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しおりを挟むそうして、私がアルムガルト侯爵になってから、二年の時が流れた。
私とクリストフの二年は、多忙を極めた。荘園の運営や事業のために、皇都と領土を何度も行き来しなければならなかったからだ。
でも家門の力を取り戻すため奔走した結果、弱っていた家門を少しずつではあるものの、立て直せつつある。
シュリアも十六歳になり、二年間、慈善活動を続けたおかげで、民衆の間で彼女のことが話題に上がるようになっていた。私とクリストフが監修した、シュリアをモデルにした演劇も盛況で、狙い通りに進みつつある。
私の世間での評判の悪さは、相変わらずだ。さすがに私をモデルにした劇が公演されることはなくなったものの、私の名前は、悪女の代表名として定着した感がある。
でもその一方で、荘園の経営や、色々な事業への投資はこの上なく順調だった。成果によってボーナスを出すという方法がうまく運んで、荘園の生産性は年々上がっている。品種改良に力を入れたことも、事態を好転させた要因だった。
でもヴュートリッヒや他の勢力に警戒されないため、表向きは貧乏貴族のふりを続けている。
この二年の間に、皇宮ではある重大な事件が起こっていた。
ーーーーずっと臥せっていた皇太子のダミアン殿下が、亡くなってしまったのだ。
ダミアン殿下の死は、皇宮に混乱をもたらした。
陛下はダミアン殿下の死を嘆き悲しみ、喪に服している間は、次の皇太子を指名しなかった。陛下の悲しみは深く、食事が喉を通らなくなるほどだった。陛下が最後の皇后と死別して以降、皇后の位も空席のままなので、貴族の間では、このまま陛下にまで何かあったら、皇室はどうなるのかという不安が広がっていた。
「次の皇太子を指名べきです」
そう主張する貴族も多かったけれど、陛下は無視した。
皇子は四人いるけれど、ダミアン殿下が亡くなった直後は、継承権を持つ皇子はベルント殿下とフィリップ殿下の二人だけだったので、次の皇太子には、二人の名前を挙げる貴族が多かった。
「この機に、コルネリウス殿下やヨルグ殿下の継承権を復活させるべきではないですか?」
一方でそんな意見を口にする者達もいた。
ダミアン殿下の異母兄であるコルネリウス殿下とヨルグ殿下は、継承権を奪われている。
モルゲンレーテでも年長者が皇太子に選ばれるのが一般的だったから、三男のダミアン殿下を皇太子にしたかった陛下が、二人の兄の母親との婚姻無効を申し出て、二人から皇子の称号を奪ってしまったからだ。
「陛下、コルネリウス殿下やヨルグ殿下を、皇子として認めるべきです」
これを好機とみて、コルネリウス殿下とヨルグ殿下の母方の実家が、継承権の復活を働きかけた。
ーーーー失意の陛下は、これを了承し、二人の皇子は継承権を取り戻すことができた。
とはいえ、二人の皇子の先行きは明るくない。離婚は政治的な判断で、本人達やその母親達にまったく落ち度はないとはいえ、一度庶子に落とされたという過去は、二人の皇子の評判に暗い影を落としていた。
その上、陛下は二人の継承権は認めたものの、長男であるコルネリウス殿下を皇太子に指名することもなかったので、依然として貴族達の不安が払拭されることはなかった。
「一体、誰が次の皇太子になるのか・・・・」
私とクリストフも、この問題に頭を悩ませることになった。誰が皇太子になるかで、家門の未来が大きく変わるからだ。
「できれば、第四皇子のベルント殿下や、第五皇子のフィリップ殿下じゃないといいんだが・・・・」
アリアドナが、仲がいい第四皇子と第五皇子に私達の悪口を吹きこんだため、彼らは私とクリストフを毛嫌いしていた。クリストフは二人に冷淡な態度をとられているし、私に至っては、社交場でも公然と無視されるような状況だ。特にベルント殿下は、毒婦とは話したくないと公言しているらしい。
「その二人はもう、アリアドナの虜ですからね」
「魅惑の瞳の力か、それともアリアドナがよっぽどうまく立ち回ったか・・・・特にフィリップ殿下はもう、アリアドナ以外は眼中にない状態だ」
「二人をアリアドナから引き離したくても、もう無理ですね・・・・」
自分達が置かれた状況が絶望的に思えて、対策を話し合うために集まったのに、気づけばそろって溜息ばかりついている状況だった。
「でもどの皇子が皇太子に選ばれるかは、アリアドナの動きを見ていればわかるんじゃないでしょうか。アリアドナは原作で誰が皇太子に選ばれるか知っているはずだし、目標は皇后になることですから、皇太子になる皇子の好感度を上げようとしているはずです」
最終的な目標が皇后になることなら、皇太子の心をつかんでおく必要がある。だったら、アリアドナが四人の皇子の誰に狙いを定めているかで、次の皇太子がわかるだろう。
ところがクリストフは、苦笑いを浮かべた。
「・・・・アリアドナは皇子全員に粉をかけてるから、無理だろう」
「・・・・・・・・」
アリアドナの浮気性な性格に、攪乱される日が来るとは思わなかった。この件に関しては、アリアドナは皇子達にちやほやされたいだけで、こちらを翻弄するつもりがないのだから、なおさら厄介だ。
「・・・・ということは、もうコルネリウス殿下とヨルグ殿下も、アリアドナの手中に落ちていると考えるべきですか?」
「二人は庶子に落とされてから、社交界にあまり出てきていないから、何とも言えないが・・・・二人とも気難しい性格なのに、アリアドナには気を許しているという情報がある。だからその可能性は高いだろうな」
「・・・・・・・・」
だったらなおさら、状況は絶望的だ。溜息をつかないようにと気を引き締めたそばから、無意識に溜息が口からこぼれていた。
「・・・・今の我々にできることはないな」
「・・・・そうですね。様子を見ることにしましょう」
そう結論付けるしかなかった。
運が良ければ、個人的な感情と、家門との付き合いを分けて考えてくれる人が皇太子になるかもしれない。
「それから、アリアドナのことですが」
皇太子の問題に関する話題が尽きたところで、私は次の話題に映った。
「・・・・最近アリアドナが、不穏な動きを見せています。もしかしたら近いうちに彼女が次の、〝聖女計画〟のために事件を起こすかもしれません」
アリアドナが、自分が聖女になるために撒き散らす混乱と解決のことを、私達はいつの間にか、〝聖女計画〟と呼ぶようになっていた。
「不穏な動きとは?」
「アラーニャのメンバーに、接触していたんです」
ホワイトレディの力で監視しているうちに、アリアドナの一日のルーティンはあるていど把握できた。午前は邸宅でゆっくり過ごしたり、買い物をしたり、同じ年頃の令嬢達とティーパーティーをしたりして過ごし、夜になると社交場に出かけていく。それがアリアドナの一日だった。
でもある日突然、そのルーティンが変わった。ティーパーティーに参加する代わりに、アリアドナはアラーニャのメンバーと接触したようだ。
「会話の内容は?」
「すみません。ヴュートリッヒの邸宅は広いから、結界のほころびを見つけることができたんですが、アラーニャの拠点の結界は突破できませんでした」
二人の会話の内容を知りたかったけれど、結界に阻まれてできなかった。
「アラーニャの拠点に潜り込む方法を探します」
「いや、無理はするな。向こうに、会話を盗み見られていると気づかれるのはまずいし、君も魔力の消耗を少なくしたほうがいい」
「はい・・・・」
「アリアドナが動くことがわかっただけで十分だ。今は、様子を見よう」
「はい」
私達は表情を引き締め、うなずきあった。
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