二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

文字の大きさ
3 / 152

2

しおりを挟む




 大陸の西端に位置し、広大な土地を要する大国、モルゲンレーテ。



 国土は縦に長く、北部は雪国で、温暖な気候の南部は、穀物の栽培に向いている。見渡す限りの麦畑は、まるで朝焼けの海のようで、周辺諸国はモルゲンレーテを、神に祝福された国と呼んでいた。


 そんなモルゲンレーテには、三大侯爵家と呼ばれる、強大な力を持った三つの家門がある。



 ーーーー質実剛健しつじつごうけんむねとする、アルムガルト。


 ーーーー建国に貢献し、代々軍部の幹部を輩出してきた、ヴュートリッヒ。


 ーーーー港をいくつも所有し、交易を活発化させ、モルゲンレーテの経済に寄与きよしたバウムガルトナー。



 三つの家門は、それぞれ家名と同じ名前の土地を、領地として持っている。



 私ーーーーアルテ・フォン・アルムガルトはその名のとおり、アルムガルト家の公爵令嬢として、この世に生を受けた。



 物心ついたころから、私は奇妙な違和感に付きまとわれていた。


 両親や家庭教師からモルゲンレーテという国名や、三大侯爵家の家門名を教わる前から、それらの名前に聞き覚えがあるように感じていた。それに直観という形で、未来で起こることを何となく予測できた。


(どこかで聞いた覚えがあるのよね・・・・)


 だけどどこで聞いたのか、肝心の部分が思い出せない。


(それにこの姿も・・・・)


 鏡に映る自分の顔や、緑色の瞳、青紫色の髪にも違和感をぬぐえなかった。貴族令嬢にふさわしい、人形のような顔だったけれど、鏡を見るたびに他人の顔だと感じてしまう。



 不可解な点は、そこだけじゃなかった。



 私には、別の国で、別の姿、別の名前で生きていた記憶があった。朧気ではっきりとしたものではなかったけれど、別人として、別の国で人生を歩んでいた時の記憶が、確かに頭の中に残っていたのだ。



 ーーーーそれらの謎の答えは、十歳の時、同じ年頃の貴族の令嬢達のティーパーティーに参加したことで、得られることになった。



「陛下は、誰を皇太子に選ばれるのかしら・・・・」


 同年代にしてはやや大人びているニーナが、その話題を口にしたのがきっかけだった。


「ニーナ!」


 ニーナの友達が、慌てた様子で彼女の口を塞ごうとする。


「何するのよ!」

「そういうことを軽々しく口にしちゃ駄目だってば! 口は禍の元だって、お父様から教わらなかったの?」



 モルゲンレーテには、五人の皇子がいる。



 ーーーー第一皇子のコルネリウス、第二皇子のヨルグ、第三皇子のダミアン、第四皇子のベルント、第五皇子のフィリップ。



 ある理由から、十四代目の皇帝ディートマル四世は結婚と離婚を繰り返したため、母親が違う皇太子候補が五人もいた。

 モルゲンレーテも皇位継承の順序が決まっていて、普通なら第一皇子が皇太子として立てられているはずだけれど、陛下は今までどの皇子にたいしても、立太子りったいしの儀礼を行っていない。母親が同じなのは第三皇子と第四皇子だけなので、皇太子の座を巡って、皇子達の母方の家門が、水面下で熾烈しれつな争いを繰り広げているそうだ。


「儀礼が遅れているだけで、やっぱり皇位継承の順序にのっとって、第一皇子のコルネリウス殿下が皇太子になるんじゃないかしら? 母方の家門も、他の皇子よりも強いもの」

「第一皇子を後継者にするつもりだったのなら、なぜすぐに、コルネリウス殿下を皇太子として立てなかったのかしら?」

「陛下が皇祖と同じ、銀髪と赤目の皇子を皇太子にすることを望んでいるからだそうよ」


 私が何気なく口を挟むと、令嬢達に注目されてしまった。


 モルゲンレーテを建国した初代皇帝には、すさまじい力があったという伝説がある。当時、西端の五つの王国を一つに統合したのは、彼の政治力と、召喚術しょうかんじゅつの力が大きかったと言い伝えられている。



