捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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33_嘘と真実

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「ふう・・・・」

 夜、用意された部屋のソファに腰かけ、一息つく。


 陛下の手紙のおかげで、アンティーブ辺境伯の領主館の人々は、手厚く私をもてなしてくれた。あまりの歓待ぶりに、本当に申し訳ない気持ちになる。


 明かりが欲しかったので、枕もとの棚の燭台しょくだいに、マッチで火を灯した。温かみがある光が灯り、疲れた気持ちが安らいだ。


「失礼します」

 若い女性の使用人が入ってきて、ベッドメイクをしてくれた。

「それでは、ごゆっくりお休みください」

「ありがとうございます」


 彼女はそのまま出て行こうとしたけれど、なぜか戸口の前で立ち止まる。


「あの・・・・」

「はい?」

「・・・・奥様を殺害した犯人が、死んだと聞きました。それは本当ですか?」

 彼女の表情は、真剣そのものだった。

「ええ・・・・嫌疑をかけられていた人物は、潜伏先で首を吊って亡くなっていたそうです」

「そうですか・・・・」

 女性は肩から力を抜く。それから恥じるように、深く俯いた。

「すみません、使用人の分際で、お客様を煩わせてしまうなんて・・・・」

「いえ、構いません。・・・・どうして、犯人のことが知りたかったんですか?」

 彼女はより深く頭を下げてしまった。

「犯人、というよりは、セシールのことが知りたかったんです。仲が良かったですから」

「・・・・・・・・」

「セシールに容疑がかかっていると聞いて、苦しくて、苦しくて・・・・そのうえ、殺されてしまうなんて・・・・早く犯人が捕まって、セシールの無念が晴らされればいいと思っていました」

 彼女は唇を強く噛みしめる。

「・・・・いまだに、セシールが犯人と共謀していたなんて、信じられません」

 スカートの襞を強く握りしめ、立ち尽くしている彼女の姿は、痛々しく見えた。


「・・・・お名前を聞いてもいいですか?」

 そう言うと、彼女はようやく顔を上げてくれる。


「ブランカといいます」

「ブランカさん、バルビエさんのことは知ってたんですか?」

「何度か、顔を合わせたことはあります。若い女性なら誰にでも声をかける、軽薄な男だと思いました」

 ブランカさんはずばずばと、思ったことを素直に話してくれているようだ。その素直さに、好感を持った。

「セシールさんがバルビエさんと恋仲だったことは、知ってたんですか?」

「え?」


 するとブランカさんは、不思議そうな顔をする。


「何の話ですか?」

「とある方から、セシールさんがバルビエさんと親しかったと聞きました。・・・・違うんですか?」


「そんなはずありません。セシールが夢中になってたのは、ゼレール様です」


「え・・・・」

「二人とも立場がありましたから、まわりに関係を隠していました。でもセシールは、私にだけは打ち明けてくれたんです。相思相愛だと、セシールは嬉しそうに言ってました」


 混乱して、しばらく返事ができなかった。


  ――――クレモン・ゼレール。アンティーブ辺境伯夫人の補佐をしていた人物。


 でも彼が私に、セシールさんと恋仲だったのは、バルビエさんだと言ったのだ。


(・・・・どういうことなの? 本当にセシールさんと恋仲だったのは、バルビエさんじゃなくて、ゼレールさんだった?)


 ――――ゼレールさんの話と、食い違う。


(・・・・どちらが嘘を言っているの?)

 ブランカさんは、不思議そうに首を傾げている。


 そこで頭を過ぎったのが、陛下とミイラの入手方法について話し合った時のことだった。

 今の時代、重要となるのは、情報の伝達速度だ。辺境で暮らしていた私の耳に、アンティーブ辺境伯夫人が殺害されたという情報が入ってこなかったように、遠くの情報は、すぐには伝わってこない。

 さらに、詳しい内容や、正確な情報となると、入手すること自体が難しい。

(ゼレールさんが同じことをしようとしたのなら?)

 私は、アンティーブ辺境伯夫人にも、セシールさんにも直接会ったことはなく、二人がどんな人物なのかを、まったく知らなかった。だから、ゼレールさんの話を鵜呑みにするしかなかった。

 こうしてアンティーブまで足を運び、直接セシールさんの友人であるブランカさんに話を聞かなければ、セシールさんとバルビエさんが恋仲だったという話を、信じたままだっただろう。

(嘘をついたということは――――)


 不自然だと思っていた事柄が、繋がっていく。

 バルビエさんが、どうやって南の大陸からミイラ職人を連れてきたのか。

 そしてどうしてすぐに、ミイラを売り払って、高跳びしなかったのか。


(アンティーブ辺境伯は、南の大陸と交易していた)

 ミイラ職人を連れてくるには、船も用意しなければならない。

 でもゼレールさんなら、辺境伯や夫人に同行するという名目で、南の大陸に行くことができたのだ。


 ――――彼が、辺境伯には無断で、辺境伯の船に密輸品を隠していたのなら。ミイラ職人を、勝手に連れてきたのなら。あるいは、南の大陸から連れてきた人の中に、ミイラ職人がいたのかもしれない。


(――――もしかして真犯人は、ゼレールさんなの?)


「カロル様?」


 ブランカさんに声をかけられ、私は我に返った。


「顔色が悪いようですが、どうかなさいましたか?」

「い、いえ・・・・大丈夫です。少し疲れたようですね」

「すみません。お疲れなのに、長話に突き合わせてしまい・・・・」

「いえ、ブランカさんと話したおかげで、答えが見つかりました」

「答え?」

「・・・・確かなことがわかったら、その時にお伝えしますね」

 笑いかけると、ブランカさんの顔にも笑顔が戻った。

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