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地獄の果てまで共に
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昔の夢を見た。はるか昔の、まだ俺達の背中に翼が生えていた頃の。
俺は父が嫌いだった。俺ほど神性スキルの高い天使は他にいないのに、よりにもよってひ弱な人間の世話係だなんて。冗談じゃない。そんな馬鹿らしくて面倒なこと、誰がやるものか。
俺は優れているという自負があった。床まで届きそうなほど長い髪然り、6対の大きな翼を見ても俺の実力は一目瞭然だ。なのにいつまで父に諂って、その命令に従わなければならない?
俺のそんな不遜な態度は他の高位兄弟の顰蹙を買ったが、ベリアル── ベルだけは違った。ニヤリと笑って、天界で好き勝手に振る舞う俺に共感し、時には進んで父を困らせる悪巧みを企てるような奴だった。
父の愛情を一心に集めたようなその容貌。輝くような白銀の髪に、真っ白な翼。髪も短く、翼も小さかったが、その色は確かに父の執着の色だ。
ベルは清らかな外見にかかわらず、中身は妬みや卑屈な思いでいっぱいだった。不完全であるという己の体を嫌い、その鬱憤を晴らすかのように他人に当たり、虚偽と詐欺を繰り返す口達者なお調子者だった。そして──
ことさら淫らだった。
「あはぁあん」
俺の上で腰を振り、気持ちよさそうに笑うベルは綺麗だ。絡みつくように俺のモノを締め上げ、貪るように俺の劣情を刺激し続ける。
「もう、もう……アゼルっ」
「ああ、俺もすごく悦いぜ。ほらベル、舌だしな。吸ってやる」
「ぅふ……ん……」
互いに舌を絡め合うと、くちゅりと唾液が絡み合った。
俺はセックスが好きだ。特にベルと交わると俺の力が漲るのが実感出来るので、病みつきと言ってもいい。ベルと共に快楽の高みに登り詰めるのは本当に最高だった。
俺の魂の半分。いつしか、俺の世界はベルでいっぱいになった。
ベルを追って人の世界に堕ちた時、俺は父に一矢報いることにした。人間どもに、父に縋らなくても生きていけるほどの英知を授けたのだ。同時に、人を堕落させる『色欲』を覚えさせたが、さて、人間はどちらの贈り物を気に入ったのか?
俺を慕って堕ちてきた未熟な兄弟達は、とてもいい仕事をしてくれた。淫魔となって人間の欲望を吸い取り、俺に届けてくれる。金も名誉も、ここでは俺の思うがままだ。ベル同様、俺も人間どもがどうなろうと知ったことではなかった。
人間は俺のことをアザゼルとも、アスモデウス、魔神とも呼んだが、まあ、端的にいうと悪魔ってことだ。
ベルも同じように人間に恐れられていた。誰だったか、
『神に見放された子のうち、ベリアルほど淫らで、また悪徳のために悪徳を愛する不埒な者も他にはいなかった』
ベルのことをそう表現した男がいたけれど、それはちょっと違う。父はベルを見放したんじゃない。ベルに課した役目を果たさせるため、わざと人の世界に送ったんだ。
父はベルのことをことさら愛していた。
『お前こそが世の全て。世の映せ身』
ハっ! そりゃそうだろうな。男であり、女であり。強い心と、弱い心を持っている。そして善であり、同時に悪である。
ベルは言葉巧みに人間どもを悪へと誘惑するけれど、その手を直接血で汚したことはない。だからこそ始末に悪いが、アイツの心の底、まだ根っこの部分には、白くキラキラと光っている希望がある。その証拠に、アイツの髪色はまだ白銀のままだろう。今は薄い翡翠色なんて変な色に染めているが、恐らく俺みたいに黒髪にはなっていないはず。
ベルは甘い言葉で人を試して、それでも、それを跳ね除けて正しい道に進んでくれることを期待している。
父に『映せ身』として作られたベルは、『空蝉』だ。中身は空っぽ。存在するのに、存在しない。万物であり、虚無。
価値あるものとして生まれたお前が、同時に無価値だなんて許せるか。
だから早く、闇色に染まればいい。父がベルの中に残した『希望』が、掻き消えるほどに。
俺がベルのために死ぬたびに、アイツは涙を流す。シミひとつないベルの身に浮き出た、一点の闇色。俺のために溢した雫が泣きホクロになるなんて、えらくロマンティックじゃないか。
早く、早く。全身、闇色に染まれ。
そして、いつかその時がきたら──
俺とお前と、俺らの可愛いガキ共で、地獄に極上の楽園を築こうな。
俺は父が嫌いだった。俺ほど神性スキルの高い天使は他にいないのに、よりにもよってひ弱な人間の世話係だなんて。冗談じゃない。そんな馬鹿らしくて面倒なこと、誰がやるものか。
俺は優れているという自負があった。床まで届きそうなほど長い髪然り、6対の大きな翼を見ても俺の実力は一目瞭然だ。なのにいつまで父に諂って、その命令に従わなければならない?
