The Eternity of Realms: Causal Nexus （永遠の領域: 因果の結節）

序章

第9話 - 覚醒の代償

序章: 第9話 - 覚醒の代償

ライナスが試練を乗り越え、新たな力を得たその瞬間、彼の体内に強烈な違和感が走った。体は力を得たというよりも、何か重要なものを失ったように感じた。石碑の光が徐々に消え、再び元の静寂が戻ると、彼は膝をついてその場に倒れこんだ。

「これは…一体…？」

ライナスはかすかな痛みを感じながらも、体が思うように動かないことに気づいた。石碑が与えた力は確かに巨大だったが、それに伴う代償があることを理解し始めた。セレナが静かに彼の側に近づき、その顔には憂いが浮かんでいた。

「ライナス、力を得るということは、必ずしも喜ばしいことではありません。この力を手に入れるために、あなたは何かを犠牲にしたのです。」

「犠牲…？僕は何を失ったというんですか？」

彼の問いかけに対して、セレナは答える代わりに、彼の手をそっと取った。その瞬間、ライナスの心に何かが押し寄せてきた。彼の記憶の中にあるはずの、過去の出来事や、懐かしい人々の顔が次々と霞んでいく感覚だった。

「これは…まさか…」

ライナスは目を見開き、記憶が自分から離れていくことに恐怖を覚えた。それはただの記憶の喪失ではなかった。彼の中で大切にしていた、心の支えとなっていた感情までもが消え去ろうとしていた。

「力を手に入れるためには、代償を払わなければならない。それがこの世界の掟です。あなたは今、この世界の運命に関与する力を得ました。しかし、そのために過去の一部を失ったのです。」

セレナの言葉がライナスの胸に重くのしかかる。彼は新たな力を手に入れたことに安堵していたが、同時にその代償が予想以上に大きいことを知り、困惑していた。

「僕は…どうすれば…」

彼は力なく呟いたが、セレナは彼の肩に手を置き、優しく微笑んだ。

「失ったものは二度と戻りませんが、その代わりに新たな道が開かれることでしょう。この力は、あなたが望む未来を切り開くためのものです。過去を振り返るのではなく、前を向いて進むことが大切です。」

ライナスはその言葉に少しだけ慰められたが、まだ心の中で整理がつかない部分があった。しかし、彼はこの状況を受け入れるしかなかった。彼の中に湧き上がる力を感じながら、それをどう使うべきかを考え始めた。

「僕は…前に進むべきなんですね。失ったものを嘆くのではなく、この力を使って何ができるかを考えるべきだと。」

セレナは静かに頷いた。彼女の瞳には、ライナスが選ぶべき道を見据えているかのような強い意志が宿っていた。

「そうです、ライナス。あなたにはまだ多くの試練が待ち受けています。しかし、この力を使えば、それらを乗り越えることができるはずです。」

ライナスは立ち上がり、再び石碑に目を向けた。その石碑は今や完全に沈黙しており、ただの石の塊に見えた。しかし、その中にはまだ無限の可能性が眠っているように感じられた。

「ありがとう、セレナ。僕はこの力を…自分の使命のために使います。」

彼は決意を新たにし、石碑から目を離した。彼の心には、新たな力と共に、これからの冒険に対する覚悟が宿っていた。そして、彼の背中を押すように、セレナは静かに彼を見送った。

「ライナス、あなたの未来に光が満ち溢れますように。」

その言葉を胸に刻み、ライナスは新たな一歩を踏み出した。彼の心には、未来に対する期待と不安が入り混じっていたが、何よりも強く感じたのは、自分が進むべき道を見つけたという確信だった。