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2_殺人事件
しおりを挟む(これから、どうしよう・・・・)
家も財産も、結婚相手も失った。しかも結婚を先延ばしにされていたから、婚期も逃している。――――宙ぶらりんの状態で、先行きが見えない。
「本当にひどい人達だわ。本当なら、抗議がしたいところだけれど・・・・」
ポーリンさんは、溜息を零す。
「・・・・ごめんなさいね。力になれなくて」
「いえ、大丈夫です」
叔父はともかく、ベンジャミンにたいしては、約束を反故にされているのだから、抗議をするなり、賠償を求めるなり、できることはあったと思う。
でも、そうしなかった。ベンジャミンの父親と、アデレードの父親は、マテオおじさんの上役だったから、おじさんに迷惑をかけてしまうかもしれないからだ。
「そ、そういえば、あの事件はどうなったのかしら? まだ、解決していないわよねえ」
私が落ち込んでいるのを見て、空気を変えてくれようとしたのか、ポーリンさんがそう言った。
「あの事件?」
「リモージュ王宮の近くで、殺人事件があったじゃない。事件が起こってから、もう二か月半が過ぎたのに、いまだにその話題で持ちきりなのよ」
「殺人事件?」
意表を突かれ、一瞬だけ、憂鬱な気持ちを忘れた。
この国で、もっとも警備が厳重な城、その城の付近で殺人事件なんて、とんでもない話だ。
「あら、知らなかったの?」
「ルシヨンは、リモージュから離れていますから、リモージュの情報はほとんど入ってきません。それで、誰が殺されたんです?」
「――――オセアンヌ・ド・アンティーブ辺境伯夫人よ」
私は息を呑む。
――――アンティーブ辺境伯夫人である、オセアンヌ・ド・アンティーブ様は、リモージュでは知らない人がいないほど、有名な女性だ。
夫の死後、財政難に陥った領地を、見事な手腕で立て直し、社交界で確固たる地位を築いた女傑として、広く知られていた。
「犯人は捕まったんですか?」
「いえ、まだ捕まってないそうよ」
「王宮の近くで殺されたのに?」
「夫人の死体が発見されるまで、時間がかかったそうだからね。その間に犯人は逃走しちゃったみたい」
「・・・・・・・・」
「そういえば、カロルさん、一つ頼みごとをしていいかしら?」
「頼みごとですか?」
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なんだ、そんなことかと私は安堵した。
「頼めるかしら?」
「もちろんです」
「ありがとう。・・・・荷物の整理もまだなのに、ごめんなさいね」
「構いませんよ。今は、別のことをしたい気分ですから」
どうせ部屋にいても、片づけをする気分になれない。
ポーリンさんもそれを見越して、私の気をまぎらわせるために、頼みごとをしてくれたのだろう。
「王宮で働いている友達がいるそうね。ゆっくり話してくるといいわ」
その証拠に、ポーリンさんはそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
私は書類を受けとると、すぐさま出発した。
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