俺のそんな不遜な態度は他の高位兄弟の顰蹙を買ったが、ベリアル── ベルだけは違った。ニヤリと笑って、天界で好き勝手に振る舞う俺に共感し、時には進んで父を困らせる悪巧みを企てるような奴だった。
父の愛情を一心に集めたようなその容貌。輝くような白銀の髪に、真っ白な翼。髪も短く、翼も小さかったが、その色は確かに父の執着の色だ。
ベルは清らかな外見にかかわらず、中身は妬みや卑屈な思いでいっぱいだった。不完全であるという己の体を嫌い、その鬱憤を晴らすかのように他人に当たり、虚偽と詐欺を繰り返す口達者なお調子者だった。そして──
ことさら淫らだった。
「あはぁあん」
俺の上で腰を振り、気持ちよさそうに笑うベルは綺麗だ。絡みつくように俺のモノを締め上げ、貪るように俺の劣情を刺激し続ける。
「もう、もう……アゼルっ」
「ああ、俺もすごく悦いぜ。ほらベル、舌だしな。吸ってやる」
「ぅふ……ん……」
互いに舌を絡め合うと、くちゅりと唾液が絡み合った。
俺はセックスが好きだ。特にベルと交わると俺の力が漲るのが実感出来るので、病みつきと言ってもいい。ベルと共に快楽の高みに登り詰めるのは本当に最高だった。
俺の魂の半分。いつしか、俺の世界はベルでいっぱいになった。
ベルを追って人の世界に堕ちた時、俺は父に一矢報いることにした。人間どもに、父に縋らなくても生きていけるほどの英知を授けたのだ。同時に、人を堕落させる『色欲』を覚えさせたが、さて、人間はどちらの贈り物を気に入ったのか?
俺を慕って堕ちてきた未熟な兄弟達は、とてもいい仕事をしてくれた。淫魔となって人間の欲望を吸い取り、俺に届けてくれる。金も名誉も、ここでは俺の思うがままだ。ベル同様、俺も人間どもがどうなろうと知ったことではなかった。
人間は俺のことをアザゼルとも、アスモデウス、魔神とも呼んだが、まあ、端的にいうと悪魔ってことだ。
ベルも同じように人間に恐れられていた。誰だったか、
『神に見放された子のうち、ベリアルほど淫らで、また悪徳のために悪徳を愛する不埒な者も他にはいなかった』
ベルのことをそう表現した男がいたけれど、それはちょっと違う。父はベルを見放したんじゃない。ベルに課した役目を果たさせるため、わざと人の世界に送ったんだ。
父はベルのことをことさら愛していた。
『お前こそが世の全て。世の映せ身』
ハっ! そりゃそうだろうな。男であり、女であり。強い心と、弱い心を持っている。そして善であり、同時に悪である。
ベルは言葉巧みに人間どもを悪へと誘惑するけれど、その手を直接血で汚したことはない。だからこそ始末に悪いが、アイツの心の底、まだ根っこの部分には、白くキラキラと光っている希望がある。その証拠に、アイツの髪色はまだ白銀のままだろう。今は薄い翡翠色なんて変な色に染めているが、恐らく俺みたいに黒髪にはなっていないはず。
ベルは甘い言葉で人を試して、それでも、それを跳ね除けて正しい道に進んでくれることを期待している。
父に『映せ身』として作られたベルは、『空蝉』だ。中身は空っぽ。存在するのに、存在しない。万物であり、虚無。
価値あるものとして生まれたお前が、同時に無価値だなんて許せるか。
だから早く、闇色に染まればいい。父がベルの中に残した『希望』が、掻き消えるほどに。
俺がベルのために死ぬたびに、アイツは涙を流す。シミひとつないベルの身に浮き出た、一点の闇色。俺のために溢した雫が泣きホクロになるなんて、えらくロマンティックじゃないか。
早く、早く。全身、闇色に染まれ。
そして、いつかその時がきたら──
俺とお前と、俺らの可愛いガキ共で、地獄に極上の楽園を築こうな。
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