未必の恋

ほそあき

文字の大きさ
7 / 14

7

しおりを挟む
 俺の母親は、日本で仕事をしてた時に、父親と出会って恋人になったらしい。
 父親との間に子どもができて、父親にそれを報告した時に明かされたのが、父親が実は既婚者だったということだ。それでも、子どもは父親の認知を受けて、だだっ広い土地を持つ父親の家に母子共々引き取られ、そこで幼少期を過ごした。
 それが俺だ。

 でも、父親には妻がいる。
 そして、妻との間にも子どもがいた。俺の二つ上で、国内有数のグループ会社の代表を務める父親の跡継ぎとしての役割を背負った息子。
 それが兄、原賀優哉だ。

 父親の妻にとっては、俺と母親は当然ながら目障りだった。父親は、妻との結婚は「親に決められた結婚だった」と言った。だから、跡継ぎを残すという役割を果たしただけだと。情はあるけど愛はない、そういう相手。愛したのは俺の母親だけど、自分のために役割を果たしてくれた妻のことも大事にしたい。そう言ってた。

 でも、そんなことが上手くいくはずもない。妻は俺と母親を憎んだ。自身の夫を奪った俺たちを。
 そして、自身の子どものことも嫌った。自分が愛されなかったのは、早々と役割を終えてしまったから。息子が生まれたからだと。実の息子に対して、暴力を振るうようになった。

 俺も母親も、大小様々な嫌がらせを受けた。さすがに命を狙われるようなことはなかったけど。暴力を振るわれることはよくあった。謀られて夕飯が食べられなかったこともあった。

 俺の記憶でいちばん怖かったのは、日が落ち切った夜、誰も通りがからないような物置に閉じ込められた八歳のある日だ。
 その日は天気が悪くて、雨風が激しく、雷も鳴ってた。ただでさえ雷が怖いのに、独りぼっちだし、外にも出れないし、大声を上げても応えてもらえないっていう状況に置かれた。涙が止まらなくて、そろそろ瞼が落ちてしまいそうなほど疲れ切って、もうダメだと思った。
 そんな時、外から扉を叩く音が聞こえて、はっと目が覚めた。

「ルカ!」

 俺を呼ぶ聞き覚えのある声に、大声で返した。

「兄ちゃん!」

 外で物音がした後、あれだけ重く閉ざされてた扉が開いて、そこには大好きな兄がいた。

「よかった。エイダさんが、ルカがいないって騒いでて……。無事か? 怪我はない?」
「兄ちゃん……怖かった、兄ちゃん、兄ちゃん……!」

 エイダは俺の母親の名前で、俺がいないと聞いた兄が一緒になって探してくれた。
 兄は昔からこうして、父親の妻にいじめられる俺や母親の力になってくれた。だから、俺は兄が大好きだった。
 扉の横にいた兄に泣きながら駆け寄って抱きつくと、力強く抱きしめ返された。

「遅くなってごめん。怖かったよな。もう大丈夫だから。兄ちゃんがいるから」

 背中をトントンとリズム良く叩かれると、俺は安心してそのまま寝てしまった。目が覚めた時には自分の部屋にいて、次の日の朝を迎えてた。

 こうして兄は、自分自身も暴力を振るわれてたのに、俺のことをずっと気にかけてくれた。
 でも、この夜の一件を機に、母親は家を出ることを決心した。
 たまたま兄が俺を発見したけど、ずっと見つかってなければ最悪の場合死んでたかもしれない。そんな家にはもう住めない。だから、家を出てそのまま母国であるアメリカに移った。
 その後、アメリカで働いてた日本人と母親が結婚した。その日本人が今の俺の義父だ。

 家を出た後の兄のことは何も知らない。
 兄が愛されなかったのは俺と母親のせいだ。俺さえいなければ、母親は父親と一緒に住むことはなかっただろう。
 兄が得るはずだった幸せな家族を壊した。にもかかわらず、俺と母親は逃げた。同じく暴力を受けてた兄を残して。
 だから、何も知らなくても分かってる。兄は俺を恨んでる。

 兄には何も言えない。俺は、まだ兄と一緒にいたいから。
 何も言わないことでこの距離が許されるなら。たとえ、欺瞞に満ちた関係であっても。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...