二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

文字の大きさ
13 / 152

12

しおりを挟む


「・・・・あなたはなぜ、私に真実を教えてくれたんですか?」


 最後に思いついた疑問が、それだった。


 バウムガルトナー侯爵はにこりと笑う。


「私達は色々な難題を抱えているものの、一つだけはっきりしていることがあります。それは、私達の目的が同じということです」

「同じ・・・・」

「さっき話したとおり、アリアドナの目的ははっきりしています。ーーーー原作ヒロインの立場を乗っ取って、皇后になることです。そして目的の邪魔になる要素は徹底的に排除、もしくは望み通りに操ろうとしている。前者はシュリアを貶めて排除することで、後者はーーーー」

「原作通り、私をラストボスにすること、ですね?」


 問い返すと、バウムガルトナー侯爵はうなずいた。


「アリアドナはあなたに悪の枢軸すうじくになってもらって、ヒロインに成り代わった自分が、悪を打倒するという、原作の筋道をたどりたいんだと思います。でも、あなたは悪の枢軸として裁かれる結末なんて、望んでいないはず」



 侯爵は私に、手を差し伸べてくれた。




「我々の利害は、一致している。ーーーー伯爵夫人。私に、手を貸してくれないでしょうか?」



「・・・・・・・・」



 すぐには、うなずくことができなかった。


 アリアドナが私に嘘をついたことは真実でも、それ以外のことはすべて、バウムガルトナー侯爵の推測にすぎない。それにバウムガルトナー侯爵が私を利用しようとして、嘘を言っている可能性だって捨てきれなかった。



「・・・・私の話を、すぐには信じられないでしょう」


 私の表情から考えを読み取ったのか、侯爵はいったん手を引っこめる。


「逆の立場なら、私もそうだったと思います。後のことは、あなた自身に確かめてもらいたいと思っているんです」


 アリアドナに会い、直接真実を聞きだせということなのだろう。


「でも、確かめたくても、私はこの家を出られません・・・・」


 私は今、ファンクハウザーの邸宅に閉じこめられているような状況だ。確かめに行きたくても、高圧的なジャコブが相手では、外出さえままならない。


「私が、あなたがこの家を抜け出すための手助けをします」


 バウムガルトナー侯爵が、そう言ってくれた。


「なぜ協力者に、私を選んでくれたんですか? 私には、何の力もない。ちっぽけな存在なのに・・・・」


 バウムガルトナー侯爵が困っていることはわかった。でもなぜ、私を協力者に選んでくれたのか、その理由がわからない。お金も権力もなく、ただ日々を生きるだけの価値のない人間だ。



「ーーーー本当に、何の力もないと思いますか?」


「え?」

「何の力もない人間が、結末を締めくくるほどの悪役になれると思いますか? 原作のアリアドナが中盤で退場したのにたいし、あなたは最終章まで生き残るんですよ?」

「・・・・何か秘策があるということですか?」


 バウムガルトナー侯爵は、笑みを深める。



「〝ホワイトレディ〟と呼ばれている神獣しんじゅうのことは知ってますね?」



「建国に関わった人物が使役していた、神獣ですよね?」


 モルゲンレーテの国民なら、その名前を知らない人はいないだろう。皇祖の忠実な騎士が使役しえきしたと言われる、美しい神獣〝ホワイトレディ〟。演劇や小説などの題材として、今なおモルゲンレーテの人々を楽しませている。



「ーーーーあなたには、〝ホワイトレディ〟を使役する力があります」



「え?」



「原作であなたがラスボスとして君臨できたのは、ホワイトレディの力があったからなんですよ」



 つかの間、言葉を失っていた。自分にそんな力があるなんて、想像したことすらなかった。


「神獣を支配するには、膨大な魔力量が必要なんです。なので最初の騎士が彼女を使役して以降、長い間、彼女を使いこなせるような人物は現れませんでした。下手に彼女に手を出そうとした者は一瞬で魔力を吸い尽くされ、死んでしまったという噂があるほどです」

「そ、そんな危険なものに手を出せと!?」

「しかし実際に原作のあなたは、ホワイトレディの使役に成功したんです。この世界は原作とまったく同じだとは言えませんが、原作のあなたにできたことが、この世界のあなたにもできる可能性は高いはず」

「・・・・・・・・」


 バウムガルトナー侯爵の言葉は力強かったけれど、私は信じきれなかった。


「神獣を呼び出すためには、触媒が必要だと聞きました。ホワイトレディの触媒は数百年前に、皇宮の保管庫から何者かに持ち出されて以来、行方不明になっていると聞きましたが・・・・」

「ええ、そのとおりです。原作では、裏社会で売買されるうちに、長い年月が経ってしまい、その遺物がホワイトレディの触媒だということを知る者がいなくなってしまった、と記述されていましたね」

