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時間の無駄

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今日も朝から、マナー、レッスン。こんな事を続ける。

「はぁ…疲れた……」


婚約発表まで後1ヶ月、婚約を破棄しなければ!!

けどね、
会わないとどうしようもなくない?
何も出来ないまま『婚約発表』なんて事になりかねないのでは…。
どうにか近づかないと!

「アっ!アイリーン様!」

「ん?どうしたの?」

マリーが焦って私の所へ来た。

「…っ、只今城から知らせがありまして、『15時に城に来て下さい』っとの事です!!早く仕度を!」

「なんですって!?」
さっそくチャンス到来!!自ら私を城へ招くとは。
そうかっ!向こうも乗り気じゃなかったし、どうせ『結婚するなら自分の事を好きな女がいい!』とか、『私みたいな外見の人は無理!』とかで、婚約破棄の道を一緒に模索してくれるとか!?


これで1歩前進!!


と、思ってたのに……
現実って残酷だよね…


「発表の時に着るドレスは、こちらで用意する。」

よばれたのは、その採寸のため…って、どうでもいいわーー!!
採寸する人たちも、みんな嫌そうな顔をしてるしビクビクしてる。私には一切喋りかけても来ない。
この人達も『氷雪の姫の転生』説を信じてるの?馬鹿なの?

でも丁度いいわ。

ふふふ…
何故なら、ここに来たもう一つの目的は禁書を探す事!!


「終了いたしました。」
「それでは私共はこれで…」

「ちょっと、待って」
私が呼び止めると、嫌そうに視線を向けられた。

「貴女達が着ているその服。私にも1着頂けないかしら?」
「…何故ですか?」
「何故か、それを貴女に言う必要があるのかしら、ねぇ?」
「私どもの着る服は、アイリーン様に着せられるような服ではございません。服が必要なのであれば、他を…」
ガチャーッン
全部言い終わる前に、私は鏡を思いっきり殴った。もちろん鏡はわれますし、手は傷つきますし、血は…若干…手から滴り落ちました。
けど、それも計算のうち。

ドンドンッ

「何かございましたかっ!?」
「アイリーン様っ!!」

部屋の外でまってる衛兵?が、焦ってる。

「大丈夫、少し転んでしまっただけよ」

「あの…血が…」

私の様子を見てみんな真っ青になった。

「…アイリーン様…一体何を…」
「これ、あなた達が私を傷つける為にやったのだって言えば、どうなるのかしら。」

う…意地悪なこと言ってごめん!!でも、背に腹は変えられない!禁書を盗める可能性を増やしたいの!!
貴女たちの服があれば目立たないから、可能性はかなり増える。

「…本当の事を言います。」

私の姿を見ても、まだ強気な態度を保った人がいる。

「へぇ、いいわよ。けれど、私とあなた達、首が飛ぶのはどちらでしょう?」

今、どういう状態で、どんなことが起こりえるのか…想像して言ってみた。
あくまで想像!!
どうなるかなんて私にわかるわけないんだけど。でもね、今の私は婚約者だし『氷雪の姫』、国に害なす存在…怖くないはずがない!

最後にだめ押し、私はニコっと笑って見せる。


「では、1枚…」
…くださいって言おうと思ったのに…!
「アイリーン、どうした?開けるぞ。」

うわ!殿下と、騎士団長が部屋に入ってくる!!

「ちょっと、待ってください!!」

私は急いで自分が着てきた服の裾をさき、さっと傷口にまいた。

ガチャ

「どうした?」

ヤバい…すごくヤバい…だってさ、これバレたら、本当にこの人たちに何か罰がくだるんじゃない?
私の身勝手で、それはダメ!!

「私が鏡を殴って、割ったんですよ。」 

脅迫していた事はバレないようにしないと…!

「…なぜそんな事を?」

訝しげな顔で、グレアム様は私に視線を向ける。

「私は私の顔がとても嫌いなんです。『氷雪の姫の転生した姿』などと、この容姿でどれだけ辛い思いをしたか…」

「…くだらない」
「ええ、結局は他人事、ご理解頂けるとは思っておりません。」

まずいな…結構傷が深かったのかも。血が沢山出てる気がする…後ろ手に隠しているとはいえ、気がつかれる可能性がある。

「では、用意がととのいましたら殿下のもとへまいりますので、退室を。」

とりあえず、何でもいいから早く出ていって!服にいっぱい血が付いちゃうでしょう!!

「……わかった。」

バタン

「はぁ…」
よかった。わりとあっさりと出ていってくれた。

「皆さん、ごめんなさい…殿下が来るなんて思わなかったんです。何かあったら絶対私がなんとかしますから、採寸の仕事は終わってるし退室してください。」

皆を追い出してから傷口をみたら、鏡の破片が刺さっていた。

「いっったい!!」

冷静になると、痛みが酷くなった…。
こんなこと、しなきゃよかった。


・・・・

「殿下、いいんですか?万が一の為に部屋を変えた方が…」
「…大丈夫だろう」
「…殿下、あの鏡見ましたか?あの割れ方、何の躊躇いもなく一撃ですよ。」
「そうだな。」
「そうだなじゃなくて、心配にならないんですか?一応婚約者でしょう?」
「………」
「傷、結構深いかもしれませんよ。本人は上手く隠せてるつもりだったんでしょうけど、鏡にも床にも血がついてましたから」
「だから医師に至急向かうよう伝えさせた。」

そんな事はギルに言われなくてもわかってる。手を差し出さなかったのは、向こうがそれを拒否していたからだ。
早く出ていけ…っという視線だった。
婚約などしたくない、破棄したい、と願っている相手の顔など見たくないだろう。

「ギル、あの容姿はそんなに悪い事なのか?」
「まぁ、『氷雪の姫の転生した姿』とか、馬鹿みたいな事言ってる奴等も多いみたいですし。」
「馬鹿馬鹿しい。」
「そうですね。私からすれば綺麗としか思えませんから、アイリーン様は。殿下はどうですか?」
「…さぁ」
「へぇ、不細工って言わないって事は、結構気に入ってるって事……って何で睨むんですか!」


禁書など開く事ができなければよかったのに…

俺も…アイリーンも。

彼女の読んだ書は恋愛ものだと言ってた。
俺のはよくわからない。

俺の本は1ページ目にしか書かれていなかった。あとは白紙。

もしも『あなた』がいなければ、私に生きる価値はない。だから『あなた』のためならば、この身は全て差し出そう…


この作者は何を思ってこんな事を書いたのか…到底俺には理解できない。


禁書…限られた人間にしか開けられない。なら、それを書いた者は、どんな者なのか…
最後に行き着くのは、いつもその謎だけだ。
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