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俺の母親は、日本で仕事をしてた時に、父親と出会って恋人になったらしい。
父親との間に子どもができて、父親にそれを報告した時に明かされたのが、父親が実は既婚者だったということだ。それでも、子どもは父親の認知を受けて、だだっ広い土地を持つ父親の家に母子共々引き取られ、そこで幼少期を過ごした。
それが俺だ。
でも、父親には妻がいる。
そして、妻との間にも子どもがいた。俺の二つ上で、国内有数のグループ会社の代表を務める父親の跡継ぎとしての役割を背負った息子。
それが兄、原賀優哉だ。
父親の妻にとっては、俺と母親は当然ながら目障りだった。父親は、妻との結婚は「親に決められた結婚だった」と言った。だから、跡継ぎを残すという役割を果たしただけだと。情はあるけど愛はない、そういう相手。愛したのは俺の母親だけど、自分のために役割を果たしてくれた妻のことも大事にしたい。そう言ってた。
でも、そんなことが上手くいくはずもない。妻は俺と母親を憎んだ。自身の夫を奪った俺たちを。
そして、自身の子どものことも嫌った。自分が愛されなかったのは、早々と役割を終えてしまったから。息子が生まれたからだと。実の息子に対して、暴力を振るうようになった。
俺も母親も、大小様々な嫌がらせを受けた。さすがに命を狙われるようなことはなかったけど。暴力を振るわれることはよくあった。謀られて夕飯が食べられなかったこともあった。
俺の記憶でいちばん怖かったのは、日が落ち切った夜、誰も通りがからないような物置に閉じ込められた八歳のある日だ。
その日は天気が悪くて、雨風が激しく、雷も鳴ってた。ただでさえ雷が怖いのに、独りぼっちだし、外にも出れないし、大声を上げても応えてもらえないっていう状況に置かれた。涙が止まらなくて、そろそろ瞼が落ちてしまいそうなほど疲れ切って、もうダメだと思った。
そんな時、外から扉を叩く音が聞こえて、はっと目が覚めた。
「ルカ!」
俺を呼ぶ聞き覚えのある声に、大声で返した。
「兄ちゃん!」
外で物音がした後、あれだけ重く閉ざされてた扉が開いて、そこには大好きな兄がいた。
「よかった。エイダさんが、ルカがいないって騒いでて……。無事か? 怪我はない?」
「兄ちゃん……怖かった、兄ちゃん、兄ちゃん……!」
エイダは俺の母親の名前で、俺がいないと聞いた兄が一緒になって探してくれた。
兄は昔からこうして、父親の妻にいじめられる俺や母親の力になってくれた。だから、俺は兄が大好きだった。
扉の横にいた兄に泣きながら駆け寄って抱きつくと、力強く抱きしめ返された。
「遅くなってごめん。怖かったよな。もう大丈夫だから。兄ちゃんがいるから」
背中をトントンとリズム良く叩かれると、俺は安心してそのまま寝てしまった。目が覚めた時には自分の部屋にいて、次の日の朝を迎えてた。
こうして兄は、自分自身も暴力を振るわれてたのに、俺のことをずっと気にかけてくれた。
でも、この夜の一件を機に、母親は家を出ることを決心した。
たまたま兄が俺を発見したけど、ずっと見つかってなければ最悪の場合死んでたかもしれない。そんな家にはもう住めない。だから、家を出てそのまま母国であるアメリカに移った。
その後、アメリカで働いてた日本人と母親が結婚した。その日本人が今の俺の義父だ。
家を出た後の兄のことは何も知らない。
兄が愛されなかったのは俺と母親のせいだ。俺さえいなければ、母親は父親と一緒に住むことはなかっただろう。
兄が得るはずだった幸せな家族を壊した。にもかかわらず、俺と母親は逃げた。同じく暴力を受けてた兄を残して。
だから、何も知らなくても分かってる。兄は俺を恨んでる。
兄には何も言えない。俺は、まだ兄と一緒にいたいから。
