7 / 152
6
しおりを挟む私を苦しめたのは、ハインリッヒの暴力だけじゃなかった。
「今回の狩猟大会には私がジャコブと参加するから、あなたは来なくていいわよ。不参加の手紙を出しておいて」
近々開かれる、狩猟大会の準備をしていた私は、許可もなしにずかずかと入ってきたクロエにそう言われ、愕然とした。
「今回の狩猟大会は、夫婦同伴のはずよ」
「だから、あなたは体調不良ということにして、私が代わりに行くわ」
「・・・・愛人のあなたが?」
怒りを抑えきれずにそう聞くと、クロエは不快感を露わにした。
「社交界のみんなは、私が本当の伯爵夫人だと知ってるわ。肩書しかないあなたとは違う、本物だって」
「・・・・・・・・」
「口答えをしたこと、ジャコブに報告しておくからね」
私がクロエに口答えすると、その後必ずと言っていいほど、ジャコブに呼び出された。
「クロエに、二度と口答えするな。彼女の言うことには、素直にうなずいておけばいいんだ」
「なぜ私がそんなことを? 肩書だけとはいえ、私はあなたの妻なのよ」
「俺にまで口答えするな!」
私が言い返すと、ジャコブは激高した。
「次に口答えをしたら、地下に閉じ込めるからな」
「・・・・・・・・」
凶暴な祖父には逆らえないくせに、私や使用人達には高圧的なジャコブを見ていると、身体の奥がすっと冷えていった。
婚約したばかりのころは、ジャコブに好かれようと精一杯努力した。好みや嫌いなことを探って、一緒にいる時間が心地よいものになるようにしたかった。ジャコブのことが好きかどうかは自分でもわからなかったけれど、結婚する以上、お互いを尊重しあえる、仲がいい夫婦でありたかったからだ。
でも、すべて無意味だった。
「クロエが私の子を産んだら、その子を君の子として、後継者にする」
ジャコブが恥知らずな考えを、堂々と宣言した時は、怒りを通り越して思わず笑ってしまった。私とジャコブの間には夫婦関係はないので、クロエの子を後継者にするしかなかったのだろう。
(クロエと結婚すればよかったのに・・・・)
いや、ジャコブがクロエと結婚できなかった理由は、わかっている。クロエは平民で、身分が絶対の貴族社会では到底、貴族との結婚など、許されない身の上だったからだ。そして身代わりにされた私が、こうして生贄にされているというわけだった。
(・・・・家に帰りたい・・・・)
夜、ベッドに入ると、平和だった日々に戻りたい、どうか実家に帰してくれと、神様に泣きながら願った。
ーーーーでもそれが叶わない願いであることを、私は知っていた。
両親の死後、アルムガルトの家督を引き継ぎ、家門を守っていた弟は、一年前に夭折してしまった。
モルゲンレーテでは、一応女性にも爵位継承を認めているものの、その爵位継承順位は男性よりも低く設定されてある。そのため弟を最後に、嫡流(ちやくりゆう)の男子がいなくなると、親戚が割りこんできた。
私は親戚との争いに負けて、当主の座を奪われたばかりか、追い出されるように結婚させられたのだ。
私に冷淡な親戚が、私が戻ってくることを許すはずがなかった。
(前世で読んだ本では、貴族令嬢の主人公が家を出るために、こつこつとお金を貯めていたわね・・・・私にもそれができればいいのに)
ファンクハウザーの資産はジャコブが運用していて、屋敷の維持費はクロエが管理している。私には、自由に動かせるお金が一銭もないため、こっそり貯めこむこともできない状態だった。
それに十分な資金を手に入れたとしても、私にはいく当てがない。中心部は平和に見えても、郊外に行けば危険な輩が堂々とうろついているような世界なのだから、女性が護衛をともなわずに、お金を持ってうろついているだけでも、とても危険なことだった。
ただ、穏やかに暮らすことを望んでいただけなのに。まるで過大な望みにたいする罰のように、今はただただ耐え忍ぶ毎日が続いている。
(いいえ、こんな日々だって長くは続かないはず。・・・・だって原作の続きを知っているアリアドナが、私は幸せになれると言ったのだから)
アリアドナのあの日の言葉だけが、私の最後の希望の糸だった。
ーーーーそんな悪夢のような日々が、一年も続いた。
0
あなたにおすすめの小説
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして
Rohdea
恋愛
────とうとうこの時が来たのね
決められた運命を受け入れて生きていくつもりだったのに────
貧乏国の王女のウェンディ。
貧乏だろうと王女として生まれたからには、国のために生きるのが当たり前。
そう思って生きて来た。
そんなある日、婚約が決まったことを父親から告げられる。
その相手は女癖が悪いという噂の他国の王子。
複雑な思いを抱くもこれは国のためにも受け入れるべき結婚。断るなんて選択肢はない。
そう腹を括ったウェンディに対して、なぜか様子がおかしくなったのは、
護衛騎士のエリオット。
そんな彼の様子を不思議に思いながらも、婚約者となった王子、ヨナスとの対面を果たすウェンディ。
愛はなくてもせめてお互いを尊重しやっていけたなら……
そう考えていたウェンディに対してヨナスは、
はっきりと“お飾りの妃”を求めているのだと口にした。
それを聞いたウェンディは────……
⋆˳˙ ୨୧…………………………………………………………………………………………………………………୨୧˙˳⋆
関連作
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』
『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』
※こちらのシリーズ作品のスピンオフとなります。
リクエストのありました、
全ての作品に出ていて記念日~ではヒーローにまで昇進した、
陽気な公爵令息エドゥアルトの両親の話。
時系列的に『誕生日当日~』より前の話。
なのでベビーは出ませんが、若かりし頃のガーネットは登場します。
(追記 その後を書いたのでベビーたちも登場しました)
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
小石だと思っていた妻が、実は宝石だった。〜ある伯爵夫の自滅
みこと。
恋愛
アーノルド・ロッキムは裕福な伯爵家の当主だ。我が世の春を楽しみ、憂いなく遊び暮らしていたところ、引退中の親から子爵家の娘を嫁にと勧められる。
美人だと伝え聞く子爵の娘を娶ってみれば、田舎臭い冴えない女。
アーノルドは妻を離れに押し込み、顧みることなく、大切な約束も無視してしまった。
この縁談に秘められた、真の意味にも気づかずに──。
※全7話で完結。「小説家になろう」様でも掲載しています。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる