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しおりを挟む「・・・・あなたはなぜ、私に真実を教えてくれたんですか?」
最後に思いついた疑問が、それだった。
バウムガルトナー侯爵はにこりと笑う。
「私達は色々な難題を抱えているものの、一つだけはっきりしていることがあります。それは、私達の目的が同じということです」
「同じ・・・・」
「さっき話したとおり、アリアドナの目的ははっきりしています。ーーーー原作ヒロインの立場を乗っ取って、皇后になることです。そして目的の邪魔になる要素は徹底的に排除、もしくは望み通りに操ろうとしている。前者はシュリアを貶めて排除することで、後者はーーーー」
「原作通り、私をラストボスにすること、ですね?」
問い返すと、バウムガルトナー侯爵はうなずいた。
「アリアドナはあなたに悪の枢軸になってもらって、ヒロインに成り代わった自分が、悪を打倒するという、原作の筋道をたどりたいんだと思います。でも、あなたは悪の枢軸として裁かれる結末なんて、望んでいないはず」
侯爵は私に、手を差し伸べてくれた。
「我々の利害は、一致している。ーーーー伯爵夫人。私に、手を貸してくれないでしょうか?」
「・・・・・・・・」
すぐには、うなずくことができなかった。
アリアドナが私に嘘をついたことは真実でも、それ以外のことはすべて、バウムガルトナー侯爵の推測にすぎない。それにバウムガルトナー侯爵が私を利用しようとして、嘘を言っている可能性だって捨てきれなかった。
「・・・・私の話を、すぐには信じられないでしょう」
私の表情から考えを読み取ったのか、侯爵はいったん手を引っこめる。
「逆の立場なら、私もそうだったと思います。後のことは、あなた自身に確かめてもらいたいと思っているんです」
アリアドナに会い、直接真実を聞きだせということなのだろう。
「でも、確かめたくても、私はこの家を出られません・・・・」
私は今、ファンクハウザーの邸宅に閉じこめられているような状況だ。確かめに行きたくても、高圧的なジャコブが相手では、外出さえままならない。
「私が、あなたがこの家を抜け出すための手助けをします」
バウムガルトナー侯爵が、そう言ってくれた。
「なぜ協力者に、私を選んでくれたんですか? 私には、何の力もない。ちっぽけな存在なのに・・・・」
バウムガルトナー侯爵が困っていることはわかった。でもなぜ、私を協力者に選んでくれたのか、その理由がわからない。お金も権力もなく、ただ日々を生きるだけの価値のない人間だ。
「ーーーー本当に、何の力もないと思いますか?」
「え?」
「何の力もない人間が、結末を締めくくるほどの悪役になれると思いますか? 原作のアリアドナが中盤で退場したのにたいし、あなたは最終章まで生き残るんですよ?」
「・・・・何か秘策があるということですか?」
バウムガルトナー侯爵は、笑みを深める。
「〝ホワイトレディ〟と呼ばれている神獣のことは知ってますね?」
「建国に関わった人物が使役していた、神獣ですよね?」
モルゲンレーテの国民なら、その名前を知らない人はいないだろう。皇祖の忠実な騎士が使役したと言われる、美しい神獣〝ホワイトレディ〟。演劇や小説などの題材として、今なおモルゲンレーテの人々を楽しませている。
「ーーーーあなたには、〝ホワイトレディ〟を使役する力があります」
「え?」
「原作であなたがラスボスとして君臨できたのは、ホワイトレディの力があったからなんですよ」
つかの間、言葉を失っていた。自分にそんな力があるなんて、想像したことすらなかった。
「神獣を支配するには、膨大な魔力量が必要なんです。なので最初の騎士が彼女を使役して以降、長い間、彼女を使いこなせるような人物は現れませんでした。下手に彼女に手を出そうとした者は一瞬で魔力を吸い尽くされ、死んでしまったという噂があるほどです」
「そ、そんな危険なものに手を出せと!?」
