捨てられた令嬢と錬金術とミイラ

炭田おと

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37_火の手

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 ブランカさんは私を、敷地の奥にある建物に連れて行ってくれた。

「中に入ってください」

「は、はい・・・・」

「新しい 厩舎きゅうしゃができて、この厩舎は使われなくなったので、誰も寄り付きません。長い間放置されていたから、大量の虫が湧くようになり、誰も近づきたがらないから、ここは安全ですよ」


 どうやらここは、以前は厩舎として使われていたようだった。馬房と思われる小さな区画がいくつもあって、藁が敷かれている。この建物はとても古いようなので、使われなくなって久しいのだろう。


「しばらく、ここに隠れていてください。私は、領主館の様子を見てきます」

「あ、ありがとうございます」

 ブランカさんは領主館のほうに走っていった。


 そして私は、一人残される。


 ――――しばらく待っていたけれど、ブランカさんが戻ってくる気配はなかった。何かの理由で、足止めされているのかもしれない。


(どうしよう・・・・どうしよう・・・・)

 高い塀で囲われているから、門が閉じられた今、この領主館からは出られない。敷地内を逃げ回っていても、いずれ捕まってしまうはず。

(脱出する方法を考えないと!)

 門を通ることは不可能だ。

(服を盗んで、使用人のふりをしたらどうだろう?)

 そんな作戦も考えてみたけれど、すぐに駄目だと気づいた。

 大勢の使用人が働いているとはいえ、同僚の顔は覚えているはず。顔を知らない人間が使用人の格好をしていたら、すぐに気づくだろう。

(雑多の中なら、まぎれることができるのに・・・・)


 ――――そこで、ある方法を思いついた。


(大勢の人を、領主館の中に呼び込むしかない・・・・)


 何か使えるものはないかと、私はポケットをまさぐった。

 すると、マッチ箱が出てくる。さっき、枕もとの燭台に火を灯した時に、ポケットに入れたまま、忘れていたようだ。


(これを使えば――――)


 私は震える手で、マッチ箱から、マッチ棒を取り出した。



     ※  ※  ※



 ――――窓の外は暗く、見つめているだけで、憂鬱な気分になった。


「陛下、こんなに急いで出発する必要はなかったのでは?」

 ぼんやりしていると、向かいに座っているアンベールに話しかけられた。

「別に、構わないだろう? 早く行きたかったから、そうしただけだ」

 アンティーブ領に続く道は、交易のために真っ直ぐ舗装されている。そのため、夜中でも馬車を走らせることができた。

「護衛など、一人で十分だったのに・・・・」

 するとアンベールは、顔を顰める。

「御冗談を。国王を、護衛を一人つけただけで、送りだせと? 陛下、いいかげんご自分がどれだけ重要な立場にいるのか、自覚してください」

「・・・・・・・・」

「この辺りには、山賊が出るという噂もあるんですよ」

「わかった、わかった。・・・・これだけ物々しい警護なんだ。山賊も一目見ただけで逃げ出すことだろう」

 アンベールのお小言にうんざりしながら、俺はまた窓の外に目を向けた。


 俺が乗っている馬車の前後は、護衛の兵士を詰め込んだ数台の馬車で守られている。早く出発したかったから、不要だと言ったのに、誰も耳を貸さず、結局物々しい警備になってしまった。


「・・・・カロル嬢が心配だ」

 呟くと、アンベールは笑う。

「心配せずとも、アンティーブ辺境伯の領主館は、目前です。すぐに、愛しい女性と再会できるでしょう」

 アンベールを睨みつけたが、彼は白々しい笑顔を浮かべたままだった。


 窓の外に、光が灯る。


「・・・・?」

 日が昇るには、まだ早すぎる時刻だ。

 そう思って、光を見つめ――――違うと気づいた。

「・・・・火だ」

「どうしたんですか?」

「馬車を止めろ!」

「陛下!」

 扉を開いて、馬車から飛び下りる。


 ――――空の一角が、赤く染まっている。


 火事だと一目でわかった。

 そして、赤くなっているのは、港町ロシェルがある方角だった。


「火事? どうして・・・・」

 アンベール達が驚いている隙に、馬車に繋がれていた馬から紐を外し、飛び乗った。


 そして馬を走らせ、アンベール達の隣を駆け抜ける。


「陛下、お一人で、どこへ――――お待ちください!」

 後ろから声が追ってきたが、止まらずに馬を走らせ続けた。


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