捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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30_予想外の結末

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 ――――呆気ない幕引きだったと思う。


 バルビエさんが、亡くなった。彼の死で、この件は終幕しゅうまくとなるようだ。

 だけど私は、いまいち納得できずにいた。動機はある程度想像できるとはいえ、最後にバルビエさんから、事件の詳細を聞きたかったという思いがある。

 そうすれば、私も、この事件が終わったという実感が持てたはず。


 ――――とにもかくにも、私の役目は終わったようだ。


 ルシヨンの遺産相続の問題も解決したから、もう、陛下と会うこともなくなるだろう。

 そう思うと、一抹の寂しさを覚えた。




    ※  ※  ※



 翌日、私は最後の挨拶をするために、陛下に会いに行った。

「よく来た、カロル嬢」

 陛下は庭園の離宮で、私を出迎えてくれた。

「あらためて、お礼を言わせてください、陛下。陛下のおかげで、ルシヨンの財産を取り戻すことができました」

「礼を言うべきは、俺のほうだ。君のおかげで、犯人を見つけることができた。感謝する」

「いえ・・・・」

「・・・・この結末に、納得できないか?」

 陛下に考えていることを言い当てられて、ハッとした。

「・・・・少し、納得できていません。犯人の自白が得られれば、事件が完全に終わったと思うことができたのかもしれませんが。――――それに、疑問も残っています」

 陛下は、真剣な顔になる。

「――――オセアンヌを殺したのが、バルビエではない、と?」

「・・・・今回の事件、内通者がいたことは間違いありません。クベード卿は、セシールさんが内通者で間違いないと考えているようですが、彼女は長くアンティーブ辺境伯夫人に仕えていた人です。いくらセシールさんがバルビエさんと恋仲だったからと言って、殺人に加担するでしょうか?」

「・・・・確かに、セシールの件は、俺も気になっていた。セシールがバルビエの恋人だったのだとしても、長年の恩人であるオセアンヌの殺害に加担するとは、とても思えない」

 陛下もその点は、気になっていたようだった。

「疑問は他にもある。ミイラを作るには、南の大陸からミイラ職人を連れてくる必要があるが、バルビエは金銭的に余裕がなかったようだ。そんな男に、南の大陸から職人を連れてきて、匿いながらミイラを作らせることができるだろうか?」

「ええ、その点も解決できないままです。それに、辺境伯夫人はずいぶん前に、錬金術から手を引いたと言っていました。バルビエさんが夫人を恨んでいたのなら、どうして直後に命を狙わずに、ずいぶん後になってから、襲ったんでしょうか?」

「・・・・確かに、その点も奇妙だ」


(・・・・やっぱり、小さな疑問を無視すべきじゃない)


 陛下と話をして、そう確信することができた。


「陛下。――――アンティーブに行くことを、許可してもらえないでしょうか?」


 私がそう言うと、陛下は目を見開く。

「アンティーブに?」

「ええ。バルビエさんから詳しい話を聞けなくなった今、なにか手がかりを得るには、アンティーブ辺境伯夫人やセシールさんのことを調べるしかないと思うんです」

 ふむ、と陛下は顎に手を当てる。

「・・・・君なら、いつかそう言いだす気がしていた。だが、領主になったばかりなのに、大丈夫なのか?」

「今は、叔父が仕事を任せていた人物が、領地のことを取りしきってくれています。正式な領主になれば、忙しくなって遠出ができなくなりますから、行くなら今しかありません」


 正式な領主に着任したら、ルシヨンの発展のために、牧畜の改革に取り組みたいと思っていた。

 ルシヨンは時代に取り残された土地なので、古くからある非効率な牧畜方法を、今でも続けている。そのせいで市場を他の領地に奪われ、どんどん収入が減っていた。

 私はそこに、新しい方法を取り入れたいと思っている。そのためにずっと、勉強してきたのだ。

 でもそうすると領地から身動きが取れなくなって、遠出をする機会はなくなるだろう。


 だから正式に領主になる前に、最後にこの事件に決着をつけておきたかった。


「君の気持はわかった。・・・・だが、少し待ってくれ。今は、ある法案を巡って、大臣達と話し合わなければならない」

「え? まさか、陛下も一緒に来るつもりなんですか?」

「無論、そのつもりだ。・・・・まさか、一人で行くつもりだったのか?」

 陛下の表情が、険しくなる。


(この国王様は、すぐに自分で動こうとするんだから・・・・)


 陛下と一緒に遠出をするとなると、きっと護衛や付き人で大所帯になって、出発が遅れてしまうだろう。


「陛下こそ、お忙しいのでは?」

 私よりも陛下のほうが多忙で、仕事漬けの日々のはずだ。なのにその合間に、私と一緒に事件の調査をしていたのだから、凄い人だと思う。

「それぐらいの時間は作れる」

(・・・・やっぱり、遠回しに止めても聞いてくれない・・・・)

 陛下のことだから、私が遠回しに止めていることに気づきながら、あえて気づかないふりをしているのだろう。

(・・・・私が先に行って、調査をしておくしかない)

 私が先にアンティーブに入り、調査をすませておけば、陛下の手間も省けるだろう。


「陛下、では私は先にアンティーブに行って、調査をしておきます」


 すると陛下の眉間に刻まれた皺が、深くなった。


「・・・・どうしても一人で行きたいようだな」

「違います。で、でも、ほら、私にも予定があるので」

「・・・・・・・・」

 先に現地に行くという、ただそれだけのことなのに、どうして陛下は怒っているのか。理由がわからなかった。

「危険だとは思わないのか? 君の推測が正しいのなら、まだ真犯人は捕まっていないことになる。真犯人が、君が探りを入れていることに気づけば、君を殺そうとするかもしれないんだぞ?」

「慎重に動きます」

「・・・・頑固だな」


 陛下は溜息を零した。


「・・・・わかった。先に、アンティーブに行ってくれ。俺も後から追いかける」

「はい! それでは失礼します」

 陛下の言質をもらい、私は一礼した。

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