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34_真犯人の狙い
しおりを挟む(・・・・犯人がゼレールさんだとしたら、どうしてアンティーブ辺境伯夫人を殺したの?)
ブランカさんが去った後、ベットに腰かけて、私は考える。
アンティーブ辺境伯夫人を殺害した、動機はなんだろうか。
(ゼレールさんが辺境伯の船に、勝手に密輸品を乗せていたのなら・・・・辺境伯夫人がそのことを知ったら、きっと怒ったはず)
隠し部屋には、多くの密輸品があった。
信頼して、仕事を任していた補佐役が、自分達の目を盗み、密輸に手を染めたなんて知ったら、夫人は烈火のごとく怒っただろう。
知らずに、ディエレシスでは禁じられている薬草などの密輸に加担していたとなれば、辺境伯達も罰せられた恐れがあるのだ。
――――あの隠し部屋も、本当はゼレールさんが使っていて、バルビエさんは隠し部屋があること自体、知らなかったのかもしれない。
(・・・・どこまでが真実で、どこからが嘘なの?)
ゼレールさんから聞いた話のすべてが、疑わしく思えてくる。
「・・・・!」
その時、ノックの音が聞こえた。私はびくついて、固まってしまう。
「カロル様」
「コルデーロさん」
ほっとして、扉を開ける。
「夜分に申しわけありません。お伝えしなければならないことがありまして」
「何でしょう?」
「カデーナ卿と名乗るお方から、言伝を預かっております」
「カデーナ卿?」
カデーナ卿という名前をどこで聞いたのか、すぐには思い出せなかった。
しばらくしてそれが、陛下が名乗った偽名であることを思い出す。国王と名乗るわけにはいかないから、偽名を使ったのだろう。
「カデーナ卿は、昨日の夜にリモージュを発たれ、翌朝にはここに到着されるそうです」
「そうですか、よかった・・・・」
明日には、陛下がここに来てくれる。――――私は涙が出そうになるほど、安心していた。
「それから、昼間に、カロル様が興味を示されていたカップの産地がわかりました」
昼間、手に取ったカップのことを思い出す。
「あれは、ここで作られたものだそうです」
「え?」
「研究段階で作られた、試作品だということでした。錬金術の研究の中で、偶然、白磁を作りだせたそうなんです。それで夫人は、研究を錬金術から白磁のほうへ切り換え、ついに白磁製品を完成させたんだとか」
にこにこと笑うだけのコルデーロさんの態度から、彼がことの重大さに気づいていないことがわかった。
(白磁製品を自作できるのなら、大金が手に入るのに)
見栄えがいい白磁製品は貴族に人気があるため、高値で売買されている。
なのに、今のディエレシスでは白磁製品を自作できないため、東の大陸から仕入れなければならないのだ。
質の高い白磁製品を作ることができるのなら、東の大陸から仕入れる必要がなくなるどころか、アンティーブの一大産業となるはずだ。
となると、研究のために、カオリナイトなどの鉱物を仕入れていた理由がわかった。白磁の研究に使うためだったのだろう。
コルデーロさんは試作品と言ったけれど、あのレベルの試作品が作れるのなら、もう研究も完成間近だったはず。
「今でも、白磁製品を作っているんですか?」
「いえ、夫人が亡くなられ、ルゥセーブルも消えたので、研究は打ち切られました。研究を続行するかどうかは、今の辺境伯が判断されるでしょう。・・・・ですが、研究に関わったルゥセーブルが姿をくらませたこと、一部の研究結果が失われていることから、おそらく継続は難しいでしょう」
「・・・・・・・・」
「それでは、私はこれで」
「ありがとうございます」
コルデーロさんは一礼して、後ろに下がり、扉は閉められた。
(・・・・もしかして、これが殺害動機だったんじゃないの?)
きっと夫人は、この研究結果が長く、アンティーブを支える産業になると、確信していただろう。
でも、そんな夫人の隣で、ゼレールさんもまた、この研究成果さえあれば、大金持ちになれると考えたのではないだろうか。白磁の製造方法だけを持ち出して、別の工房で職人に大量生産させれば、ゼレールさんは大金持ちになれる。
昔からお金持ちが爵位を買い、貴族に成り上がる例は珍しくない。その気になれば、領地を手に入れることだってできるだろう。
アンティーブ辺境伯夫人は、研究成果を奪われることを恐れて、一部の者以外には白磁製品の研究をしていることを明かさなかった。
夫人さえ殺せば、研究成果を奪えると思ったのかもしれない。
(・・・・だとしたら、ルゥセーブルさんは、もしかして・・・・)
お金のために、辺境伯夫人や、恋人さえ殺したかもしれない人だ。研究に携わっていた錬金術師も、口封じのために殺していても、おかしくない。
(これからどうしよう・・・・)
これからのことを考える。
ゼレールさんが犯人である可能性があるとして、単独犯なのか、それとも仲間がいるのか。
――――他にも仲間がいるのだとしたら、領主館で働いている使用人の中には、ゼレールさんと結託している人がいるかもしれない。コルデーロさんやブランカさん以外の人間は、信用できないと思った。
(どうする? このことを、今すぐ陛下に伝えに行く?)
外を覗いても、窓ガラスにランプを持つ私の姿が映るばかりで、景色が見えなかった。それほどに窓の外は、深い沼のように暗い。
(・・・・今夜、ここを出ていくのは得策じゃない)
できれば、今すぐ屋敷を出たい。
だけどこの暗闇の中、外に出ていく勇気はなかった。迷ってしまったら、逆に陛下に迷惑をかけてしまうことになる。
(今日はここで夜を明かして、明日の朝すぐに、リモージュに戻ろう)
リモージュに戻ったら、陛下に人を貸してもらって、ゼレールさんの身辺を調べよう。何か、出てくるかもしれない。
今、ゼレールさんがいるのはリモージュだ。だから、ここで出くわすはずがない、怯える必要はないと自分に言い聞かせた。
――――それでも、不安を抑えられない。
私は、扉の脇に置かれていた棚を動かす。中に何も入っていなかった棚は軽く、簡単に動かすことができた。
私は棚を扉の前に移動すると、棚の中に鞄を押し込む。重たい鞄を押し込まれて、棚も重くなり、動かせなくなった。
――――これで扉は、簡単には開けられないはずだ。
(何も起こらないと思うけど・・・・念のためにいつでも出発できるように、服のままで寝よう)
寝衣(しんい)に着替えていたけれど、この服装のままでは逃げられないので、服を着直して、不安を抱えたまま、私はベッドに入った。
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