何も言わないことでこの距離が許されるなら。たとえ、欺瞞に満ちた関係であっても。
父親との間に子どもができて、父親にそれを報告した時に明かされたのが、父親が実は既婚者だったということだ。それでも、子どもは父親の認知を受けて、だだっ広い土地を持つ父親の家に母子共々引き取られ、そこで幼少期を過ごした。
それが俺だ。
でも、父親には妻がいる。
そして、妻との間にも子どもがいた。俺の二つ上で、国内有数のグループ会社の代表を務める父親の跡継ぎとしての役割を背負った息子。
それが兄、原賀優哉だ。
父親の妻にとっては、俺と母親は当然ながら目障りだった。父親は、妻との結婚は「親に決められた結婚だった」と言った。だから、跡継ぎを残すという役割を果たしただけだと。情はあるけど愛はない、そういう相手。愛したのは俺の母親だけど、自分のために役割を果たしてくれた妻のことも大事にしたい。そう言ってた。
でも、そんなことが上手くいくはずもない。妻は俺と母親を憎んだ。自身の夫を奪った俺たちを。
そして、自身の子どものことも嫌った。自分が愛されなかったのは、早々と役割を終えてしまったから。息子が生まれたからだと。実の息子に対して、暴力を振るうようになった。
俺も母親も、大小様々な嫌がらせを受けた。さすがに命を狙われるようなことはなかったけど。暴力を振るわれることはよくあった。謀られて夕飯が食べられなかったこともあった。
俺の記憶でいちばん怖かったのは、日が落ち切った夜、誰も通りがからないような物置に閉じ込められた八歳のある日だ。
その日は天気が悪くて、雨風が激しく、雷も鳴ってた。ただでさえ雷が怖いのに、独りぼっちだし、外にも出れないし、大声を上げても応えてもらえないっていう状況に置かれた。涙が止まらなくて、そろそろ瞼が落ちてしまいそうなほど疲れ切って、もうダメだと思った。
そんな時、外から扉を叩く音が聞こえて、はっと目が覚めた。
「ルカ!」
俺を呼ぶ聞き覚えのある声に、大声で返した。
「兄ちゃん!」
外で物音がした後、あれだけ重く閉ざされてた扉が開いて、そこには大好きな兄がいた。
「よかった。エイダさんが、ルカがいないって騒いでて……。無事か? 怪我はない?」
「兄ちゃん……怖かった、兄ちゃん、兄ちゃん……!」
エイダは俺の母親の名前で、俺がいないと聞いた兄が一緒になって探してくれた。
兄は昔からこうして、父親の妻にいじめられる俺や母親の力になってくれた。だから、俺は兄が大好きだった。
扉の横にいた兄に泣きながら駆け寄って抱きつくと、力強く抱きしめ返された。
「遅くなってごめん。怖かったよな。もう大丈夫だから。兄ちゃんがいるから」
背中をトントンとリズム良く叩かれると、俺は安心してそのまま寝てしまった。目が覚めた時には自分の部屋にいて、次の日の朝を迎えてた。
こうして兄は、自分自身も暴力を振るわれてたのに、俺のことをずっと気にかけてくれた。
でも、この夜の一件を機に、母親は家を出ることを決心した。
たまたま兄が俺を発見したけど、ずっと見つかってなければ最悪の場合死んでたかもしれない。そんな家にはもう住めない。だから、家を出てそのまま母国であるアメリカに移った。
その後、アメリカで働いてた日本人と母親が結婚した。その日本人が今の俺の義父だ。
家を出た後の兄のことは何も知らない。
兄が愛されなかったのは俺と母親のせいだ。俺さえいなければ、母親は父親と一緒に住むことはなかっただろう。
兄が得るはずだった幸せな家族を壊した。にもかかわらず、俺と母親は逃げた。同じく暴力を受けてた兄を残して。
だから、何も知らなくても分かってる。兄は俺を恨んでる。
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