「それじゃあ、見つけるのは難しいんじゃ・・・・」


「私が見つけておきましたよ」


 バウムガルトナー侯爵は涼しい顔でそう言い放つと、テーブルに水晶玉を置いた。



 手の平にすっぽりと収まるていどの大きさのそれは、窓から差し込む光を浴びて、きらきらと輝いている。



「原作では今から三年後に、紆余曲折うよきょくせつを経て、あなたの手元にわたることになってます。そこに、前の持ち主の名前も書かれてあったんですよ。ーーーーなので二年も待つ必要はないと思い、大幅に時短してみました。ゲームでよくやるショートカットですよ」

「・・・・・・・・」


 水晶玉に魅入られるあまり、途中からバウムガルトナー侯爵の説明は耳に入らなくなっていた。


(こんな小さなものが、伝説の神獣の触媒なの?)


 年代物の水晶玉は美しいものの、特徴と呼べるものは何もなく、祭りの日に露店に並べられていても違和感がないような代物だった。水晶玉は何も語らない代わりに、光を反射して何かを訴えているようにも見える。


「どうやってホワイトレディを呼び出すんですか?」

「その水晶玉に手の平をかざして、名前を呼ぶだけでいい。〝ホワイトレディ、呼びかけに応えよ〟ってね」


 私は水晶玉に手をかざして、教えてもらった言葉を復唱しようとした。



「ストップ!」



 バウムガルトナー侯爵の制止の声に、私は飛び上がりそうなほど驚いた。



「なな、なんですか?」

「ここで、触媒の力を解放しないでください。おそらくホワイトレディは出現時に、近くにいる人間の魔力を吸収しようとするでしょう。彼女は何百年もの間、冬眠してきたようなもので、相当飢えているはず。膨大な魔力量を持つあなたとは違い、私の魔力量は雑魚で、召喚士の才能などありません。魔力を吸い尽くされて、干からびたくないんです」

「・・・・・・・・」

「だからホワイトレディを呼び出すなら、私がいないところでやってください」

「・・・・わかりました」


 触媒の水晶玉を、ジャコブに見られるわけにはいかない。どこに隠そうかと迷ったけれど、結局隠せる場所などスカートのポケットしかなかったので、私は水晶玉をポケットに入れる。モルゲンレーテで崇められる伝説の遺物なのに、扱いが雑かもしれないけれど、仕方がなかった。



「話を戻しましょう」


 足を組みなおしてから、バウムガルトナー侯爵はあらためて私の顔を見た。


「私はあなたと、協力したいと考えています。しかし、あなたにも考える時間が必要でしょう。なのでまた後日、会いませんか? その時に、協力の申し出の答えが欲しいんです」


 バウムガルトナー侯爵は私の気持ちを汲みとり、考える時間を与えてくれたようだった。


「・・・・ありがとうございます」


 誰かに、こんなふうに気づかってもらうのは、何年ぶりだろう。



 この一年間はずっと、無視されたり、拒絶されたりするばかりだったから、バウムガルトナー侯爵の態度や言葉を、特別温かく感じた。彼に、私を自分の陣営に引き入れたいという思惑があるからだとしても、私の気持ちに寄り添ってくれる言葉に、涙が出そうだった。



「・・・・閣下。今後は私にたいして、敬語は必要ありませんよ。閣下のほうが年上なのですから」

「そうかい? 堅苦しいのは苦手なんで、助かるよ」


 バウムガルトナー侯爵は、朗らかに笑った。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea
恋愛
────とうとうこの時が来たのね 決められた運命を受け入れて生きていくつもりだったのに──── 貧乏国の王女のウェンディ。 貧乏だろうと王女として生まれたからには、国のために生きるのが当たり前。 そう思って生きて来た。 そんなある日、婚約が決まったことを父親から告げられる。 その相手は女癖が悪いという噂の他国の王子。 複雑な思いを抱くもこれは国のためにも受け入れるべき結婚。断るなんて選択肢はない。 そう腹を括ったウェンディに対して、なぜか様子がおかしくなったのは、 護衛騎士のエリオット。 そんな彼の様子を不思議に思いながらも、婚約者となった王子、ヨナスとの対面を果たすウェンディ。 愛はなくてもせめてお互いを尊重しやっていけたなら…… そう考えていたウェンディに対してヨナスは、 はっきりと“お飾りの妃”を求めているのだと口にした。 それを聞いたウェンディは────…… ⋆˳˙ ୨୧…………………………………………………………………………………………………………………୨୧˙˳⋆ 関連作 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』 『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』 ※こちらのシリーズ作品のスピンオフとなります。 リクエストのありました、 全ての作品に出ていて記念日~ではヒーローにまで昇進した、 陽気な公爵令息エドゥアルトの両親の話。 時系列的に『誕生日当日~』より前の話。 なのでベビーは出ませんが、若かりし頃のガーネットは登場します。 (追記 その後を書いたのでベビーたちも登場しました)

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

処理中です...