「しかし実際に原作のあなたは、ホワイトレディの使役に成功したんです。この世界は原作とまったく同じだとは言えませんが、原作のあなたにできたことが、この世界のあなたにもできる可能性は高いはず」
「・・・・・・・・」
バウムガルトナー侯爵の言葉は力強かったけれど、私は信じきれなかった。
「神獣を呼び出すためには、触媒が必要だと聞きました。ホワイトレディの触媒は数百年前に、皇宮の保管庫から何者かに持ち出されて以来、行方不明になっていると聞きましたが・・・・」
「ええ、そのとおりです。原作では、裏社会で売買されるうちに、長い年月が経ってしまい、その遺物がホワイトレディの触媒だということを知る者がいなくなってしまった、と記述されていましたね」
「それじゃあ、見つけるのは難しいんじゃ・・・・」
「私が見つけておきましたよ」
バウムガルトナー侯爵は涼しい顔でそう言い放つと、テーブルに水晶玉を置いた。
手の平にすっぽりと収まるていどの大きさのそれは、窓から差し込む光を浴びて、きらきらと輝いている。
「原作では今から三年後に、紆余曲折を経て、あなたの手元にわたることになってます。そこに、前の持ち主の名前も書かれてあったんですよ。ーーーーなので二年も待つ必要はないと思い、大幅に時短してみました。ゲームでよくやるショートカットですよ」
「・・・・・・・・」
水晶玉に魅入られるあまり、途中からバウムガルトナー侯爵の説明は耳に入らなくなっていた。
(こんな小さなものが、伝説の神獣の触媒なの?)
年代物の水晶玉は美しいものの、特徴と呼べるものは何もなく、祭りの日に露店に並べられていても違和感がないような代物だった。水晶玉は何も語らない代わりに、光を反射して何かを訴えているようにも見える。
「どうやってホワイトレディを呼び出すんですか?」
「その水晶玉に手の平をかざして、名前を呼ぶだけでいい。〝ホワイトレディ、呼びかけに応えよ〟ってね」
私は水晶玉に手をかざして、教えてもらった言葉を復唱しようとした。
「ストップ!」
バウムガルトナー侯爵の制止の声に、私は飛び上がりそうなほど驚いた。
「なな、なんですか?」
「ここで、触媒の力を解放しないでください。おそらくホワイトレディは出現時に、近くにいる人間の魔力を吸収しようとするでしょう。彼女は何百年もの間、冬眠してきたようなもので、相当飢えているはず。膨大な魔力量を持つあなたとは違い、私の魔力量は雑魚で、召喚士の才能などありません。魔力を吸い尽くされて、干からびたくないんです」
「・・・・・・・・」
「だからホワイトレディを呼び出すなら、私がいないところでやってください」
「・・・・わかりました」
触媒の水晶玉を、ジャコブに見られるわけにはいかない。どこに隠そうかと迷ったけれど、結局隠せる場所などスカートのポケットしかなかったので、私は水晶玉をポケットに入れる。モルゲンレーテで崇められる伝説の遺物なのに、扱いが雑かもしれないけれど、仕方がなかった。
「話を戻しましょう」
足を組みなおしてから、バウムガルトナー侯爵はあらためて私の顔を見た。
「私はあなたと、協力したいと考えています。しかし、あなたにも考える時間が必要でしょう。なのでまた後日、会いませんか? その時に、協力の申し出の答えが欲しいんです」
バウムガルトナー侯爵は私の気持ちを汲みとり、考える時間を与えてくれたようだった。
「・・・・ありがとうございます」
誰かに、こんなふうに気づかってもらうのは、何年ぶりだろう。
この一年間はずっと、無視されたり、拒絶されたりするばかりだったから、バウムガルトナー侯爵の態度や言葉を、特別温かく感じた。彼に、私を自分の陣営に引き入れたいという思惑があるからだとしても、私の気持ちに寄り添ってくれる言葉に、涙が出そうだった。
「・・・・閣下。今後は私にたいして、敬語は必要ありませんよ。閣下のほうが年上なのですから」
「そうかい? 堅苦しいのは苦手なんで、助かるよ」
バウムガルトナー侯爵は、朗らかに笑った。
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