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47・花ことば、素敵な言葉です。

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「お嬢、開けて下さい」

 リリアの、とても綺麗な艶めいた真珠色の爪に彩られた、スッと伸びた細く長い指が、そっと机の上の封筒を、私に向けて押し返してきました。

(爪の先まで、隙が無くきれいなんだよな~)
 
 頬を染め、恥じらいながらも、こうなったらテコでも譲らないのは、長い付き合いですから、良く知っています。
 その、あどけない微笑みが、何だかとてもいじらしくなってしまい、毒気を抜かれたというか、昨日、エドアルド商会の帰りの馬車で感じた『胸の奥に隠れていて気付かずにいた、ドス黒い物』も、何だか微妙に薄らいでしまった気がします。

 私は封筒を、ただ黙って頷いて受け取り、一度押し抱いてから、ペーパーナイフを手にして、慎重に、慎重に、封蝋ふうろうを剥がしました。
 封を開けると、甘い蜜の様な香りが匂い立ってきて、中には羊皮紙ではなく、東方の国の、珍しい『紙』が、小さく折りたたまれて入っていました。
 これもまた、慎重に、慎重に、取り出そうとすると、一緒に小さな、それはそれは可愛らしい押し花も入っていたから驚きです。
 
「ぷっ!」

 エドがどんな顔して、この押し花を選んで、封筒の中に入れたのかと想像したら、吹き出すのも無理のない話です。
 リリアが怪訝けげんな顔をして、小首を傾げます。

「リリア、手を出して」

 リリアは何をされるのかと、こわごわ手を差し出しますが、その手首をしっかりと掴んで引き寄せ、押し花を、そっと、手のひらに乗せてあげました。
 緊張していたのでしょうか、少し汗ばんで、しっとりとした手の平に乗せた押し花は、心なしか精気を取り戻し、色付いたかのように見えました。

「……ん゛?」

 リリアは何を乗せられたのかと、空いた手で何度と無く、瞼をこすりつけました。

(眼が真ん丸だ―!)

 そのまま摘まみ上げ、陽にかざして、まじろぎもせず、食い入るように見詰めながら、心ここにあらず、といった様子です。

「……お嬢、これ……何という名の花でしょう?」

 手にした押し花をクルクル回して、めつすがめつ、随分と長い間見ていた挙句に出て来た台詞が、また、何とも乙女ではありませんか。
 押し花に気を取られている場合じゃないでしょうが。
『ふんす!』と、荒い鼻息一つで、その押し花を吹き飛ばしてやろうとしましたが、かろうじて思いとどまりました。
 言われてみれば、確かに見た事の無い花です。

(はっは~ん、『花ことば』を知りたいって事ね!)

 リリアが乙女すぎです!
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