BLゲームの悪役令息に異世界転生したら攻略対象の王子に目をつけられました

ほしふり

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【第三章】悪役令息と王子様の交流

(5)悪役令息は所望する

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「ベリル」
「…。」
「退いてくれ」

フランツの言葉に俺はハッとする。
俺はフランツの腰に跨ったままだった。
すぐに起き上がると、俺は寝転んだままのフランツに手を差し出した。

「…?」

今度はフランツが俺に対して小首をかしげていた。
だが、すぐに察すると俺の手をとってフランツは起き上がった。
拍手が大きく打ち鳴らされながら、さらなる歓声が俺たちを包み込んだ。
ここでやっと試合が終了した。
俺は盛大なため息を吐いた。

(よかった…俺が醜態を晒さなくてよかった…)

喧嘩最弱の俺、初めて勝った喧嘩の相手はフランツでした。
とはいっても全部ベリルの能力による功績なので、俺によるものではないけれど。
会場の拍手と歓声は今もなお続いている。
やっと俺の世界に音が戻ってきた。

(ん…?)

待ってくれ、さっきの試合に歓声を上げる要素はあったのか?
俺は必死過ぎて見るに耐えない動きだったし、ここにいる生徒の多くはフランツ派の人間だ。
目の前で憧れのキラキラ王子様が悪役令息に負けて屈したのだ。
俺が勝ったところで喜ぶ人間はいないのでは?
だが、俺の思考に反して周りの拍手と歓声は暖かかった。
こころなしか、俺に怯えていた生徒たちも表情を和らげている。

(…これがスポーツというやつか…?)

前世で縁もゆかりもなかった経験を改めて味わった。
対するフランツは、特に悔しそうな素振りも見せずに俺の方を見つめていた。
彼の空色の瞳が俺を映している。
この世界に俺が初めて来た時からフランツはずっと俺を見つめていた。
最初こそ何を考えているのかわからなかったが、今なら…

「…。」
「…。」

今も何を考えているのかはわからなかった。
ごめんなさい。
でも、その視線がそこまで嫌ではなくなっていることに俺は気付くことができた。
なるほど。
これが慣れというやつか。

「俺の負けだ」

フランツは俺にそう告げると続ける。

「それで、お前の願いはなんだ?」
「へ?」
「昔にも言っていただろ?負けた方が勝った方の願いを聞くというあれだ」

そんな事は考えてもいなかった。
と、いうか知らなかったぞ?そんな話…
俺がぽかんと口を開けたまま佇んでいると、フランツがハッとする。

「すまない。それは昔のことだったな」
「いや。丁度いい」

こちらの願いを聞いてくれるのなら好都合だ。
当初、考えていたフランツとの交流をさせてもらおう。
これはその一歩だ。

「フランツ。どうせなら俺と一緒に夕食を食べないか?」

俺の申し出に対してフランツは笑顔のまま凍りついた。
言葉のとおり、固まっていた。
そして、俺とフランツのやり取りを周りの連中が聞いていないわけがなかった。
辺りの生徒たちがシン…と静まり返る。

おい。

なんだよその反応?

俺はただ単に幼馴染を夕食に誘っただけだぞ?

どうせならそこで交流を図って、弱みを握ろうと画策している浅ましい人間だぞ?

…すみません。

調子に乗りました。

ごめんなさい。

本当にごめんなさい。

俺の心の中の謝りに対して、固まった体勢から意識を取り戻したフランツは頭を振る。

動揺している。

すごく。

試合中は涼しい顔して息切れ一つしていなかったフランツが、冷や汗をかきながら自らの頭に手を当てて、考え込んでいた。
俺にもそれが伝わるほど彼の動揺は凄まじいものだった。

「……いいのか?」
「いいもなにも別に構わないのだが、俺の自室でいいか?」

俺の言葉に生徒たちがザワリと波を打つ。
何だよ?
本当なんだよこの波は???
俺の困惑なんて置いてきぼりにして、フランツはギュッと唇を引き結ぶと声を吐き出す。

「…背に腹は代えられない。その申し出を受けて立とう」

なぜ、そんな武人の文句を口にしながら決意を固める必要があるんだよ?
お前は俺の夕食に招待されるだけなんだぞ?
周りの生徒達のざわめきが広がる。
だが、いちいち生徒たちの言葉を聞き取ることもできず、俺は眉間にしわを寄せると思考を巡らせる。
俺は今…とてもまずいことをやってしまったのか?

わからない。
今の俺にはわからない。

それなら、ここまでのことを一旦整理しよう。
俺はフランツのことを知ろうとして自室を出ると、彼を探しながらフランツ派の生徒たちが多くいる修練場にやってきた。
その場でフランツに勝負を挑まれて試合に勝利した。
フランツ派の生徒たちが多くいる前で、だ。
そして俺は負けたフランツに対して願いを口にした。
一緒にご飯を食べよう。
無論、俺の部屋で。
…。
ん?
…ん?んんっ???

(もしかして…)

これって、もしかして、まさかだが、俺がここからフランツを襲う流れか????
勝者が敗者をいただくという…?
…確かに弱肉強食の世界なら有り得る話だ。
いや。

(まてまてまてまてまて)

俺にそんな気は一切ない。
俺がフランツを食べたいだなんて、そんなことを考えたことはないのだ。
だが、食事の場所を指定する際に俺の自室を指定した。
食堂なんかで一緒に食べたら周りの生徒達の視線が気になるから、自室の方が気分が楽だと思っただけなのだが。

(あ…はい…)

これって、もしかして、もしかしなくてもそうですよね…
俺はフランツにも、周りの生徒達にも釘を刺すことにした。

「勘違いするな。食事のみだ。いったい何を想像したんだ?浅ましい奴らめ」

俺が大声で周りに宣言したら、多くの生徒たちが顔を赤らめながら目線をそらしていた。
みんな想像が豊かだなぁ…おい。
対するフランツは仏頂面で事の成り行きに身を任せていた。
おい。お前は他人事じゃないんだぞ?

「わかったか?わかったな?今日の夕食だからな」

俺はフランツからの返事を聞く前にこの場を去る事を決意した。
手に持っていた木剣をフランツの方に投げて返すと、俺は足早にその場を去った。
生徒たちのざわめきなんて知らない。
振り返らない。
その場に取り残されたフランツがどんな顔をしていたとしても、俺には関係ない。


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