未必の恋

ほそあき

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「どういうことだ……? なんで俺が原賀を嫌ってるって……?」
「お前こそ。俺がお前を恨んでるって? そんなわけないだろ。どうやらお互いに誤解があるらしい」

 誤解? 何が? どれが?
 わけがわからなくなって、言葉が見つからなくて、口を開いては閉じてを繰り返す。

「なんで俺が、お前を恨むことになるんだ。そんなわけないだろ」

 むっとした顔で俺の鼻をつまんでくる。痛い。離してほしい。
 いや待て、なんて言った?

「恨んで、ない?」

 そう言った、よな。

「恨んでいない。なんでそう思ったんだ」
「だって、俺のせいで……」

 俺のせいで、ずっと暴力を受けてきたのに。

「お前のせいで? まあ、なんとなくお前の考えていることは分かった。というか、俺も同じようなことを考えていたからな」

 原賀が俺の鼻から手を離す。痛い。ヒリヒリする。

「同じようなこと? そういや、俺がお前を嫌ってるって……あ」
「そういうことだ。俺の両親のせいでお前は酷い目に遭わされただろ。それこそ、未だにトラウマが残るような。だから俺は、お前が俺を嫌っていると思っていた。お前もどうせ、自分のせいで俺が虐待されたから恨まれている、とかそんなことを考えているんじゃないのか」

 原賀の問いに小さく頷いた。
 そうだ。その通りだ。
 でも、そうじゃなくて。原賀は、俺を恨んでないって言った。

「他に分からないことは? 全部言え。まだ納得してないことがあるって顔だぞ」

 気になることはたくさんある。さっきは誤解があったけど、やっぱり俺のことをよく分かってるよな。

「恨んでねぇんなら、なんで兄だって言ってくれなかったんだ」
「俺を嫌っている相手に、わざわざ当の本人ですって言うと思うか? お前が弟だって言ってこなかったのをいいことに黙っていた」

 それはそうだ。俺だって言わなかったんだから。原賀のことだけを責められない。

「いつ気づいた?」
「最初は編入生が気になって見に行ったのがきっかけで、その時には気づいた」
「なんで?」
「なんとなく。学年も同じだし、それに、名字は変わっていても、名前は変わっていないからな」
「俺の名前覚えてたのかよ。ルカって呼んでたから覚えてねぇと思ってたのに」
「さすがに弟の名前は忘れない。お前は? 俺の名前を覚えていたか?」
「覚えてた。忘れるわけねぇよ」
「そうだろ、一緒だ」

 原賀が笑う。似た者兄弟なのかもしれない。

「お前が弟だって気づいたことを隠していれば、お前と一緒にいられると思ったんだ」
「俺も、弟だって隠してたら一緒にいられると思った」

 俺も笑う。同じことを考えてたんだな。
 でも、それなら、なんで。

「なんで、俺を抱いた」

 弟だと知ってたなら。
 嫌がらせじゃないのなら。

 笑いを止めて、真剣な顔で原賀の目を見る。

「抱きたかったから」

 原賀は、俺の目を真っ直ぐ見返してそう言った。

「なんで、兄弟だって知ってたのに。相手だってたくさんいるのに」
「兄弟だって知ってても、お前を抱きたかった。どうせ断るだろうと思って声をかけたのに、お前が受け入れて驚いた。どれだけ誰を抱いても、こんなに誰かを抱きたいと思ったのは初めてだ。なあ、倉光。いや……ルカ」

 原賀が目を細める。
 なあ、それって。
 それって、期待していい?

「俺の、こと……」
「好きだ」

 目を逸らさず即答される。
 叶わないと思ってたのに。兄弟なのに。失恋だと思ってたのに。

 いや待て。失恋だと思ってたんだ。だって原賀は。

「成瀬先輩のこと、好きなんじゃねぇの?」
「は?」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔っていうのはこういう顔なんだろうな。原賀が変な顔をしてる。

「違うのか?」
「違う。今のでなんでそうなった。お前のことが好きだって言っただろ」
「親しげだし。名前で呼んでるし。わざわざ俺と成瀬先輩が会う時に一緒にいたのは、二人っきりにしねぇようにだと思ってた。成瀬先輩も親衛隊長してるくらいだし、原賀のこと好きなんじゃねぇの?」
「やめろ。変な妄想をするな。名前で呼ぶのは初等部からの付き合いだからだし、弥鶴とお前が会う時に行ったのは単にお前が親衛隊に何をされたか心配だったからだ。親衛隊長を務めているのは、信頼できる相手で、なおかつ集団をまとめられる技量があるから俺が頼んだ。そもそも弥鶴には恋人がいる。お前のクラスにいるだろ、三上って名前の生徒」
「え!?」

 三上が、成瀬先輩の恋人?
 全然知らなかった。三上も恋人がいるなんて言ってなかったし。

「お前が俺と弥鶴に会った後、三上がお前に話しかけただろ? それは弥鶴がお前のことを気にかけてくれと三上に言ったからだ。もしかしてお前、俺と弥鶴に肉体関係があるとか思っているんじゃないだろうな」

 うっ、思ってます。
 そんな気持ちが顔に出てたのか、原賀の眉間に皺が寄る。心底嫌だと思ってるみたいだ。

「いや、親衛隊に相手がたくさんいるって聞いたし……。親衛隊がそういう相手の集まりってところもあるって聞くし……」
「会計のところか。言っておくが、俺の親衛隊はそういうのじゃないからな。確かに相手は複数いたが……お互いに性欲を発散するだけの関係だった。それも数週間に一回程度で、お前が思っているような関係の相手はいない。お前と会ってからはお前だけだ。あと、弥鶴は三上を抱く側だから、俺に抱かれることは絶対にない」

 本当に俺の勘違いだったらしい。いや、相手がたくさんいるってのは事実みたいだけど、親衛隊だからみんな抱くってわけではないらしい。

「というか、ルカ、返事は?」

 返事。
 何の? とは聞かなくても分かる。好きだって言われたことだ。

「俺も、好き。原賀が……兄ちゃんが、好き」

 俺と原賀は、初めて唇を合わせた。
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