三国第一の戦神・呂布は近未来に転生して女になってしまった!!

kakuちゃん

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第十章 曹操

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 陳嬋の部屋では、呂布と貂蝉が窓辺のソファに座って話し込んでいる。
「実はわたくし、肉体を持たぬ魂の状態なのです。ところがなぜか、この陳嬋さんの身体の中に宿ることに……」
 呂布の胸に抱かれた貂蝉が、柔らかな声で打ち明ける。
「そなた、誰に殺されたのだ? やはり曹操か!」
 貂蝉は首を横に振る。
「もう過ぎたことですから。そのことは今度ゆっくりお話しいたします」
「では、陳嬋の中でどうやって目覚めたのだ?」
 貂蝉は顔をあげて呂布の顔をのぞき込むと、目を輝かせる。
「あなたが陳嬋の中に入って来られた時に、わたくしも突然目覚めたのです」
 途端に呂布の眼光が鋭くなる。
「つまり、そなたと俺は、ひとつの身体を共有しているということになるが……」
 そう言って少し考え込む。
「だが、なぜ俺はそなたの存在に気づかなかったのだろうか?」
 貂蝉は、ひとつため息をつき首をかしげる。
「分かりません。わたくしには外で起きていることはすべて見えていますが、自分の意思で身体を動かすことができないのです」
「ということは、そなたは俺がこうして自分の身体に戻ってから、陳嬋の身体を動かせるようになったということだな」
 貂蝉は「はい」と言ってうなずき、「でもこの状態は、長くは続かないような気がします」と言い添えた。
「安心せよ。必ず俺がそなたの魂を元の身体に戻してやる」
 窓の外は、空が白み始めていた。昨夜の暗雲が嘘のように消え去り、雨もやんだ。
「蝉よ……」
 呂布に熱いまなざしを向けられ、貂蝉は困ったような表情を浮かべる。
「温侯、実は……」
「なんだ?」
 貂蝉は少し思案していたが「いいえ、なんでもありません……」と言って首を振った。
 こうして一晩中、語りあったふたりは、いつしか眠りに落ちていった。


 窓からまぶしい朝の光がさし込む。
 ねぼけまなこの呂布は、口の中で「蝉…」とつぶやき、目を開けた。
「……?」
 眠っている自分の顔が見える。ほどなくして陳嬋も目覚め、ふたりは顔を見あわせる。
「イヤーーーー!」
 陳嬋は身体を起こして呂布を突き飛ばした。床に転がり落ちた呂布は、戸惑いつつ身体を触って確認する。
「また入れ替わった……。一体なぜ……」
 甲冑を身につけ「必ずや曹操を殺す!」と天に誓ったのは、ほんの数時間前のことだ。その誓いを破れば女の身体に戻る覚悟があるとも宣言した。それなのにまた、陳嬋の身体の中に舞い戻っているではないか。
「まさか俺は早くもその誓いに背き、罰を受けたということなのか?」
 しばらく、ひとりで思い悩んでいた呂布は、突然、何かを思いだしたように陳嬋の顔をのぞき込む。
「蝉よ、身体は大丈夫なのか?」
 優しく問う呂布に、陳嬋は眉をつり上げる。
「なれなれしく呼ばないで! 気持ち悪い!」
 言われて、はっとする。自分が陳嬋の身体の中にいるということは、もう貂蝉は消えてしまったのかもしれない。
「蝉がいなくなった……」
 呂布は絶望に打ちひしがれた。
 何を思ったのか、呂布がいきなり陳嬋の両肩をつかみ激しく揺らし始める。
「お前は蝉ではない! 俺の蝉をどこへやった?」
「俺の嬋って……。ていうか私の身体よ。あなたが私の身体の中にいるんだから……分かるでしょ?」
 言われて呂布は身体に視線を落とす。
「そうか、そうだった。蝉はここにいる。俺の中に……」
「ちょっと……」
 いとおしそうに自分の身体を抱きしめる呂布を、陳嬋がにらみつける。
「アイク、ジェイソン、早く来て! 呂布が私の身体にセクハラしてる!」
「嬋ちゃん!」
 ドアの隙間から中のようすをうかがっていたアイクが勢いよくドアを押し開けた。しかし反動で戻ってきたドアに激突し、後ろに飛ばされてしまう。ジェイソンがアイクを助け起こす。そっとドアを開けると、怒りで顔を真っ赤にした陳嬋と、自分の身体をなで回している呂布がいる。
「社長、すぐ会社に行きましょう。電話が鳴りやまないそうです」
 ジェイソンは、呂布をとめようともせず、焦った表情で陳嬋に告げる。
「どうしてそんなことに? 休んだのはたった1日よ?」
「今朝、株価が寄り付きでストップ安に!」
 陳嬋の表情が引き締まる。
「すぐ行く」
 ジェイソンがあらかじめ用意していたバッグを差し出す。
「こちら、手配しておきました。変装用のマスクとスマートウォッチです」
 陳嬋は、まだ自分の身体をなで回している呂布を廊下に押し出す。
「この人を着替えさせて。今日は大役を果たしてもらわないと」
「え? 着替えですか? 私に服を選べと?」
「アイクに決まってるでしょ!」
 言って陳嬋はバタンとドアを閉めた。


 アイクは呂布を頭のてっぺんから足の先まで眺め回す。
「嬋ちゃん、こっちよ。ジェイソンは車を回しておいて」
 くるりと方向転換をして腰を振りながら歩き始めたアイクは、呂布がついて来ていなことに気づいて振り向く。呂布はまだその場でブツブツいいながら身体をなでていた。
「しょうがないわね」
 アイクは呂布に歩み寄ると、軽々とお姫様抱っこをして廊下を進む。
「貴様、なよなよしてるくせに、なんでそんなに力が強いんだ!」
「おしとやかではあるけど、男の子だもの」
 アイクは得意げに答える。
「おろせ! 俺は自分で歩ける!」
 呂布は手足をバタバタさせるが、アイクは何食わぬ顔で階段をあがっていく。


 ジェイソンは玄関前に車を横づけにした。そばには立派な噴水があり、勢いよく水を噴きあげている。
 最先端のファッションに身を包んだ呂布の背後には、変装用のマスクをつけたスーツ姿の陳嬋がひかえており、もはや本物のボディーガードにしか見えない。アイクもスーツで決めている。ゴージャスな3人が並ぶと、なかなかの迫力である。中身が分かっているジェイソンでさえ、うっとりと呂布に見とれてしまう。
 全員が車に乗り込み、陳嬋の「出して」の声でジェイソンがアクセルを踏んだ。
 車は、海岸線をひた走る。窓から吹き込む磯の香りを乗せた海風が心地いい。
「お互いの身体を取り戻すためにも、まずは今日を乗り越えよう」
 陳嬋が呂布に言い聞かせる。
「ああ、俺に任せておけ」
 呂布は自信ありげに胸をたたいてみせた。


 小一時間ほど車を走らせ、ジェイソンは大漢グループの本社ビルの前で車を停めた。すでに社員が2列に並び、花道を作っていた。
 車を降りた呂布は、陳嬋に教えられたとおり、堂々と花道の真ん中を進んでビルに入る。その足でエレベーターに乗り、会議室へと向かった。
 会議室のドアが開くと、大きなテーブルの周りにずらりと取締役らが座っている。その奥の中央に座る中年男性に気づいた呂布が大声で叫んだ。
「現れたな曹操! 覚悟しろ!」
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