鬼の花嫁

炭田おと

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5_新しい職場に飛び込みます!

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 次の日からさっそく、私は御政堂で生きていく術を学ぶべく、女中としての活動をはじめていた。

「・・・・よし」

 こぶしを強く握ることで、自分に気合を入れて、私は桜の廓の門をくぐった。


 大奥は大きく、三つの区画に分かれている。


 一つが、広座こうざの宮と呼ばれる玄関口にある大きな宮で、その裏にある片方の宮が、御主の奥様が暮らしている梅の廓、そして最後の一つが、閻魔の婚礼という儀式のためだけに用意された、桜の廓だ。

 この三つは塀で区切られていて、通行可能な門はそれぞれ一つずつ、桜の廓と梅の廓の門は、広座の奥にあり、広座を通らなければ出ることができない。そしてどの門も、衛門部省から派遣された女衛士が守っていた。

 桜の廓は数十年に一度、花嫁を向かい入れる時だけ開かれる。

 そして桜の廓だけ、御政堂という城のように堅牢な場所にありながら、さらに二重の壁に囲われている。

 桜の廓が開かれた後は、門の前には常に、門番が立つことになる。鬼廻家の者ですら、簡単には出入りできない場所だ。

 桜の廓の中には、これでもかというほど桜の木が植えられ、春になると大奥でその場所だけ、桃色に染められると言われている。

 ――――実際、桜の門の内部には、色鮮やかな世界が広がっていた。

 その桃色の世界の中を、目が回るような忙しさで、桃色の着物をきた女性達が走りまわっている。

 花嫁の世話をするために選ばれた、桜女中さくらじょちゅう達だ。それを取り仕切る女性を桜女中取締さくらじょちゅうとりしまりと言って、御政堂の中で、特に優秀な女性達が選ばれると聞いている。

 私は今日から、この桜の廓で働く。

 だけど、経験がない私が、桜女中になれるわけじゃない。


 ―――――桜の廓には、三種類の女がいる。


 まず、この場所で頂点に立っているのは、閻魔の花嫁だ。

 次に、花嫁のお世話をする桜女中、そして、女中がやりたがらない雑務をする、下女。

 桜の廓で働く下女のことを、桜下女なんて呼ぶそうだけれど、扱いは、他の下女と変わらなかった。


「あ、あの!」

 私は勇気を振り絞って、自分の上司になる桜女中に声をかけた。

「はじめまして。今日からここで働くことになった下女の、御蔦みしま逸禾いちかと言います。よろしくお願いします」

 失礼がないよう、深く頭を下げた。

 御蔦逸禾というのは、以前、私の世話をしてくれていた女中の名前だ。御政堂から抜け出すときに使う偽名として、名前を使うことを許してくれたから、外ではその名前を使うようにしていた。

 今は嫁いで、遠くの土地にいる。

「・・・・あなたが千代様が言っていた、新人の桜下女ね」

 家事を覚えるためと千代を説得して、桜下女になれるよう、口利きしてもらっていた。

 彼女達は私を取り囲み、値踏みするように、私を頭から爪先まで、ねっとりと見つめる。

「ふぅん・・・・なんか冴えない感じね」

「・・・・・・・・」

 先代御主の娘の穏葉とは、ばれなかった。もうずっと公式の場に出ていないし、出たとしても布で顔を隠していたから、千代や愛弥以外に、私の顔を覚えている人はいないだろう。

「一体、どんな手を使って千代様に取り入ったのか知らないけど・・・・下女の仕事は、楽なものじゃないわよ。それはわかってるわね?」

「精一杯、勤めます」

 桜女中は、鼻を鳴らす。

「いいわ。それじゃ、さっさと庭を掃いて。その木のまわりを、一枚の落ち葉もないように、綺麗にするのよ」

「はい!」

 私は箒を受けとって、与えられた持ち場に向かった。

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