二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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「・・・・話を戻しましょう。クリストフは、誰が次の皇太子に選ばれると思いますか?」


 ヨルグ殿下に同情している場合じゃない。私は、私が生き残る方法を探るだけで、精一杯なのだから。



「やはりベルント殿下が強いな」


 結局クリストフの結論は、変わらなかった。


「ベルント殿下には、大貴族のフックスの後ろ盾があるしな」

「コルネリウス殿下は勝てませんか? 彼の実家も、強いでしょう?」

「コルネリウス殿下はやはり・・・・母親が離婚を突き付けられたことと、庶子に落とされたという過去が、足を引っ張ってるな」

「庶子の件に関しては、皇子達には何の落ち度もないじゃないですか。ダミアン殿下を皇太子にするためだけの、政治的な動きだったんでしょう?」

「ああ、本人達には何の落ち度もない。・・・・だが、一度ついてしまった悪い風評というのは、なかなか消えないものなんだ。君だって今も、根も葉もない噂に苦しめられているだろう?」


 元夫を貶めた悪女という私の悪評は、いまだ消えていない。私がその夫と、夫の祖父に虐待されていたという真相を知った人ですら、私を悪女と罵ることを止めなかった。


「ベルント殿下が皇太子に選ばれたら、モルゲンレーテが抱える根本的な問題は、解決しそうにありませんね」

「だろうな」


 クリストフは溜息をこぼす。


「・・・・この国は歴史が長いせいで、古くからある大貴族が力を持ちすぎている。彼らが利益を独占するために、自由競争を妨害するから、いつまで経っても市場が解放されない。次の皇帝がベルント殿下なら、ディートマル陛下の政治方針を、そのまま踏襲して、この問題には着手しないだろうな」


 歴史が長い国にありがちなことだけれど、モルゲンレーテでも古くからある家門が力を持っている。彼らが自分達の利益を守るために、競争相手を潰して回っているという問題があった。


「市場が健全に回らなければ、いかに大国でも衰退して、競争力で周辺諸国に負けることになるだろう。・・・・なのに貴族達の多くが、国益よりも目先の利益を追求している。モルゲンレーテがこれまでのように、いつまでも強大な大国として君臨し続けられると、本気で思っているんだろうか」


「平和な時代が長く続きすぎたんでしょう。危機感が薄れたことが、今の衰退の原因なんだろうと思います」



 言葉が尽きて、会話の末尾は二人の溜息で締めくくられてしまった。



「それで、実際にヨルグ殿下に会ってみた感想は?」


 暗い話を続けたくなかったのか、クリストフが唐突に話題を変えてきた。


 私は少し考えてから、口を開く。


「金髪のイケメンでした」

「他にはないのかい?」

「助けてくれたのは意外でした。噂とは違い、優しいところもあるようです。でも、荒っぽいという噂も間違っていませんね」


 ヴュートリッヒの騎士達を反省させるためとはいえ、馬上から叩き落すという行為には、賛否あると思う。被害に遭った私は痛快だったけれど、他の人達は眉をひそめたり、ヨルグ殿下のほうを悪く言う人もいるはずだ。


「あとは・・・・」

「あとは?」

「普通、金髪の王子様といえば、おとぎ話の王子様みたいな人を思い浮かべるはずなんですが・・・・そのイメージからは、かけ離れていましたね」

「何を今さら。ベルント殿下だって、皇子様とは思えない、偉そうな顔じゃないか。皇子達はみんな目つきが悪いから、あれは遺伝だな」

「・・・・・・・・」

「それにしてもーーーー曲者ぞろいの皇子達の中でも、一番厄介な存在だと思っていたヨルグ殿下が、人助けをするとは・・・・明日は槍が降りそうだ」

「そ、そこまで言いますか?」


「だって、あのヨルグ殿下だぞ? 十歳にして、皇宮で剣を抜きはなった上、自分を侮辱した貴族を斬ろうとした、あの荒くれ者だ!」


「こ、子供のころの話ですし・・・・私の代わりに、ヴュートリッヒの騎士に仕返しまでしてくれたんですよ。ヨルグ殿下にも、優しいところもあったという話で、いいじゃないですか」


 ヨルグ殿下にも優しいところがあったで終わる話なのに、クリストフはまったく信じてくれない。一体彼の中のヨルグ殿下のイメージは、どうなっているのだろうか。



 なんにせよ、ヴュートリッヒの騎士達のせいで最悪だった気持ちが、ヨルグ殿下やクリストフのおかげで、持ち直すことができた。


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