普通、ファミレスで子連れの男をナンパするか⁈〜Oh,my little boy〜

SA

文字の大きさ
7 / 19

(7)

しおりを挟む
能條の部屋は、高層マンションの上階でリビングから綺麗な夜景が見渡せた。
「すごいな」
俊哉は思わず魅入ってしまうが、同時に地に足が着いてないような心許ない気分になる。
なんでこんなところにいるんだろう...。
「料理ができるまで少し時間がかかりますから、座っててください」
「あ、はい」
能條に促されるまま、L字型の大きな黒革のソファに腰を下ろす。
「これでも飲みながら、くつろいでてください」
シャンパンが注がれた細長いグラスをテーブルに置いて、能條はキッチンに戻った。
シャンパンかよ。用意が良すぎないか。と思いつつも喉が渇いていたこともあり、一気に全部飲んでしまう。
アルコールが入って、少し落ち着いた俊哉はあらためて部屋を観察する。
壁には絵が飾られ、座り心地のいい革張りのソファを始め、他の家具も高級そうで、まるでモデルルームのようにおしゃれなリビングだった。
その中でも大きな水槽が目立っていた。南国いるようなカラフルな小魚が泳いでいる。
「すごいですね。こんな部屋に住んでいるなんて...」
俊哉はキッチンにいる能條に言う。リビングと仕切りのないアイランドキッチンなので、料理をしている能條と対面しながら話すことができた。
細々とやっているとか言ってたが、やっぱり弁護士は儲かるのか。
能條はトマトを切っていた手を止め、俊哉の内心を読んだかのように、「違うんですよ」と苦笑する。
「この部屋は叔母のものなんです。叔母は仕事の関係で海外に行ってて、その間、魚の世話を任されてましてね。その代わり、この部屋を自由に使わせてもらってるんです。例えば、今夜のような特別な人との食事とか」
この部屋の雰囲気に飲まれているせいか、おなじみこの手の冗談も聞き流していた。

「お待たせしてすみません。急だったから、こんなものしか作れなくて」
能條は謙遜するようにそう言ったが、ダイニングテーブルに並べられた料理は、サラダからパスタに肉、魚とまるでレストランのフルコースのようだった。
俊哉は椅子に座り、豪勢な料理を作った当人に言う。
「短時間でこれだけのものを作れるなんてすごいですね。普段から料理はよくするんですか」
「普段はしません。休みの日にするくらいですよ」
向かいに座った能條が赤ワインをグラスに注ぎながら答える。
「料理を作っている時は仕事のこと考えなくていいから、気分転換になるんです。でも一人暮らしだから、せっかく作っても食べてくれる相手がいなくて。だから今日はすごく嬉しいです」
目尻に皺を寄せた人懐っこい笑顔を向けられ、俊哉もつい笑顔を返してしまう。
能條は口元に笑みを湛えたまま、グラスを持ち、手前に掲げる。
「二人の出会いに乾杯」
そして、さらっとこう言った。
悔しいことに、こんなキザなセリフさえもこの男は似合ってしまう。
雰囲気に飲まれるな、と俊哉は自分に言い聞かせながら、差し出されたグラスにグラスを合わせた。
綺麗な音が鳴った。

料理はどれも見た目同様にレストランで出されるようなレベルで感動的な美味しさだった。
「美味しいでしょ」と、言わんばかりの自信ありげな視線を送ってくる能條に、俊哉は素直に感動を伝える。
「どれも美味しくてびっくりしました。特にこのトマトソースのパスタはプロ級ですね」
「ありがとうございます。頑張って準備した甲斐がありましたよ。その生パスタ麺は取り寄せるのに一週間はかかるから、今夜に間に合うかはギリギリだったんですけどね」
準備?今夜に間に合うかはギリギリだった?
何気なく言った能條のこの発言が引っ掛かり、俊哉は手を止める。
どういうことだ?
もしかして、この日を想定して準備していたということなのか...。
胸中にある疑念が渦巻き始める。
あの時から変だと思っていた。
そういうことだったのか。
空を泳がせていた視線を能條に合わせると、「どうしました?」と訊いてくる。
「あの...」
俊哉はまずこう切り出す。
「今日、たまたま食事に誘われて、たまたまレストランが閉まってて、だから急遽、あなたが手料理を振る舞ってくれることになった。でも、あなたはさっきこう言いました。パスタが今夜に間に合うかはギリギリだった、と」
能條は薄い笑みを浮かべたまま、うなずく。
「まるで、今日に間に合わせるために準備していたみたいな言い方ですよね。もし、準備していたのなら、今夜、俺を食事に誘ったこともたまたまじゃない」
黙ったままの能條に、俊哉は胸中にあるこの疑念をぶつける。
「一週間前のファミレスで、あなたは俺がイタリアン好きだと決めつけるような発言をしていました。変だと思ったんですよね。でも、こう考えると説明がつきます。隣の席にいたあなたは俺と聡の会話を盗み聞き...とは言いませんが、会話が耳に入った。俺がイタリアン好きだと言ったことも、聡が一週間後の今日、祖母と食事に行くことも聞いてたんですね。だから、今夜、俺が夕飯をひとりで済ませることは予想できた。子連れの俺を食事に誘う絶好のタイミングだった。実際、いつものように聡が家で待ってれば、誘いは断ってましたから。たまたまじゃなかった。あなたは一週間前のあの日から、今夜のことを用意周到に準備していたんですね」
能條はイタズラが見つかった子供のようにニヤっと笑うと、「その通りです」とあっさりと認めた。
「パスタ麺は本当にギリギリ間に合ったんですよ。だからつい口を滑らせてしまった。いやあ、たまたま料理を振る舞うにしてはちょっと準備万端すぎましたね。あなたにかっこいいところを見せたくて、張り切りすぎちゃいました。ははは」
「ははは、じゃないですよ。行きつけにしている店なら、改装中で閉まっていることも事前に知ることはできたはずです。俺を騙して、最初から部屋に連れ込む計画だったんですね。あなたはいったいなにが目的なんですか」
笑って誤魔化そうとする能條に核心を突き付ける。
「食事に誘って部屋に招き入れる理由なんかひとつしかない。あなたも分かってるでしょう」
能條は意地悪くそう切り返してきた。
もちろん、もう分かっている。
この男の魂胆には気付いている。
「能條さん。あなたのそういう言動をこれまで冗談だと受け流してきました。が、ここではっきりさせましょう。あなたの本心を聞かせてください」
能條の口からはっきりと聞かなければ、こっちもはっきりと気持ちを伝えることができない。
「そうですね。ここではっきりさせましょう」
能條はそう言うと、咳払いをして、姿勢を正す。

「ファミレスで出会った時から、あなたのことを好きになりました。私とお付き合いしてください」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

この変態、規格外につき。

perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。 理由は山ほどある。 高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。 身長も俺より一回り高くて、しかも―― 俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ! ……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。 ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。 坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!

処理中です...