この婚約、白紙に戻させていただきます

シンさん

文字の大きさ
9 / 14

レナードの魔法2

しおりを挟む
「ねぇ、会った事も話した事もない女と『結婚したい』って、どういう心理なの?」
「会った事はありませんが、俺はリュシルを知っています」
「ガスパールから聞いていたから?それくらいで、人を好きにならないでしょ」

「俺は祖父の知らないリュシルを知ってますよ。これに見覚えはありませんか?」

 レナードが持っているのは、黄ばんだ羊皮紙。

「何それ?」
「リュシルの友達です」

 レナードが羊皮紙に魔力を送ると、ポンっと何か出てきた。子どもが描いた落書きが、立体化して動いてる……そんな感じのもの。

「なにこれ……?」
「猫です」


 猫……これが?
 耳と尻尾でかろうじて、猫か犬か狐か……そんな風に見えなくもないけど……魔物に近い気がする……

「私にこんな友達はいないわ」
「これはリュシルが描いた絵です。この子には、リュシルの魂の一部がこもっているので、どんな人なのか教えてくれるんですよ」
「レナード、貴方その魔物みたいなのと、お話出来るの?」
「俺の特質魔法です。心を込めて作られたものに魔力を与えると、意思を持ちます。もちろん、作られた時の記憶も」
「凄いわね……」

 って、感心してる場合じゃない。


「その『猫みたいな物体』は、私の事をなんて言ってたの?」
「寂しがりやで、描いた絵に話しかけていた…とか、花に名前を付けて毎朝挨拶をしてた……とか」

 話だけ聞いていたら変人でしょ……

「記憶は映像化して見えるので、俺は子供のリュシルも知ってます」
「許可なく人の行動を覗かないで」
「リュシルの行動を覗いてるわけではなく、ルルの記憶ですから、文句言われる筋合いはありません」

 それはそうだけど、なんか腑に落ちない。

「ガッカリしたでしょ。こんな性格の悪い女だって、ルルは知らないもの」
「リュシルは何も悪くないですよ。悪いのは貴女を騙した祖父や国王です。恨まれても許されなくても、それは仕方がない事です」
「貴方ももれなく、その悪い人に含まれてるけどね」
「はい……解ってます……」

 めちゃくちゃ落ち込んでるわ。

「早く良い人になって、私を開放して」
「なら、悪い人のままで構いません」

 開き直ってる。

「結婚するならもっと若い子がいるでしょ。私、年下は好きじゃないの」
「俺はリュシルより1才年上ですが」
「貴方、21才なの?18才のガスパールにソックリなのに?」
「18の祖父を見たことがないので答えに困りますが、リュシルと結婚する条件は1つ満たしたって事ですね」
「私はもう70近いお婆ちゃんなの。子どもと結婚なんてしない」
「俺は成人してますが」

 ああ言えばこう言う……

「レナード、貴方はその猫みたいなのに洗脳されてるのよ。早く目を覚ましなさい」
「『猫みたいなの』ではなく、ルルです」
「そこは重要じゃないんだけど」
「そんな事を言わないでください。ルルが悲しんでるので」

 猫みたいなのが、レナードの膝の上で小さく丸まってしまった。もしかして、拗ねてる?

「あの……ルルちゃん?ゴメンね」
「ルルはリュシルに似て頑固なので、しばらくはご機嫌ななめです」
「私に似ているなら、貴方になつかないわよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

処理中です...