ!!

「良いさ、そっちがその気なら…………こっちもやってやるよ!!我慢比べといこうじゃないか、ハルゥッ!!」

『春風の猛攻が止まらないッ!!しかしそれを躱し続けるプレアデス!!異次元の戦闘から一瞬たりとも目が離せない!!!』

割れんばかりの歓声が、けたたましく会場を覆い尽くす。決着の時は、近い。


不均衡世界ワールド・ディストーション】消費MP:? クールタイム:?
縺輔>縺�縺�&縺�″繧�≧縺ョ縺。縺九i縲ゅ○縺九>繧偵°縺医k繧ゅ�縺後€√%縺ョ縺。縺九i縺ォ縺医i縺ー繧後k縲ゅf縺後∩縺ィ縺オ縺阪s縺薙≧縺ョ縺ェ縺九〒縲√°繧後i縺ッ縺ェ縺ォ繧偵∩繧九�縺具シ�
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【VTuber】猫乃わん太 through Unmemory World Online【ぬいぐるみ系】

mituha
SF
「Unmemory World Online」通称「アンメモ」は実用、市販レベルでは世界初のフルダイブ方式VRMMOである。 ぬいぐるみ系VTuberとして活動している猫乃わん太は、突然送られてきたベータテスト当選通知に戸惑いつつもフルダイブVRMMO配信を始めるのだったが…… その他の配信はこちら https://kakuyomu.jp/users/mituha/collections/16817330654179865121 777文字で書いた短編版の再編集+続きとなります。

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

朝起きるとミミックになっていた ~捕食するためには戦略が必要なんです~

めしめし
SF
ゲーム好きの高校生、宝 光(たからひかる)は朝目が覚めるとミミック(見習い)になっていた。 身動きが取れず、唯一出来ることは口である箱の開閉だけ。 動揺しつつもステータス画面のチュートリアルを選択すると、自称創造主の一人である男のハイテンションな説明が始まった。 光がこの世界に転送されミミックにされた理由が、「名前がそれっぽいから。」 人間に戻り、元の世界に帰ることを目標にミミックとしての冒険が始まった。 おかげさまで、SF部門で1位、HOTランキングで22位となることが出来ました。 今後とも面白い話を書いていきますので応援を宜しくお願い致します。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...