 ーーーー召喚術。この世界ではあらゆる破壊魔法の頂点に君臨するのが、召喚術らしい。



 その中でもモルゲンレーテの皇祖の〝聖なる七剣〟と、彼の忠実なる騎士が使役した神獣〝ホワイトレディ〟は、大陸最強と称えられていた。


 モルゲンレーテでは、皇祖は神のように崇められている。皇祖は神に選ばれたとしか思えないような人物であり、そんな皇祖によって建国されたこの国も、神に祝福された国だと言えるからだ。伝説の真偽はさておき、モルゲンレーテの人達は伝説を信じて、中には固執と呼べるほどこだわる人もいた。



 ーーーー今現在、モルゲンレーテの統治者である十四代目の皇帝ディートマル四世も、そんな伝説に執着した一人だ。



 もう長い間、皇族から召喚術を使える者が生まれていないらしい。召喚術で伝説を作った皇祖の子孫が、召喚術を使えないという事実が、陛下には耐えがたかったようだ。

 だけど召喚術の才能は、いつ発現するかわからない。幼いころには発言せず、青年、成人後に発現することもある。子供時代には才能の有無を判別できないのだ。



 なので陛下は、皇祖と同じ特徴、銀髪に赤い瞳という外見にこだわった。銀髪赤目の子供に、皇位継承権をわたすことに固執し、望み通りの特徴を持った子供が生まれるまで、結婚と離婚を繰り返したというわけだ。



 モルゲンレーテは国教によって、夫婦の形態は一夫一妻いっぷいっさいと定められている。よって重婚は罪だ。その上、他に候補がいないなどの特殊なケースを除いて、婚外子に継承権が認められることはないので、陛下が目的を叶えるためには、新しい妃を迎えるしかなかった。



「アルテ嬢は、陛下がどの皇子を選ぶと考えてるの?」

「私は・・・・」


 ーーーーダミアン。頭には、第三皇子の名前が浮かんでいた。直観というよりは、いつもの違和感からくる確信に近かった。



「第三皇子のダミアン殿下が、皇太子に選ばれると思うわ」

「第三皇子? 確かに第三皇子だけ銀髪で赤い瞳だし、お母上のフックス侯爵家は南部の大貴族だけど、コルネリウス様のバルシュミーデ家の格の高さから比べると、見劣りしないかしら」

「大貴族って言っても、しょせんは南部の田舎者だし」


 令嬢達は、くすくすと笑う。幼いながらも、彼女らの頭には身分や貧富、出身地の格という、まわりから馬鹿にされないためのハードルのようなものが刻まれているようだった。


「関係ないと思う。ダミアン殿下のお母上の家門には陛下から、新しい爵位と土地が割り当てられるんじゃないかな。少しでも格が上がるように」


 そんな話をしたあと、すぐに話題は変わって、令嬢達はまた別の話題で盛り上がっていた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea
恋愛
────とうとうこの時が来たのね 決められた運命を受け入れて生きていくつもりだったのに──── 貧乏国の王女のウェンディ。 貧乏だろうと王女として生まれたからには、国のために生きるのが当たり前。 そう思って生きて来た。 そんなある日、婚約が決まったことを父親から告げられる。 その相手は女癖が悪いという噂の他国の王子。 複雑な思いを抱くもこれは国のためにも受け入れるべき結婚。断るなんて選択肢はない。 そう腹を括ったウェンディに対して、なぜか様子がおかしくなったのは、 護衛騎士のエリオット。 そんな彼の様子を不思議に思いながらも、婚約者となった王子、ヨナスとの対面を果たすウェンディ。 愛はなくてもせめてお互いを尊重しやっていけたなら…… そう考えていたウェンディに対してヨナスは、 はっきりと“お飾りの妃”を求めているのだと口にした。 それを聞いたウェンディは────…… ⋆˳˙ ୨୧…………………………………………………………………………………………………………………୨୧˙˳⋆ 関連作 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』 『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』 ※こちらのシリーズ作品のスピンオフとなります。 リクエストのありました、 全ての作品に出ていて記念日~ではヒーローにまで昇進した、 陽気な公爵令息エドゥアルトの両親の話。 時系列的に『誕生日当日~』より前の話。 なのでベビーは出ませんが、若かりし頃のガーネットは登場します。 (追記 その後を書いたのでベビーたちも登場しました)

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

処理中です...