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電車が遅延して、約束の時間を過ぎてしまった。
『少し遅れます』
駅の改札を抜けたところで、祐希は戸田尚美にメールを送り、足早に待ち合わせ場所のレストランに向かう。
土曜日の今日は朝から雨で、夕方になっても雨脚は強まるばかりだ。
繁華街は傘をさした人々で溢れ、なかなか前に進めない。
早く行かなきゃいけないのに。
早く...。
思わずため息が漏れてしまう。
陰鬱な天気がより気持ちを重くする。
二週間前、三島は結婚した。
忙しいのか、妻への配慮なのか、しばらく会うのを控えようと電話で告げられた。
しばらくってどれくらいですか。
俺が会いたいって言っても会ってくれないんですか。
もちろん、そんなことは言わない。
言ったところで、またうまくはぐらかされるだけだろう。
分かっている...。
不意に視界に入ってきた長身の男に目が留まる。
背格好が似ている男に無意識に目が行くようになっていたが、この時は本当に三島だった。
妻となった女性と同じ傘に入って、こっちに向かって歩いてくる。
距離が近付いた時、目が合った。
一、二秒、視線を交わした後、彼は目を逸らし、そのまま通り過ぎて行った。
少しだけ期待した。
祐希は振り返り、彼の後ろ姿を見つめる。
振り向いて微笑んでくれたら、それだけでいい。
俺だけにサインを送ってくれたら、それだけでもいいから。
あの頃のように...。
三島は振り向かなかった。
そして、人混みの中に消えていった。
なにを期待していたんだろう。
分かっていたことなのに。
早く行かないと。
早く彼女が待っているレストランに向かわないと。
早く...。
頭では自分を急かしているが、足が動かない。
行かなければならない。
なのに...。
『急用で行けなくなりました。ごめんなさい』と彼女に断りのメールを送っていた。
祐希はタオルを腰に巻いただけの格好で薄暗い廊下を歩いている。
男たちの息遣い。肌がぶつかる音。
欲望の騒めきが四方から聞こえる。
誰かに腕を掴まれ、引っ張られるまま、個室に入っていく。
「ずっと下向いてるけど恥ずかしいのか。こういうところ初めて?」
男はそう言いながら、祐希の背中から尻に手を這わせる。
長身なのか、高い位置から声がする。
二の腕は筋肉が盛り上がり、逞しい。
こいつでいいか。
祐希は後ろを向き、壁に手をついた。
男の動きに合わせ、腰も勝手に動いている。
息とともに声も漏れる。
感じている。
「...っ」
よく分からない感情が込み上げてきて、なぜか涙が溢れてきた。
どうして泣いているのだろう。
妻と一緒にいる彼を見てしまったから?
見知らぬ男とセックスをして、感じている自分が惨めだから?
どうして彼女が待っているレストランに向かわなかったのだろう。
どうしてこんな場所に来てしまったのだろう。
まとまりのない思考が駆け巡る。
男の手が股間を弄り始める。
もうどうでもいい。
今はただ、泣きたい...。
『少し遅れます』
駅の改札を抜けたところで、祐希は戸田尚美にメールを送り、足早に待ち合わせ場所のレストランに向かう。
土曜日の今日は朝から雨で、夕方になっても雨脚は強まるばかりだ。
繁華街は傘をさした人々で溢れ、なかなか前に進めない。
早く行かなきゃいけないのに。
早く...。
思わずため息が漏れてしまう。
陰鬱な天気がより気持ちを重くする。
二週間前、三島は結婚した。
忙しいのか、妻への配慮なのか、しばらく会うのを控えようと電話で告げられた。
しばらくってどれくらいですか。
俺が会いたいって言っても会ってくれないんですか。
もちろん、そんなことは言わない。
言ったところで、またうまくはぐらかされるだけだろう。
分かっている...。
不意に視界に入ってきた長身の男に目が留まる。
背格好が似ている男に無意識に目が行くようになっていたが、この時は本当に三島だった。
妻となった女性と同じ傘に入って、こっちに向かって歩いてくる。
距離が近付いた時、目が合った。
一、二秒、視線を交わした後、彼は目を逸らし、そのまま通り過ぎて行った。
少しだけ期待した。
祐希は振り返り、彼の後ろ姿を見つめる。
振り向いて微笑んでくれたら、それだけでいい。
俺だけにサインを送ってくれたら、それだけでもいいから。
あの頃のように...。
三島は振り向かなかった。
そして、人混みの中に消えていった。
なにを期待していたんだろう。
分かっていたことなのに。
早く行かないと。
早く彼女が待っているレストランに向かわないと。
早く...。
頭では自分を急かしているが、足が動かない。
行かなければならない。
なのに...。
『急用で行けなくなりました。ごめんなさい』と彼女に断りのメールを送っていた。
祐希はタオルを腰に巻いただけの格好で薄暗い廊下を歩いている。
男たちの息遣い。肌がぶつかる音。
欲望の騒めきが四方から聞こえる。
誰かに腕を掴まれ、引っ張られるまま、個室に入っていく。
「ずっと下向いてるけど恥ずかしいのか。こういうところ初めて?」
男はそう言いながら、祐希の背中から尻に手を這わせる。
長身なのか、高い位置から声がする。
二の腕は筋肉が盛り上がり、逞しい。
こいつでいいか。
祐希は後ろを向き、壁に手をついた。
男の動きに合わせ、腰も勝手に動いている。
息とともに声も漏れる。
感じている。
「...っ」
よく分からない感情が込み上げてきて、なぜか涙が溢れてきた。
どうして泣いているのだろう。
妻と一緒にいる彼を見てしまったから?
見知らぬ男とセックスをして、感じている自分が惨めだから?
どうして彼女が待っているレストランに向かわなかったのだろう。
どうしてこんな場所に来てしまったのだろう。
まとまりのない思考が駆け巡る。
男の手が股間を弄り始める。
もうどうでもいい。
今はただ、泣きたい...。
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