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35_最悪の展開
しおりを挟む不安で眠れないと思っていたけれど、睡魔には抗えなかったのか、気づけば眠りの中に沈んでいた。
「――――」
真夜中に、何かの物音を聞いた気がして、目が覚める。
微睡みを引き摺ったまま、私は耳を澄ましていた。
――――扉を、ノックする音が聞こえる。
「カロル様?」
「・・・・!」
聞き覚えのある声だった。私は勢いよく、起き上がる。
「目が覚めましたか?」
空耳だと思いたかったけれど、もう一度声を聞いて、確信した。
――――ゼレールさんの声だ。
「夜分にすみません」
「ぜ、ゼレールさん? どうしてここに?」
「あるお方から、言伝を預かりました。大事なお話ですので、扉を開けてください」
「・・・・・・・・」
心臓がばくばくと音を鳴らしている。
(どうしよう・・・・どうしよう!)
混乱したまま、私は靴を履き、扉に近づく。
「カロル様? どうか、扉を開けてください」
ゼレールさんは扉をノックし続けている。だんだんと短くなっていくノックの間隔から、焦りが伝わってきた。
「あ、開けることはできません。今、寝衣ですから・・・・少し、お待ちください」
ようやく、ノックの音が止まった。
「急いでください。すぐにここを、発たなければなりません」
「どうしてですか?」
「陛下が調査の打ち切りを決定し、カロル様にリモージュに戻るようにと命じました。カロル様を連れ戻すため、私が使者としてここに来たのです」
「・・・・・・・・」
何もかもが不自然だ。
陛下が私に言伝を頼んだのだとして、ゼレールさんを使者として送るはずがないし、コルデーロさんには偽名を名乗ったのに、ゼレールさんにだけ、自分が国王であることを明かすはずがない。
それに今、陛下はアンティーブを目指していて、到着は翌朝になるという話だった。
「カロル様! 急いでくださいね!」
「は、はい!」
――――逃げなければ、と思った。
(だけど、どこから?)
ここは二階で、唯一の扉は、ゼレールさんが塞いでいる。――――逃げ場がない。
私はコートを羽織って、窓を開ける。もう夏が近づいているのに、その瞬間に寒風が吹き込んできた。
暗闇に目が慣れているから、真下にある立木の輪郭がわかった。
窓から逃げることができる。だけどロープが必要だ。このまま飛び下りたら、骨折してしまう。
私は急いでベッドからシーツを剥ぎとると、それの端と端を繋いでいった。
あっという間に一本のロープができあがる。
「カロル様?」
「あ、あと少し! 後少し待ってください!」
重たい家具の脚に、シーツの先端をくくりつけ、もう一方を窓から投げた。それから私はシーツを握り、窓枠に足をかける。
シーツを命綱に窓の外に出る時、私は生きた心地がしなかった。だけど勇気を振り絞り、必死に下に降りていく。
「・・・・!」
扉を叩く音が、ひどくなる。扉を蹴破ろうとしていることがわかった。だけど棚を置いていたおかげで、扉を蹴破るのに、時間がかかっているようだ。
地面に足をつけた瞬間に、二階から大きな物音が降ってくる。
「いないぞ!」
そして聞こえたのは、ゼレールさんの声だ。
「ルゥセーブル!」
――――ルゥセーブル。工房で最後まで働いていた、錬金術師の名前が、クリスティアン・ルゥセーブルだったはず。
「カロル・ド・ルシヨンを捜せ! 捜すんだ!」
その声に背中を押されるように、私は走りだした。
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