捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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31_アンティーブ領ロシェル

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 馬車の手配や旅行の準備などで、なんだかんだ一日を費やしてしまい、ようやく翌日になって、私はアンティーブ領に向かって出発していた。

 アンティーブ領に到着するまで、数日間、私はずっと、馬車に揺られていなければならなかった。退屈な時間を、私は外の景色を眺めることで、まぎらわせた。


 ――――アンティーブ領に入って数日、私はようやく、領主館りょうしゅやかたがある港町ロシェルに到着する。


 アンティーブ辺境伯の領主館は、ロシェルの中心にある。

 その城はもう数百年も前から、代々、辺境伯の居城としてそこにあり、町は城下町として発展したようだった。


「ようこそいらっしゃいました」

 領主館に到着すると、大勢の使用人が門の前で私を出迎えてくれた。


「カロル・ド・ルシヨン様ですね。お待ちしておりました」

「ど、どうも・・・・」

「鞄をこちらへ」

 すかさず前に出てきた使用人が、私の旅行鞄を持ってくれた。

「私がお部屋に案内させてもらいます」

 別の使用人が、私を部屋に案内してくれると言う。

「あ、ありがとうございます」

 その歓待ぶりに戸惑いながら、私は領主館の門をくぐった。



    ※  ※  ※



「どうして、私がここに来ることを知っていたんですか?」


 話を聞くだけ、と思っていたから、アンティーブ領にある宿屋に部屋を取っただけで、辺境伯夫人の関係者に手紙を送ることはしなかった。

 だからまるで客人のような手厚い歓迎かんたいには、戸惑わずにいられない。

「今朝がた、陛下の使者を名乗るお方がおいでになられ、その方から、カロル様のお話を伺いました」

「陛下の使者?」

「事件の事後処理のために、ここにいらっしゃったんですよね? 領主様から、客人としてもてなすようにと賜っておりますので」

「・・・・・・・・」

 なんだか、大事になっているようだ。

「お部屋を用意しております。こちらへ」

 部屋まで用意してもらっているらしい。断るのも悪い気がして、私は好意に甘えることにした。


「アンティーブは、豊かなんですね」

 アンティーブの港町にも立ち寄ったけれど、とても賑わっていた。ルシヨンとは、大違いだ。


「ええ、アンティーブは今、海洋貿易で潤っています。東や、南の大陸の交易で、賑わうようになりました。辺境伯も船を所有していて、香辛料などを取引しております。先代の旦那様や、夫人自ら、南の大陸におもむかれることもありましたよ」

「先代の辺境伯が、自ら南の大陸に行ったんですか?」

「ええ。実際に行ってみなければ、わからないこともあると仰っていました。夫人も肝が据わったお方なので、先代の旦那様に同行し、商人達と直接交渉することもあったと聞いています。ゼレールには会ったそうですね。彼も旦那様に同行して、南の大陸に渡っていましたよ」

 屋敷の中には、南の大陸からやってきたのか、浅黒い肌の人々もいた。彼らも他の使用人達と同じように、燕尾服を着ている。

「彼らは、南の大陸からやってきた人達なんですね」

「ええ、親に売られて、奴隷として働かされていた者達です。国政が安定せず、多くの者達が職を失って飢えていたため、夫人が何人か連れてきて、使用人として雇いました」

 南の大陸から連れてこられた人は、他の地方では奴隷として扱われることも珍しくない。

 だけどここで働いている人達は、顔色もよくて、綺麗な燕尾服も与えられ、ディエレシスの他の人々と、同じ待遇を受けているようだった。

「アンティーブの商人は、南の大陸にも船を出しているんですか?」

「ええ、東の大陸にも向かいます。別の大陸から仕入れる香辛料は、高く売れますからね」


(・・・・いいなあ)

 羨ましいと思ってしまった。

 私の領地は山に囲まれた内陸部だから、海洋貿易でお金を稼ぐことができない。もし港を一つでも持っていたら、貿易できないか模索して、うまくいけば領地を豊かにすることもできるのに、と悔しく思う。


「それで、我々に話を聞きたいということでしたが、一体、どのようなことでしょうか?」

 あらためて、聞かれた。

「バルビエさんのことを調べています。確か、工房を与えられていたんですよね?」

「ええ、そうです。二年ぐらい前まで、数人の錬金術師を雇っていて、バルビエはその一人でした。彼が働いていた工房がまだ残っているので、中を見てみますか?」

「え? まだ、残ってるんですか?」

 アンティーブ辺境伯夫人は、錬金術から手を引いたと聞いている。工房は、もう片付けられたのだろうと思っていた。

「最近まで、まだ使われていましたからね。すぐに向かいますか?」

「え、ええ・・・・」

「それでは、馬車を用意いたします。鞄は私がお部屋に運んでおきますので、カロル様は玄関ホールでお待ちください」

 使用人は一礼して、身を翻した。


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